時計の針
僕は毎年晩夏の時期が好きだ。
力強い季節を越えて、静寂へと踏み出す季節。
そんなとき、命の終わりを感じる。
祭のあと。
全国津々浦々で郷土祭も終わり、静かな日常へと戻る瞬間。
楽しかった帰省を経て、皆が静かな日常へと戻っていく。
毎年のことだが、僕の実家ではお盆に迎え火と送り火をする風習がある。
行きは緑の馬に乗ってとにかく早く。
帰りは濃紫の牛に乗ってゆっくりと。
送り火を焚いて、ふと牛を見る。
そこには先客。
涼み客。
どこかもの悲しさを乗せて、暗闇にか細く鈴の音が響く。
思えば遠くまで歩いてきた。
いつの間にか通りすぎてしまった。
長いようで短かったのかもしれない。
僕の旅は、そろそろ終わろうとしている。
今年で兄の7回忌。
僕の思い出の中の彼は、これから先もずっと、僕より年下のまま止まっている。
もう涼み客はいない。
あの時から、僕の時計の針は止まったままだった。
今でもたまに探してしまうんだ。
でも、自分の中のあなたは、年を重ねるごとに、ぼんやりしてしまうんだ。
さあ、そろそろ夕涼みはやめて、またゆっくり歩き出そう。