序章
なぁもし世界の中で一人だけ蔑まれ、差別され、だれからの施しも受けることができない
そんな世界で生きることになったら君だったらどうする?
携帯のアラームが鳴る
蒸し暑く、太陽という光に照らされる朝。いつものように葛西真宙はだらだらとした様子で起床する。
普段にも増して、部屋の温度が蒸し暑く、居心地が悪い気分に晒される。
そんな密室から逃れるようにベットから床へ、床を這いながら、吹っ飛ばしてしまった音の現況である携帯を止める。
「今日も暑い」
いつになったら部屋にエアコンをつけてくれるのだろうか?
そんな悪態を心の中で、父と母につきながら、重い体を起こして、支度を始める。
本日は9月17日
まだまだ、夏は続き、本日も快晴である。
真宙の起床してからの行動は早い。まるで惰眠を貪っていた時間を取り戻すようにきびきびと支度を終える。
起床して10分
「行ってきます」
その言葉を残して、家を出る。
都立桜花高校までは徒歩15分。長くもなく、短くもない距離である。この道も2年目に突入である。信号機のタイミングや車の多い時間帯、そんかことも細かくわかるようになってきた。
だから
「お~はよ~~」
そんな気の抜けた挨拶をしてくる女もだれだかすぐにわかる。
春日井百々(かすがいもも) 高校に入ってから、通学路が一緒で、さらにはクラスまでも2年連続同じという、どこぞのギャルゲーだよと突っ込みたくなる因縁をもつ、数少ない女友達である。
なにかと俺の世話を焼きたがり、学校でもいちいち俺に話しかけてくる。大変迷惑な友人である。
この春日井百々という人物は自分が容姿端麗で、学校の中でも1,2位を争う美少女である。しかし本人にそんな自覚がなく妙に責任感が強いため、俺のような落ちこぼれにも優しさを施してくれている。
そんな施しが、世の男子高校生には至高の賜物に見えるらしく、俺への当てつけが日々エスカレートしているのだ。
こいつは俺のスロースクールライフを初日からぶち壊してくれたのである。コノヤロー
「今失礼なこと考えてなかった??」
「気のせいだろ」
さらにカンまで良いときた。
「絶対なんか悪い事考えてたでしょ!?そうなんでしょ!?」
「なんも考えてないって」
いつものように百々の追及を軽やかに受け流し、文句を言いあいながら通学路を進んでいく。
「そういえば、朝のニュース見た??」
整った顔をしかめながらに不安そうに百々が話しかけてくる。
「いや、起きてすぐ支度して家出たからなんにも」
「真宙はいつもそうだよね。昨日また人がいなくなる現象が起きたんだって。これでもう人が消えたの117人目。大事件だよ」
と神妙な顔つきで百々はは話す。
今この世界で突如起きている、謎の神隠し。神隠しのタイミングは不明。事故や殺人等、とにかく人が死ぬタイミングで突如、人が消えるということである。
その場に立ち会ってしまった人間は皆化かされているような体験をしたという。
事件の被疑者も自主的に、自分の犯行を認め、その現象から逃れたいために、出頭するくらいの、奇妙さである。
そんなとんでもな事象であるため、政府も警察も動くことができず、後手後手に回っているのである。
「たしかに、人が消える?なんてこと本当にあるのかよ?って思うこともあるし、それこそ、何か催眠術の類なんかじゃないかって思う評論家もいるみたいだな」
「あれは絶対催眠術なんかじゃないよ。きっと神隠しにあった人は、別の世界に飛ばされてるんじゃないかな??」
「それこそありえないだろ。なんだよ、そのSF物語は。現実世界でそんなことが起こってたら、世のSFマニアは大喜びで志願するんじゃねーの?」
「そうでもないよ。だって神隠しに合う人間は必ず、死ぬタイミングなんだよ?だれだって死ぬなんて嫌だし、そんなタイミングで別世界にいきたいって思うかな??」
冗談を交えながら、反応するが、百々のほうはいたって大真面目で返答してきた。
「たしかに、そんなタイミングだったら、『いやだ!まだ死にたくない!!』って思うのが普通か」
「うん。どちらにせよ不可解な事件であることには変わりないからね。私たちも気をつけなきゃ!!」
「気を付けるって、どうやって気を付けるんだよ。」
「うーん、余所見して歩かないようにとか??」
「いったいどこの小学生だよ」
げんなりしながら、百々の話に突っ込む。こいつと1年ちょい付き合ってみてわかったことがある。頭もいいし、しっかりしているが、どこか、抜けている。頭のねじが緩んでいるのである。
「今絶対失礼なこと考えてたでしょ!!」
今度は食い気味でこちらの顔を覗き込んできた。そのせいで、よろけてしまい、通りすがりの人にぶつかりそうになったじゃねーか!!
