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幕間2 大神を持ち帰った。置き土産がいらない件

 

 



「大牙くん、お野菜食べれるー?」

「はい、何でも食べれ、ます」

「そうか、たくさん食べるんだぞ」

「は、い…」


 母と父が大神のお皿の上へとプチトマトやらわかめやら、白ごはんをどんどん盛っていく。熱もすっかり治って元気になった大神だが、一応様子見ということでもう一日預かることになったのだ。うちの父と母は仕事も出来て最高である。


 そんな大神だが、今は戸惑いと困惑で所在なさげな感じだ。何か普段と全く違うというか見慣れない姿なので笑える。先生にすら「は?」がデフォルトの癖にである。


 そんな大神が、というより我が家に来客が珍しいからか、今年六歳になる弟の翔馬しょうまもスプーンの先を口に咥えて、興味深々で大神を見ていた。


 何このキューティクル過ぎる天使…! このうっすい顔最高っ。可愛すぎるっっ


 身内贔屓とはよく言われる。最近ぐりぐりと可愛がり過ぎて態度が冷たくなってきていて哀しいお姉ちゃんである。


「大神、何かすんごい猫被ってんねー」


 苗字もアルファの性質も一匹狼の性格も狼が入る癖にこれ如何にと、家族全員の関心が大神にいってることへの拗ね半分、大神への悪戯心半分で揶揄えば、父と母からすんごい速さで怒られた。


 ぐすんっ、ひどいっ。絶対お母さんなんか大神の将来有望な美少年っぷりに態度が甘めなのもバレてるんだからねっ。大神も呆れた目で見んなし!!


「理子! これは礼儀正しいというのよ。この年でしっかりしているじゃない。あなたも食卓に肘を付かないの!」

「理子、食べながら喋るのは行儀悪いからやめなさい。ほら、トマトも避けてないでちゃんと食べて」

「ねーね、食べてあげようか?」

「私の天使は翔馬だけっっ」


 ぎゅーっと弟を抱き締めていると、こら食べるのを邪魔しないと引き離されてしまった。

 ああ!私の癒しが…!オアシスが…!


 仕方なくプチトマトを箸先で虐める。


 うう、多数決の原理の何と横暴なことよ。私以外好きだからと言って、マイノリティの意見を無視するなど酷く横暴なことであろう。彩りの赤色など、適当にパプリカの赤色でも、いちごを買ってくるのでもいいとは思わないかね諸君!


 誰に言うでもなく仕方なしにヘタを取ったまん丸いプチトマトを上手いこと箸先で掴めてどや顔していると、ふと視線を上げたら大神と目が合った。


 何かまた呆れた目をしている。心外な。ちゃんと箸を付けたからには水で飲み込んででも食べるぞ?

 

「何?」

「いや…、変な顔」

「大神…、お前勇気あるな…。この顔を生みし遺伝子もとい両親の前で馬鹿にしてくるとは…。その勇気は称えてやるよ」

「違ぇよ!」

「理子、あなたまた百面相してたのよ? 女の子なんだからもう少しお淑やかになさい」


 態とらしく慄いた視線を返していたら、母が頬に手を当て溜め息と共に窘められてしまった。


 くぅ!母が完全に大神陣営過ぎてつらいっっ。完全に拾った捨て犬を結局一番可愛がるお母さんになってしまっている…!そもそも女の子だからお淑やかにとは、この世界でも通用するというのか…!時代は男女同権、アルファもオメガもベータもみんな違ってみんないいじゃ駄目なのか…!


 世界の不条理に対して嘆いている内に、みんなご飯が終わってしまったらしい。見れば翔馬も父も母もお皿を片付けている。大神の皿の上も、私の三倍近い量が乗っていた気がするのに、もう空っぽであった。


「大神、めっちゃ食べるんだな」

「まぁ、うまかったしな」

「だろう?」

「何でお前がどや顔するんだ」


 ふっ、母の味を褒められて喜ぶはマザコンの(さが)よ!とでも言えばまた呆れられそうなので、仕方なしにプチトマトを口にイン。もぐもぐすると、あの果肉が弾けてぐっちゃりした生青臭い液体が口内を蹂躙するから噛まずに飲み込むがベストな対応策である。諸君分かったかな?


