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僕や私の天使と悪魔  作者: くわっと
9/12

爪楊枝と天使

理由を説明されても、納得できない。

理由で痛みは消えない。


今日も不幸だ。

きっと明日も不幸で、

これからもずっと不幸だ。

だけれど、あまり気にしない。

だって、今までそうして生きてきたのだから。

今だって、この通り五体満足で生きているのだから。


世界を探せば、俺より不幸な人間はいくらでもいる。

俺と同じ頻度で不幸な目に遭っているかと言えば、返答には困るが。


今も世界のどこかでは

誰かが、交通事故に遭っているだろうし、

誰かが、株やFXでぼろ負けしているし、

誰かが、じゃんけんで負けているし、

誰かが、飢えで死んでいるし、

誰かがーー


不幸の数と種類には限りがない。

人の数だけ不幸はあるし、

誰かの幸せは誰かの不幸に変化する。

その逆も然り、なのかもしれないが。


「そう世界を嘆くものではありませんよ」


白い閃光が見えたと思うと、爆炎とともに、先の爪楊枝の付近から『何か』が現れた。

神々しい光の輪、

純白のローブ、

全てを悟ったかのような表情。


「爪楊枝は、ネアンデルタール人の時代から使われていたもの。今回はこのような悲劇が起こったとはいえ、それでその存在を憎むのは筋違い、というものです」


俺の声、

俺の顔。

まさか、あっくまんの親戚か?

彼に確認しようとするも、既に姿はない。


「昔は爪楊枝は割り箸とセットではなかったようですがね。……かつて、とある飲食店に爪楊枝置き場がありました。みな、自由にそこから出して各々使用していたそうな。しかし、ある愚かものが使用した爪楊枝を置き場に戻したそうです。そして、さらに愚かなことに、その行為を吹聴した回ったそうな。その結果、衛生対策として、今のようにセットで入れられるようになったとか」


あくまで一説ですが、とそいつは付け加えた。


「お前は何者だ?」


あっくまんがいないので、本人に尋ねた。

そいつは薄く笑うだけで、何も答えない。

言葉のキャッチボールをするタイプではないらしい。

好き勝手喋って、

こちらの話は聞かない。

そんな友達にしたくないタイプの相手だ。


「物事には色々理由がある、ということです。爪楊枝にも、あなたの人生にも」


例えば、とそいつは言葉を続けた。


「好きな子に彼氏がいたのは、その子が可愛くて、他の男子もアプローチをかけていたから。そして、あなたは奥手でいつも最後になるまで動かない。状況が固定され、それでもやらないよりはマシだと奮起するまで動かない。それ故の結果」


淡々と言う。


「4択のマークシートの正解率が低いのは、単純にあなたの頭が悪いせい。加えて勘も悪いから、というところ」


言葉を止めない。


「エンゼルが当たらないのは、あなたが買う個数が少ないから。10に満たない数で確率を語るなんて、そもそもがおこがましい」


正論を、浴びせる。


「自分の人生は不幸ばかり、自身は悲劇のヒーロー、とでも思いたいようですが、それは間違いです。あなたがそう考え、そう感じるのは単純にーー」


そいつは続ける、俺の気持ちも気にせずに。


「あなたが不幸な記憶ばかりを思い出しているからです」


さらに、言葉をつなげる。


「逆に尋ねます。あなたにとって幸運なことは一度もなかったですか?単純に見ていない、見ようとしていないだけ。今の自分の状況を、全て自身に負っていると錯覚している『不幸』のせいにしたいだけ。本当に、悲劇的なまでに不幸なのだとしたらーー」


そいつの言葉を、俺は最後まで聞くことはなかった。

だって俺には、必要のない言葉だったから。


べちゃり、と足下に不快感。

見れば、吐き捨てられたガムを思い切り踏んでいた。

弁当も食べ切らず、全力で逃走したから足下がお留守になっていた。

いや、単純に運が悪いだけか。


「おい、いいのか。あいつ、天使みたいだったぞ」


あっくまんが何事もなかったように現れ、皮肉っぽく笑う。


「別にいいんだよ。人の話を聞かないのに、自分の話を聞いてくれるなんて、おかしな話だ」


「それもそうだな。てか、お前ガム踏んだんだな。相変わらず、というか早速だな」


「ああ、そうだな。俺は運が悪いからな」


俺はそう言って、

自身の運の悪さを、笑った。


爪楊枝の説、本当だったら私はそいつを許さない。

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