5.
「やあ、少年」
その人は散歩でもしているかのような声音で、目の前の魔物を一瞬で肉の塊にした。
「危なかったね。間一髪といったところかな」
まだ震えは止まらない。しかし、助けてもらったのだ、感謝は述べねばならない。そう考えて感謝の意を述べようとして、
「ところで、俺は里帰りの途中なんだが...少年、ギンキの村への行き方を知らないか?」
言葉に詰まった。
ギンキの村というのは、僕が生まれ育った村。小さな田舎の村だが村民が全員仲良く暮らす村。そして、つい先日滅ぼされた村。
「...? 少年...?」
伝えなくてはならない。喉が干上がる。助けてくれたこの人に。頭が痛む。全てが無くなってしまったこと。胸が苦しい。伝えなくては。
「...滅ぼされました、突然現れた魔物と白い鬼に」
「.........!」
伝えることが出来た。彼の顔を見る。顔がすっかり青くなってしまっている。
「...そうか。...すまない、案内をしてもらえるか」
「わかりました」
出発してすぐ、この村に戻ってくることになった。助けてくれた人をつれて。
「...そうか。とうさん、かあさん遅れてすまなかった」
僕が作ったお墓の女神像の足元に額を押し付け、呟くように謝っている。
「今から少し独り言を話すが気にしないでほしい」
「わかりました」
スウッと息を吸い込み、何かを圧し殺すかのように息を吐いた。
彼は女神像に向かって話始めた。
「なぁ、かぁさん。隣の村娘のカーラって居ただろう。とうさんが見合い相手を見つけるとか、そんな年で一生大切にするとか安い言葉をかけるなって口うるさくいってきて、嫌になって飛び出してからもう二十年も経っちまったよ」
「俺な、今度カーラと結婚するんだ。俺からプロポーズしてな。
今日はそれの挨拶に来たんだ。カーラのおじさんとおばさんに娘さんを下さいって言いにな。それから、とうさんに俺はもう立派に一生大切にできる人間になったぞって、自慢しに。来たんだよ」
「俺は、カーラを大切にして、魔物にも負けないように強くなっていつかこの村に住もうって話してたんだ。
一番上の等級の冒険者にもなって、そのせいで時間がかかって、プロポーズしたら、遅いって怒られたけど、それでも、強くなったから挨拶しに行こうって、とりあえずとうさんとかあさんに話して、おじさんおばさんもいっしょにみんなで話そうって、そう思って来たんだよ」
「なぁ、とうさん、かぁさん。遅くなってごめんな。...ッ!」
泣いているようだった。泣くのを精一杯こらえ、涙は流れていないがそれでも、あんなにも大きく頼もしく見えた背中は、小さく震えて泣いているようだった。
「いや、すまなかったな。待たせてしまった」
「いえ、いいんです。仕方のないことですから」
突然現れた魔物に知らない間に親が殺されてしまえば、誰だってそうなるだろう。
かくいう僕も一人でずっと泣きわめいていたんだから。