第二話 入学前
紅茶の湯気が立ち上る庭でクッキーを摘みながら名簿表を確認する。
「今年は生産系が多い様じゃの。」
呟かれた言葉に反応して兵隊の人形が喋り出す。
「戦闘系232人、支援系168人、生産系200人、合計600人デス。」
「おお、そうか。」
門に掛かっている鈴が鳴り、白衣を着た男が歩いて来るのが見える。
「お食事中すみません、例の新入生が到着したようです。」
「早いのう····。」
「現在の、時刻は9時21分デス。」
「····校長が遅いのでは?」
「はて?聞こえんのう。」
上着を羽織り事務室に向かう。
道の横に群生している紫色の花が目を彩る。
「綺麗じゃのう··あれは確か····。」
「ミヤコワスレですね。研究者の1人が故郷から持って来て育てたそうで···。」
事務所の扉を開けて、鍵をポケットに仕舞う。
事務室の中に入ると1人の青年がパイプ椅子に座っていた。
「おい、お前!どこから入った!」
声を荒らげる副校長を手で軽く制して、青年に話し掛ける。
「招かれていないのにもう席に座るのか?」
「招かれていないだって?」
青年は悪戯っぽく口を歪ませてパーカーのポケットから手紙を取り出す。
「ここに書いてあるじゃないか、本校への入学を許可します フォン・ローゼンよりってね。」
「お前!何を····」
「ふふふっ····こりゃ一本取られたわい。ビルマ君、席に座りたまえ。」
簡易的な机を挟んで青年と向き合う。
美青年という訳では無いが、好印象を抱かせる風貌、今から入学する学校の校長に対する大胆な振る舞い。
想像とは少し違ったが。
この男···面白い。
「君の名前と生年月日を確認しよう。」
「赤志 凰牙、2398年6月17日。」
「悪魔との戦闘経験は?」
「無し。」
「本校で学びたい事は?」
「悪魔と戦う機会の得方と····親について。」
「親について知っている事を話してくれ」
「何も。」
罠ではないか····。
この男は親について何も知らないそれだけは確かだ。
「最後に質問はあるかの?」
「何故、この学校に呼ばれたのか教えて欲しい。」
「ふむ、そうか。」
確かになんの面識もない人間に学校に入れてやると言われてるのだから当然の疑問か···。
だが、まだ本当の事は言えない。
「本校はもっとも適した人間を生徒に選ぶ、わしは校長としての仕事をしただけじゃ。」
「····分かりました。」
「君の部屋は既に用意してある。入学式は4月5日だからそれまでは自由に島を散策してよい。」
寮の鍵とスマホを渡す。
「このスマホは大事な物じゃ。くれぐれも無くさないようにな。細かい使い方は入学してから教えてもらうとして····今このスマホには10万円分のポイントが入っている。新学期が始まるまでの食事、生活用品、その他もろもろはこれで買ってもらう。」
「じゅ、10万!?いくらなんでも····。」
「まぁ受け取れい、わしからの入学祝いじゃ。」
スマホを押し付けて事務所から出る
「ちょ、ちょっとまっ····」
「では···いい新学期をな!」
混乱する青年を置いて学校に向かう。
まだまだ仕事が残ってる。
今日は確か担任教師の確認と施設の人員選びだ。
「校長!あんな雑な説明で良いんですか!?」
付いてきたビルマが食ってかかる
「なぁに、子供は環境さえ整えれば勝手に成長するもんじゃ。」
それに、と続ける
「さっきのお返しじゃよ」