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恋初め  作者: 紅和
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1. 恋って何ですか

「ねえ、麻季ちゃん。人に恋するってどんな感じ?」


 前からずっと不思議だったこと。

 ソファーで寝転びながらテレビを見ているお姉ちゃんに聞いてみる。

 恋って……恋ってどんな気持ちを言うのかな、なんて。


「何、いきなり。恋?」


 笑いながらお姉ちゃんがこっちを向いた。

 妹の私から見てもかわいいと思う。

 それから、右手の薬指に光る、指輪。

 いいなあ……なんて、うらやましくなってしまう。


「うん、恋。どんな感じ?」


 床に座ったまま、もう一度聞いてみる。

 ちょっとはにかんだ顔をして、お姉ちゃんが言った。


「うーん……説明できないなあ……。そのうちわかるよ、きっと」


 そう言って柔らかく微笑むお姉ちゃん。



 ねえ、そのうちっていつ?



 これも聞いてみたかったけれど、やめておいた。









「転校生が来るんだってよ?」


 いつものように入った教室で、鈴佳ちゃんが言った。


「え?」


 この時期に転校生?


「あー、どんな男かなあ……かっこいいかなあ……」


 男の子? おかしくない? それ。


「女子クラスなのに男の子なの?」


 素直に聞いただけなのに、笑われた。


「やだなあ、もう。体育科に来るに決まってるじゃん。もう、やだなあ」


「知らないよ、そんなの」


 ちょっと拗ねてみる。

 そうしたら、鈴佳ちゃんはまた笑った。


「今日もかわいいねえ、都」


 何だか喜べないのは、おもちゃにされている気がするからかな。

 もう少し話していたかったけれど、先生がきたから席に着く。

 鈴佳ちゃんはまだ笑っていた。




 うちの高校には、国際科と普通科と、体育科がある。

 普通科は共学で国際科は女子、体育科は男子。私は国際科。

 女ばっかり35人ははっきり言ってうるさいけれど、やりやすいといえばやりやすい。

 みんなおもしろいしね。

 だけど、ただ一つ、私に理解できないこと。……それは、恋の話。

 さっき鈴佳ちゃんが言っていたみたいなそんな話。



 ねえ、恋ってそんなにいいものなの?



 斜め斜め前の鈴佳ちゃんの背中に、そっと問いかけてみた。









「ちょっと、鈴佳! 例の転校生、ほんとにかっこいいよ!」


 そんな言葉に昼休みのざわつきがいっそう大きくなる。

 向かい合ってお昼ご飯を食べていた鈴佳ちゃんも、ばっちり反応した。


「え、ほんとに!? 待って待って、一緒に見に行く!」


 残っていたおかずをパクパクっと食べて、鈴佳ちゃんは立ち上がった。

 それから、体育科棟に行こうとしている子たちのほうへ走っていった。


「都! ちょっといってくるね」


 そう言い残して、楽しそうに教室を出て行く。

 間違いなく、ミーハーだと思う。鈴佳ちゃんは。

 一人残された私は、また、お昼ご飯の続きを食べだした。

 鈴佳ちゃんはたぶん、5時間目ぎりぎりに帰ってくるだろうな……なんて思いながら。




 食べ終わって一息、他の友達何人かと集まっておしゃべりをしていたら、さっき教室を出て行った「転校生チェックツアー」のみんなが帰ってきた。

 あ、きっとほんとにかっこよかったんだな。

 見ただけでぱっとわかるくらい、みんなの顔に出ている。

 その集団から離れて、鈴佳ちゃんがこっちへ来た。


「ちょっと聞いて! ほんとにかっこよかったの!!」


 まだ興奮が冷めてない様子で言った。顔がちょっと赤い。


「どんな感じだった?」


 チャイムがもうすぐ鳴るけれど、聞いてみる。


「うーんとね……ハンサムって感じかな。サッカー部に入るらしいよ。あ、あと、すっごいおもしろい人だった。ノリがよくってさ。」


「ふーん……それはよかったね」


「そうだよ! 次は都も行こうね。絶対!」


 私は、ちょっとだけ男の子が苦手だったりする。

 苦手というよりは、「慣れてない」って言ったほうが正しいかもしれないけれど。

 だって、小さい頃から男の子とは無縁だったから。

 それが今になって何となく影響しているみたいで。

 普通科に行くのにも、緊張してしまう……体育科なんてとんでもない。

 一人じゃ絶対に行けない。



 とりあえず、鈴佳ちゃんの誘いに曖昧に返事をしてから席に戻った。

 私が男の子をちょっとだけ苦手だってこと、鈴佳ちゃんは知らないから少し不思議そうな顔をしていたけれど。それには気づかないふりをしてみた。

 つっこまれなかったのは、ありがたいと思った。









『都? 私、今日帰らないって、母さんに言っておいてくれる?』


 夕方、買い忘れていたマヨネーズを買いに母さんが出かけたあと、お姉ちゃんから電話があった。


「うん。わかった。……うん、じゃあね」


 きっと彼氏のところにお泊りするんだ。

 幸せそうに微笑むお姉ちゃんの顔を思い浮かべると、うらやましいな、って思う。

 どんな人があの指輪を送ったんだろう、だとか、関係のないことまで考えてみたりして。



 自分の部屋に戻って、ベッドに寝転ぶ。



 恋って、いいもの、なのかな?

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