1.
ある世界のある場所にある少年がいた。
名は、ゲンワ
たいして貧しい生まれでもないが、小さな村の農家に生まれ育った少年である。
子どもが12歳になるとき。
一人一人に"スキル"が授けられる。スキルを得ることで"ステータス"を見ることができるようになる。
どんなスキルも一つとして同じ効果ではない。剣術というスキルでもそれが何の剣を指すのかは、ステータスを見るまでわからない。
しかし、そのスキルたちは一部の例外を除き、どんなものであれ有用な物であった。
ゆえに、スキルを授けてくださった神に、祈ることがスキル獲得の義において最も重要なのである。
彼は一昨日12になったところである。ちょうど明日にスキル獲得の儀が行われる。
それすらも興味が持てないのか、硬いベッドにギシリと音をたてて寝転んだ。
平々凡々な生活を送っていたせいか、生来のものか。あまり物事に興味を持たず、無気力で、無口だった。
母は好奇心旺盛な明るい人で、父は熱血漢だが冷静な一面を持つ良くできた人だ。
両親とも戦闘の技能を持ちながら、自分を育てるために、農家の道を志し、自分を愛し育てた。いくら興味を持つことが少ないとはいえ、自分を育ててくれた両親に報いたいとは思う。
明日の儀式の結果によっては喜んでもらえるだろうか。
そう考えると、ほんの少し興味を持てた気がした。
翌日、小さな村の中心に建つ、小さな教会の前に今年で12になる子供たちが集まっていた。
ゲンワと同じ年に生まれた子は多く、村の大人より多い子供たちが、僕は剣術スキルがいい、私は料理スキルがいいと、口々に騒いでいた。
ゲンワは一人だった。
一人が嫌いなわけではない。むしろ、そのほうが楽でいいとさえ思っている。
親が心配するのは申し訳ないと思っているが。
そんなどうでもいいことを考えているうちに、スキル獲得の儀が始まった。
喜んだり、落ち込んで親に励まされたり、いろんな声が周囲から聞こえてくる。近くの子供たちから順番にスキルが知らされていく。
端の方に立っていた彼は一番最後だった。
「では、女神像に祈りを捧げてください」
年老いた神官が言う。
神など信じてはいないが、仮にも神官の前で言うのは良くないだろう。言われた通り両手を組み、祈りの構えをする。
『敬虔なる信徒“ゲンワ”よ。そなたに女神の一端たる力を授ける』
熱に浮かされたような声で神官は言った。
今神官の口から発されたのは女神の声によるものらしい。
非常に短いが、儀式はこれで終わりだ。
「それでは、ステータスを確認し力の名を教えてください」
ステータスの確認方法は簡単だ。心のなかで〈コンフィルマジス〉と唱えればいい。
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〔status〕
age:12
rank:1
〔skill〕
『word』
『book』
『cord』
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3つ有ったが驚くことではない。
複数のスキルが表示されるのはわりとよくあることである。
例えば、裁縫スキルと呼ばれるものは、『裁縫』とひとつのスキルで存在するものより、『縫う』『切る』『断つ』の三要素で構成されたスキルの方が強力なスキルになる。
通称チェインスキルと呼ばれるが、ほとんどは1つで構成されるものと比べてもほんの少し強力なものであるだけなのだ。
それに、今は驚くというより困惑の方が大きい。こんな名前のスキルは見たことも聞いたこともないからだ。神官なら知っているかもしれない。
彼は自らのスキルを伝えた。
神官もまた知らなかった。
彼のスキルは一般的なスキルとは別の、ユニークスキルと呼ばれるものであった。