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学校へと続く道。朝の登校時に月華院夜慧が歩いていると、皆が挨拶して、通り過ぎていく。生徒会長として慕われている証拠だと、夜慧はきっと誇らしく思っている。
「会長、おはようございます」
「えぇ、おはようございます」
お辞儀のアーチでも、できるんじゃないかと思えるほどの、朝の挨拶を乗り越えて、学校の正門へたどり着く。ほとんど声を出しっぱなしで、夜慧は慣れた様子で、水筒から水分を摂取して潤した。
そして夜慧は「清緑学園」と書かれた正門を通り過ぎ、校舎に向かって歩いていく。
「夜慧、おはよ」
柳佳乃は、夜慧が誰にも、挨拶されていないタイミングを見計らって、挨拶した。他の生徒へ向ける笑顔とは、種類の違う笑顔を夜慧が見せる。
「おはよう、佳乃」
「毎朝大変だねぇ、みんなの挨拶に返して」
「上に立つ者としての責務よ」
嬉しそうに夜慧が胸を張る。佳乃は少し呆れ笑いをしながら「生徒会長様は大変だ」と言う。それに対して、夜慧が「当たり前よ」と言って、佳乃はさらに呆れ笑いをした。皮肉のつもりだったのだけど、と佳乃は思う。
下駄箱の前まで来て、靴を上履きに変えていると、校舎の中が、いつもより雰囲気が違うな、と佳乃は思った。みんなが戸惑った声で、囁き合っている、という感じのような。
「ねぇ夜慧、なんか雰囲気が」
「え? 何が?」
我が道を行く夜慧には、気に止める事ではないようで、自分の教室に向かって、ズンズンと歩いていく。佳乃も同じ教室のため、夜慧の後ろをついていくが、なんだか、教室に近づくごとに、戸惑いの空気が濃くなっているように佳乃は感じた。
「やっぱりなんか」
教室の前まで来て、中が見えるようになり、明らかな異変を感じる。みんなが黒板の前に集まっている。そんな中、夜慧は教室に、生徒会長スマイル全開で突撃していった。
「みんな、おはようございます」
夜慧の挨拶の声に、誰も返さない。ただ、戸惑いに満ちた視線を返すだけだった。
「挨拶がないわね」
ここに来ての、夜慧のこの反応に、佳乃は頭をはたいてやろうか、という思いを、グッとこらえて、何が起こっているか分析する。黒板に何か貼り付けてある。佳乃はそれを指差した。それに反応した生徒達が二手に別れ、黒板までの人の道ができる。
「夜慧あれ!」
「なにか貼ってあるわね」
やっと異様な雰囲気に気づいた夜慧が、黒板に向かって歩きだし、張り紙を見つめた。それに続いて佳乃も張り紙を確認する。
「なに……これ」
『白雪姫は毒リンゴで殺された』
そう、大きく書かれた紙だった。