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恋初め  作者: 紅和
2/12

2. あなたは誰ですか

「都ー! 早く早く!!」


 昼休み、どうして私はこんなところにいるんだろう。

 いつものように、鈴佳ちゃんとお昼を食べた。

 そのあと、いつものようにおしゃべりするはずだった。


 なのに……鈴佳ちゃんに半ば引っ張られるような感じで、私は今、体育科にきている。

 もちろん回りは男の子ばっかりで、怖い……。


「鈴佳ちゃん……戻ろうよー」


 言ってみるけれど、鈴佳ちゃんは聞いてない。









 やっと離してもらえたときには、もう『体育科2-1組』の教室に着いていた。


「鈴佳ちゃん。何するの?」


 ここまで来れば大体わかるけれど、一応聞いてみる。


「もちろん、喋るの! ……あ、遼ちゃん!」


 鈴佳ちゃんが手を振ったほうを見てみると、かっこいい人がいた。

 その人が笑いながらこっちへくる。


「おー成田っちじゃん。そっちの子は?」


「あたしの友達の、高橋都。都、これが言ってた、転校生の三原君」


 近くで見てもかっこいい。でも、なんていうんだろう……軽そう?

 それが第一印象だった。


「こ……こんにちは」


 一応挨拶してみる。周りの視線は、今は忘れることにした。


「よろしくー。俺、三原遼。遼ちゃんって呼んで」


 テンションが高い。たぶん今、私の笑顔はひきつっていると思う。


「高橋都です。よろしく……」


「都ちゃんね! よろしく!」


 手を差し出されて、ますます困った。どうしよう…………。


「あれ、遼ちゃん。昨日と髪型違うねー」


 鈴佳ちゃんが話をふってくれたおかげで、握手をしないですんだ。

 心の中でちょっと感謝。


「おう。今日はワックスで散らしてみました。どう?」


 綺麗に散った短めの髪を軽くなでながら、三原君がおどけて言う。


「あらほんと。かっこいー」


 鈴佳ちゃんもおどけて返す。

 そんな会話ができる鈴佳ちゃんが、うらやましいような気になった。

 私なら、普通に、無難に返すしかできないだろうな、なんて。









「……あっ!」


 鈴佳ちゃんと三原君の会話を聞いていると、本当にノリがよくておもしろかった。

 そんな中で、鈴佳ちゃんがいきなり声をあげた。

「え? 何、どうした?」


「忘れてたー。担任のとこ行かなきゃ」


「呼び出しかー?」


「そうよー。すぐ戻ってくるから、都、勝手に教室戻らないでね! じゃっ!」


 そう言って、鈴佳ちゃんは走っていった。

 ……困る、どうしよう……喋れないよ……?


「おー。成田っち走るの速」


「……鈴佳ちゃんは運動できるから」


 とりあえず、沈黙にはならないようにしようと思う。


「そうなんだ。都ちゃんは?」


「私はだめ。もう、全然」


「へえー。あ、でも何かわかるかも」


「え?何で?」


「だってさ……」


 三原君はそう言うと、かがんで私の足を指差した。


「ほら、筋肉なさそう」


 そのまま突付かれる。


「えっ。そう? 普通だよ」


 声が自然と裏返った。

 気づかれてないといいけど。


「いやいや、ないでしょー。これは」


 よかった。気づかれなかったみたい……。


「えー。あるよー」


「……んじゃ、力入れてみてよ」


「……うん……はい」


「あ、ほんとだ。結構あるかも」


「…………」


 触られたふくらはぎから、手の熱が伝わる。

 でも、ちょっと嫌な感じ。


「あ、あの……」


 限界だった。


「三原~。それセクハラ」


 別の方向から声がしたのは、もう私が拒否しようと思っていたとき。


「高橋さん、嫌がってるぞ」


 声がちょっと近くなって、それとほぼ同時に、私の足に触っていた三原君の手が退いた。


「いやー筋肉をちょっとね」


「それ、立派にセクハラだから」


 立ち上がった三原君より少し背の高い、男の人。

 優しそうな顔立ちと、優しそうな声。


「高橋さん。こいつに近づいたら危ないから、教室戻りな」


 振り返ってそう言う。


「……でも、鈴佳ちゃん……友達待たなきゃいけないし……」


 本当は帰ってしまいたいけれど、鈴佳ちゃんに悪い。


「行こう」


 手を取られて、軽く引っ張られた。自然と動く足。


「え、ちょ、ちょっと……」


 慣れていない骨ばった男の人の手。


「都ちゃん、またねー!」


 なんて、後ろで三原君が言ってる。




 前を行くのは、名前も知らない人。掴まれた手は成されるがまま……。

 そのまま国際科棟までつれてこられた。


「高橋さん。男苦手でしょ」


 手をやっと離してもらえて、見上げると言われた。


「…………はい」


「あ、手ごめん」


「いえ……」


「じゃ、気をつけて」


「……は……?」


 さわやかな笑顔と謎な言葉を残して、そのままその人は去っていく。


 握られた手も、さっきの三原君ほど嫌じゃなかった。……気がする。


「……あ、ありがとう」


 困ってたところを助けてくれたお礼。

 手をあげて答えてくれた。





 ねえ、貴方は誰ですか。




 後姿に、聞いた。

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