「お前んとこ賑やかだな」

「いつもこんな感じだよ?」

「そうか」


 その同意が少し声色が落ちて聞こえたので、思わず唇が尖った。


 はぁ、そんな疎外感とかさ、自分はここに居られないとかさ、大神が感じる必要は別にないじゃん。あんたはちゃんとこの世界の住人なんだし。


 だから、何とかプチトマトを飲み込んだ達成感のまま適当に返しといた。


「別に、家近いんだし好きに遊びに来たらいーじゃん」


 そうすると、またも驚いたというか、目から鱗みたいにまん丸とその焔色の目を開けて私を見るので、心外だと唇が更に尖る。


 お前は私をアヒルにでもさせるつもりか!一体何だと思っているのだ。


「いいのか?」

「お母さん達もオッケーするならいいんじゃない?」


 そうしてふと思い付いてにやりと口元を歪めた。


「勉強も見てあげようか大神くん?」

「はっ。お前こそ、俺が見てやろうか?」

「ざーんねん。もう中二の勉強までしてるんで大丈夫でーす」

「なっ」


 そういうと、今度は純粋に驚いた顔をしたので、ふわっはっはと高笑いしたくなった。本当は前世で言うと大学まで勉強してるけど、大学は正直文系だったし、高校の授業は大学合格の瞬間知識が原子分解されてガラクタ穴あきもいいところだから、今はちょこちょこ勉強してる中学までと名乗っとくのがベストなのである。


 いやぁ、内容もちょこちょこ違う所もあるけど、例えば織田信長はアルファだった説とかさ、そこが逆に面白いからすんなり楽しめるんだよね~。オメガバース愛の使者にとって、オメガバース関連というか関わった瞬間脳内で萌えが展開されて記憶能力が当社比百倍くらい上がる気がするのである。


 どうするよ、織田信長がアルファで明智光秀がオメガとか……、豊臣秀吉がベータとか……うっひょおおおおはいすんませんちょっと落ち着きます。社会の自分用参考書を鼻血で汚した犯人は此処ですすんませんんん。


 それでも凄くない!? 小学四年生にして中学二年生分の勉強始めてる九歳って凄くない!? テレビ出れるんじゃない!? 誰か我を崇めよ称えよふはは三十路分の知識をフル活用して悠々自適ライフ送ってやるぜえええ……はいすんませんもっと凄いアルファもいっぱいいますよね調子乗りましたちょっとくらい自分凄いと褒めたくなったんです。


 自分で落ち着いていると、何故か大神は眉間に皺を寄せてガンつけてきていた。何だ、まさか織田信長はオメガ説派か?よかろう、戦争だ。


「中学受験でもすんのかよ」

「え? いや、一応このまま公立予定だけど」

「じゃあ何でそんな勉強してんだよ」

「そりゃ先に勉強してればやりたいことやれるし」

「やりたいこと…。ふーん」


 それっきり大神は黙ってしまったので、大人しく大神分のお皿も持っていってあげた。りこちゃんやっさしー!ふうーー!


 ちなみに、その様子を母と父がこっそり微笑ましく眺めていたことには最後まで気付けなかった。







「にーに! 遊んで! ジャスティスマントルネード!」

「トルネード? こうか?」

「にーにすっごい!」


 いや、確かに普通に凄いんだが


 運動神経の悪い私は思わず引いた目で大神を見てしまう。


 何でその場で無造作にジャンプしてその位置で軽々と宙返りして着地出来るんだ? 足音してないぞ? ふわって着地音って漫画のよくある妄想じゃなかったのか? え? 二階だから下の階に配慮してるのか? その余裕がこええよ


 翔馬は感動して何度も強請ったり、次はこれしてー!などと無茶ぶりしている。


 だが普通に考えて隅を使って三角飛びの要領で天井に触る「ジャスティスマンダッシュ」って無茶ぶりじゃないのか? 私の認識がおかしいのか? 何で普通にタッチできてんだよ大神。