「もう!私が真剣に考えるのにすぐ茶化すんだから!」
「お前の真剣さのベクトルに物申しているだけなんだが。。。」
「それだけじゃ、ないよね??」
張り付いた笑みを見せてくる百々。
こいつなぜわかるんだ!?俺にとってはこいつの思考読みのほうが恐ろしいわ!!と顔には出さないように、百々に突っ込みをしながらも会話を戻す。
「百々の言う通り、用心するに越したことはないしな。なるべく夜道は出かけないようにとか、人目の少ないような場所には近寄らないってことを徹底しておけば大丈夫なんじゃねーの??てかそれくらいしか、俺らができることなんてないわけだしさ。そんな考えこむようなことでもないと思うけど??」
「うん、そうなんだけどさ。なんか怖くなっちゃってね。ごめんね真宙」
「別にいいけどさ」
俺はこいつのこういう素直に自分の気持ちを言えるところが好きだった。
こいつが、男子からも女子からも好かれる理由はこういうところにあるのだと思う。
「ところで昨日の宿題さ…」
と百々が話題を変えて話を切り出そうとしたところで、それは起こった。
一瞬だった。
大型トラックが人を引き、あたりを無残な光景に変えるのは。
「も...も....」
あれ?俺って今どうなってるんだ??百々は??どこにいるんだ??
視界がぐらぐらして、赤黒い。
体が重い、手足がまるで自分のものではないような感覚だ。耳鳴りがひどい、耳鳴りの奥では、人が叫んでいる声が聞こえる。
だが今の自分には全く外側のような感覚である。そもそも自分の感覚さえよくわからないのである。
唯一動くのは目だけ。
眼球を何とか回してあたりを見回すと、何人もの人が倒れている中で、見知った制服を身に着けた、セミロングの女生徒を見つけた。
ああ・・・俺死ぬんだ。
ふと脳裏にそんな言葉が浮かんできた。
さっきまで、くだらないやり取りをして、今日もいつもと変わらないスクールライフを満喫し、百々におせっかいされる、そんな一日になると思ってたのにな。。。
なんだよこれ?
ふざけんなよ!!死にたくねーよ、百々を俺の日常を返してくれよ。。。
「しにたくねぇよぉぉ」
声にならない声で、そうつぶやく。
「じゃあ別の世界に行ってみる??」
そう語りかけてくるの相手を俺ははっきりと認識することができなかった。
それは、事故のせいなのか、もともとそういう出現の仕方なのか?この時の俺にはわからなかった。
おんな???
「私が誰かは些細なことだよ。それより、もうこの世界のあなたの命の灯は消えてしまう。今すぐ答えを出さないと本当に死んでしまうよ?」
そう、話す女は俺にささやくように語りかけてくる。
「難しいことではないさ、簡単な選択。ここで死ぬか、他で生きるか」
「お...れ....は」
その時のことははっきりとは覚えていない。でもこれだけは覚えている。
この神隠し起こしている現況が、いるということが。。