 すとんと隣に軽々と着地して手の平の埃を払う大神に、思わず引いた視線を返していると、大神は心外そうに片眉を上げた。

 

「これくらい余裕だろ」

「忘れているようだからもう一度言ってやろう。お前の常識は世間の非常識だとな」

「ああ、そういや去年言ってたな」

 

 てっきりその後の臭い発言からのストリートファイトを思い出させたかとひやっとしたが、機嫌を悪くするかと思ったら、何かくっくと笑うので一応もう一歩距離を取る。


 こら翔馬、見ちゃいけません!


「ねーね見えないー。次はジャスティスマンビームしてもらうのにぃ」

「翔馬、流石にビームはジャスティスマン専用の必殺技だから無理だと思うよ」

「そっかぁ。ざんねん」


 流石にこの無茶ぶりは可哀そう過ぎるとフォローしてあげると、翔馬もそういえばそうだったねぇとジャスティスマン図鑑片手にもう一回読み直していた。


「助かった。流石にビームは無理だ」

「いや、これ以上翔馬の関心を取られまいと」

「おい」

 

 六年も捧げた我が天使の好感度を僅か一日二日で脅かされる身になりやがれ一人っ子よ!! 前世山田 莉子は一人っ子だったからもう弟が可愛くて仕方ないんだぞこんにゃろうめ!


 翔馬が図鑑に夢中になっている内に、私も座ってクッションを大神に渡した。まだ一応お子様だからな。翔馬も私も同じ子ども部屋なので、大神もまとめて子ども部屋に入れられているのである。人口密度が上がって狭いが。まぁ私と翔馬は二段ベッドだから、大神は床に布団を敷く感じだな。


 とはいえまだ布団は畳んでおり、絶賛就寝前でテンションの上がった弟の面倒を見ていてくれたというのが現状である。


「お前センスないだろ」

「いきなりのけなし。何だ私が何かしたとでも言うのか」


 あんまりだと戦闘モードに移行するか検討していると、大神の手には摘ままれたゴンタロウ。何だよ、その尻に敷かれ過ぎてはんぺんみたいになった狐顔が可愛んだろう? 見てみろよ、その目の前に鏡があると分かってないまま全力疾走して正面衝突してしまった顔を鏡越しに写真撮影されてしまったかの様な間抜けなぶちゃ可愛さ。諸君ならわかってくれるだろう??


「可愛いじゃないか」

「嘘だろ。本気かよ」

「心外な。これだからセンスのない奴は」

「お前にだけは言われたくねーな」


 親指と一指し指だけでぷらぷらと掴んで酷い扱いである。見てみろよ、ゴンタロウだって悲しそうだろ?


 仕方ないと言いたげに溜め息吐いてゴンタロウに座るくらいなら返せよなぁ。私のネココさんも貸してやらんぞ。ちなみにゴンタロウの猫顔バージョンである。タヌキッチも買って三種類揃えるのが最近の野望でもある。かわいいわぁ。


 まぁいいやと二段ベッドの梯子部分に背を預けて大神を見る。立て膝越しから見えるゴンタロウと目が合って片眉を上げているが、顔色はもう普段通りになっており、熱もぶり返す様子はなさそうだ。


「熱治ってよかったじゃん」

「まぁ元々一週間以上長引いたことはねえし」

「ふっ。私なんか今まで掛かったことは無しよ…!」

「馬鹿は何とやら」

「ヤル気か」


 何故こいつは一々挑発してくるのだ。もう精神がやさぐれているに違いない。例え母と父と弟をおばあちゃんの皮ならぬ猫かぶりで懐柔したと言えど、狼の正体を知っている超可愛い赤ずきんな私はそう簡単にはいかぬぞ…! 逆に猟師を呼んでくれるわ…! あ、大神の両親来たら怖いからやっぱこの設定やめとこ。


「大神、いつも両親あんな感じなの?」

「あ?」

「だから、ごはんとか普段どうしてんの」

「別に、去年二人してオメガ見っけてくるまでは家政婦。今はオメガが作ってるけど、食う気ねーからコンビニ」

「身体に悪そうっつーか、大神地味にお坊ちゃんでしょ」


 そういうと、大神は強がるみたいに口角を意地悪く上げ、ふんと鼻を鳴らした。

 

「親は親だろ」


 それはあんな奴等を頼る気ないから一緒にするなという意味か、それとも家柄や金があるのは事実で、そこに親という符号が付くという意味か。


 大神の焔色の目を見て、穿ち過ぎかと苦笑が零れた。なるほど、母のしっかりしているという発言もやはり的を射ていると言える。やはり我が母は最高だな! うっひょう!


「大神はしっかりしてるねぇ。えらいえらい」

「…はっ。同い年の癖に子供扱いすんじゃねぇ」

「はーい、いい子でちゅね~」

「ああ?」


 そのヤクザみたいな睨み付け止めろよ~。そっちこそ肉体年齢同じの癖に何処の修羅場育ちだってくらいマジで怖いんだって。いいじゃないかちょっとくらい揶揄ってもさ~。珍しく純粋に褒めて遣わすという気持ちも入ってるのに。


 まぁ、睨み付けててもサイズが合って着れた私のゴム製おじくまちゃんTシャツを着ているせいで威力は半減しているのだがな。おじくまちゃんのゲジ眉かわいいっ。若干私よりも痩せて見える辺りに嫉妬しかないが。


 さて、本題に入るかと居住まいを正した。


「ごはん、大神も来たらいいけどさ、うちのお母さん達がオーケーしてもあんたどうせ遠慮するでしょ。でもあんた意地張ってコンビニ飯ばっかになりそうだし」

「俺の勝手だろ」

「家政婦さん雇えないの? って思ったけど、今でさえ家政婦二人いるみたいなもんか」

「はっ、そもそもあんな家に来たがる奴なんていねーだろ」


 おーおーやさぐれちゃってまぁ。まぁ此処は今の内に決めとかないと面倒になりそうと社会人の勘が言ってるんだよなぁ。


 アルファの二人に近付きたい人も少しくらい居るんじゃ?と思ったけど、まぁ運命の番を見付けた二人に近寄る隙間もないかと納得した。


「じゃあオメガさん達のごはん食べなよ」

「何で俺がそんなことしなくちゃいけねぇんだよ」


 俺に指図すんじゃねぇと眉間に皺を寄せて歯を剥いて唸っている。先祖返りなのか、八重歯というより犬歯が見えて怖い。おい殺気を向けるのはやめてくれ、図鑑見ながら寝落ちた翔馬を起こしたら私が般若になるぞ


 風の谷の今シカさんもこんな気持ちだったのかなぁとぼんやり思いながら、お花ちゃんをイメージしてふんにゃり苦笑してみた。穏やかに笑うのはやはり似合わないというか出来なさそうだ。


「心配だからに決まってんじゃん。子供の内だからこそ食生活はちゃんとしなきゃ」

「ッ」

「じゃあまずはコンビニ飯は二日に一回でいいよ。今日の借りってことで二日に一回は自炊するでも、うちに来るでも、オメガさん達のごはん食べるでもする。ついでにうちに来る時は何か大神のご両親からお金でも食べ物でも偶にせしめてきたらいいよ。そしたら遠慮なくなるでしょ」

「悪どい笑みめ」

「いえいえ御代官様程では」


 翔馬を起こさぬよう閃いたと言いたげに無音で手を打ったあと、どう?と小首を傾げる。


 うけけけ、我が家に一回くらいキャビア様を連れて来させてみせるぜ…! 前世、山田 莉子もついぞ食べれなかったからなぁ。


 そんなどうでもいいことをつらつら考えながら大神を見れば、そっぽを向いてどっから音出してるのか分かんないぐるぐるという唸り声を出してから、諦めた様に溜め息を吐いた。


「……わーったよ」

「おっし決まり! 大神キャビアな! キャビア!」

「あれそんな美味くないぞ」

「この坊ちゃんめ! 庶民の夢を砕くんじゃない!」


 ふふふ、社会人の秘儀、百万円の壺を見せた後一万円の壺を見せて買わせる作戦成功だぜ!! 二日に一回でもコンビニ飯卒業させたらめっけもんである。


 ふわっはっは! 毎日と見せ掛けて半分でも辞めさせる…! そもそもこの提案ごと無視するという選択肢を無くさしてやったぜうっひょう! 利根田 理子様に掛かれば大神なぞ手の平の上でころころされる子犬の如き存在よ…! はいすんません調子乗りました。


 キャビアが地味に不味いという情報にダメージを食らいつつ、内心ほくそ笑む。昨日の朝、大神の食生活をこっそり心配していた母と父に後で了解と一緒に褒めてもーらおっと考えていると、大神が立膝に顎を乗せ、膝を腕で抱えながらこちらを観察していた。


「何?」

「お前、俺が約束破るとか考えねーわけ? 能天気だな」

「突然のけなし。だから何故なんだ」


 思わずこのやさぐれ血統書付き野良犬からゴンタロウを取り上げるべきか思案しつつ、もう少し話が長引きそうだと、近くのブランケットを翔馬に掛けてやる。


 そんなもん、簡単な話である。


「大神プライド高いじゃん」

「ああ?」

「だから、あんたの意地を信用してんの。約束、守るでしょ」


 格好付けたがりだしと、仕返しも込めてにんまり意地悪く言えば、ふんとまた鼻を鳴らした後「納得した」と逆に安心したように大神もまた意地悪く口角を上げるのだった。


「大神の両親は何の仕事してんの?」

「どっちも博士だよ。オメガの抑制剤、その特効薬研究の第一人者」

「え……、やばいじゃんめっちゃ凄い人達じゃん!?」

「別に、家じゃただの色ボケ共だよ。見苦しいよなぁ? オメガの抑制剤の研究してる癖に本人達が一番どっぷりと番のオメガに狂ってるんだから」

 

 蔑んで吐き捨てる声色は侮蔑と憎しみ混じりだ。


 マジかよ……、超ド級の金持ちどころか、世界規模での人財だぞ……。おいおいおい、そんな博士クラスの頭脳や血統が両親で一人息子のアルファとか…、大神が小四でませ過ぎた思春期ってのも納得だが……。


 設定では、例えば主人公が抑制剤を開発したやら、主人公の親やら、全く見も知らぬ博士が作ったという設定もあり、誰かが作ったと決定しているものはなかった……と思う。という訳で、この世界で身近な人がその開発に携わったと聞いて、そんなまさかと運命のイタズラに心底驚いたのだ。


 ちなみに抑制剤とは、オメガ達のヒート、つまり期間も設定に依るが、一か月から三ヶ月ごとに定期的に一週間だけ訪れる、番のいない異性のアルファやベータ達を無差別に誘惑してしまうフェロモンを垂れ流しちゃう発情期を、文字通り抑えてくれるという薬だな。


 とはいえ私もまだ勉強あまりしていないので、副作用とかどれくらい抑えられるかは、設定ごとでも違うのでこの世界だとどうなのかが分からないのだけれど。


 ああー、スマホ欲しい!! 何故中学生からでないと持ってはいけないのか! 平等と道徳の観念うんぬんぬんぬんうっるさーい!


 はぁ、オメガ(多分)のお花ちゃんの為にも、やっぱ早めに勉強しとくかなぁ。また今度近場のドラッグストアにでも行ってみるか。


 と、そこまで考えて疑問が湧く。


「ん? オメガのヒートって確か番が出来たら無くなるんじゃなかったっけ? 違うの?」

「ヒ…、って、お前、そんな簡単に言うなよ。しかもそれどこ情報だ? 続くって聞いたし、実際続いてるぞ」


 何か、さっきまで闇堕ちモード全開だったのに、真っ赤な顔で怒られてしまった。


 何でだ。解せん。というか私の知識が間違っているのか? いや、オメガバース愛の戦士の記憶能力は伊達じゃない筈。つまり、この世界ではヒートは番になっても続くってこと…?


 腹の中がぐるぐるする違和感は今は仕方ないと飲み込む。 


 となると…、と、思わず眉間に皺が寄った。

 

「となると、今回は両親のヒートが運悪く被った……ってこと?」

「そーだよ。普段は片方だけだからマシだけど、フェロモンは感じ無くても汗とか呼気が気持ち悪ぃし煩ぇしで体調悪くなるし。あれでも最終日かそこらだからマシな方だぜ」

「うげ……、あれでか。それはお悔み申し上げます」

「死んでねぇ。けど死ぬかと思った」


 思わず冗談とは言え溜め息混じりに疲れた様に弱気な発言する程度にはしんどかったのであろう。おいおい、両親も外でやれよ。子供の前でなんつー地獄だ。


「お金持ってるなら、ヒート来たって分かった瞬間高級ホテルでも貸し切ってくればいいのにね」


 なんて傍迷惑なと義憤に駆られていると、大神は怪訝そうにこちらを見ていた。その視線に私の方が不思議に思う。


「世間的に無理だろうし、つかお前、本当に女か? センスと一緒に恥じらいも実は無えとか?」

「正直大神を思っての発言だと思うのに、味方から裏切られた気分だぜ。この突然のけなし! さっきから何でだよ!」

「そりゃ…」


 至極真っ当な怒りを向ければ、大神は立膝から胡坐に直して、視線を泳がせた。ぽりぽりと頬を指で掻き、濁そうとしているがそうは問屋が卸さねえぜとっつあん! さあトンカツ食って白状しやがれと睨みをきかすと、やれやれと言いたげにむっつり口を引き延ばした。


「下ネタは元より、女って生理だのヒートだのってあんま言いたがらねーもんじゃねーのか?」


 違うのか?という風に逆に質問として投げ掛けられて一瞬思考が停止する。


 生理? 生理って月のもののやつの方? えー? ヒートって確かにオメガにとっては月のものみたいなもんだろうけど…。


 え? 扱いってそんな感じになるの? 設定でよく使うっつーか、よくある単語だからむしろ萌え設定ご馳走様くらいにしか…


「そういうもんなの?」

「そうじゃねぇのか?」

「えー、むしろヒートって聞いたらテンション上がらない?」


 そういうと、心底理解出来ないという顔で大神は呆れた風に眉を顰め


「変態め」

 

 とだけ呟くのだった。







 衣擦れの音と共に、健やかな二つの寝息だけが暗闇に木霊する。夜目が効くせいで、暗闇に順応した目は、子供部屋らしい室内の様子を薄明るく映し出す。


 ほんの数時間前までは、人生の中でも最も煩いくらいの時間であったかもしれない。

 

 それは酷く煩わしく、疲れるし呆れもするし苛立ちもする時間ではあったけれど、決して不快ではなかったのだ。


 自分の服から、身を包む布団から自分以外の匂いがすることへの違和感はある。けれど、不思議な程気持ち悪いとも臭いとも感じずそれが自分でも不思議であった。

 まだ来て二日目なのに、微睡みを誘う妙に落ち着く匂いに悔し紛れに顔を顰めて。


「変な女」

 

 とだけ呟けば、二段ベッドの上の方からくしゅんと小さくくしゃみが聞こえて、思わず笑ってしまったのだった。








 


 

 


トネコメ「これが、今の甘さの限界、、だ、、ごふっ」(やり切った感


置き土産=翌日風邪になりました

りこちゃん「我が無風邪記録があああ。大神めぇっ、恩を仇で返しおってからに!」


 くしゃみは前兆です←おい

 さすがにアルファが掛かる風邪にはりこちゃんも負けたようです。その後、もれなく弟くんも掛かりましたが、父母は無事だった模様。ヨカッタネ!! そして大神も流石に悪いと思った模様(笑)

 ふっ。誰が何時サブタイトルを本文から付けると言った…?(タイトル回収を後書きでする件←ただのあほ



次話「6、小学五年生 野生のヒートに遭遇した。刺した」


 ここも書くの楽しみにしてたところなんすよね~♪気長にお楽しみに~♪

 

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