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幕間1 小学三年生 ドッチッチ あいつやりやがったな






 やあ、諸君おはよう、利根田(とねだ) 理子(りこ)だ。まだ小学三年生だぞ。本来であれば小学四年生になる予定だったんだが、どうやら我が波乱万丈の生活が収まりきらなかったらしい。


 ふっ、私の魅力っぷりも困ったものであ…すんません調子乗りました。 


 まあ初日の件なのだが、私も大人であるからな。最初は大人げないことをしたなとは思いはしたのだ。プレパラートですり潰されたミジンコ程度だが。


 という訳で開始早々初日でストリートファイトした翌日の様子がこちらである。





 ちらちらと男子も女子も怖いもの見たさと好奇心で大神を伺う中、煩わしそうに只管不機嫌で席に肘を付いて座る大神。窓からそんな眺めても外の景色は変わらぬだろう。何だ、美味しそうな雲でも浮かんでいるのか


 とはいえ一枚の絵みたいな光景であるのも確かではある。悔しいが。

 

 まぁいいやとお花ちゃんときゃっきゃうふふと「今日はね、落ちてた桜の枝にしたの~」という女子力の塊な女子トークに心癒されていると、ガタンという音が教室に響いた。


 水を打った様に静まりかえる教室。 


 かえるという単語を想像するだけで我がトラウマが刺激される恐怖である。

 いや、やめておこう。私が傷付くだけだ。


 という訳でなんだなんだと視線をやると、怯えた様に顔面蒼白にする少女達と、大神の前でぶっ倒れている机。と、その机が椅子に当たりでもしたのか、腰を押さえて机で悶絶している健太。


 健太ざまあ!


 っと、どうやら勇気を持って話し掛けた少女達三人組に大神がキれ、机を蹴っ飛ばしたらしい。お前は何処のカミソリだ。切れ味良過ぎというかキれすぎだろう。カルシウムもっと摂取しろよ。二日連続かよ


 転校生に興味深々になる子供たちの気持ちも分かるが…、それがましてや大神みたいな二次元から飛び出してきたみたいなアルファ(確信)だったら話し掛けてみたいと思いもするだろうとは思うが……

 

 わっと泣き出した真ん中の少女を庇う様に、両端の少女達は非難がましい声を掛けている。

 しかしそれにすら威圧で黙らす大神。というか、泣き声が更に二つ追加された。

 窓ガラスが震えそうな程の大合唱である。

 女子三人を無言で一瞬で泣かすとか、一体お前はどこの魔王だ。


 復活した健太が大神へと腰を押さえながら突進したあたりで、舌打ちした大神は席を立って教室から出て行ってしまった。


 まぁ子供の甲高い泣き声の至近距離爆撃は私も辛いとは思うが…、ましてや健太が突っかかってきたら鬱陶しくて私なら腰を狙って追撃攻撃を仕掛けるが……


 それでもあいつやさぐれ過ぎだろ


 アルファ(確信)とはこのようなものなのであろうか? 正直サンプル事例が聖也くん(王子様)と、大神(魔王)という両極端しか居なくて平均がよく分からん。


 むしろ変な程突出しているのが特徴だとでもいうのだろうか? かの歴代の大天才たちも幼少時代は変人扱いと聞くし、やはりそうなのかもれない。とはいえ同年代はたまったものじゃないと思うが。


 うむ? であればこの小学三年生にしては天才的な俺つえー!!を出来ている私も一ミリの可能性くらいアルファの可能性が……はいすんません調子乗りました夢くらい見たかったんですすんません。


 という訳でまぁ、仕方なくお姉さんぶって女の子達にブタクサ対策の為に持っていたティッシュを渡し、大神が蹴っ飛ばしたことで倒されてしまった哀れなる机ちゃんを直してやりながら、波乱万丈になりそうな小学生活を憂えてため息を吐いたのである。まる。



 



 とまぁ憂えた小学三年生活であったが、意外と大丈夫っちゃあ大丈夫であった。


 何故かって? あいつ、小学三年生にして学校をサボり気味なんである。


 まぁ小学三年生の算数なんて二桁の足し算とか、小数の足し算とかなので余裕のよっちゃんと言えばそうではあるのだが。


 とはいえ健太なんかは既に小数で死に掛けているので、大人~な私としては大神も今から授業ボイコットしまくって将来大丈夫かよと多少くらいは呆れと心配を見せたくはなるのである。


 ちなみに健太は宿題をほっぽって外でドッチしようぜ!とすぐ誘ってくるので、終わってからなと言って無理やり面倒見てやっている。


 お前な、何で五分でやる気尽きるんだよ!まだ二問目しか終わってねえだろうが…!!




 

 そんな訳で別段親しくはなってなかった大神だが、まあ偶~にいざこざ位はあった。


 いや、あれは向こうが悪いんだがな…! 私悪くない! 私天使で愛の美少女戦……はいすんません調子乗りました。

 

 



 あれは体育の授業の時である。うちは公立の学校なので、平等と道徳の教育うんぬんかんぬんの方針のもと、小学校六年生まで男女合同の体育なのである。


 という訳なのだが、小学三年生の体育など、体育の先生が残り十五分はやめに終わるわーと言ったらドッチに転がり込むものなのである。


 というか健太がドッチにハマり過ぎて何がしたいかの皆で意見言い合いっ子になったら、ドッチドッチとうるさいのだ。


 お前は言葉を覚えたてのオウムか…!!


  そうなると主張のない皆もまあいっかみたいな感じであっちでもこっちでもあっちこっちでドッチドッチになって皆でドッチになるのである。もうドッチドッチ言い過ぎてゲシュタルト崩壊ッチッチ。


「理子ー! 逃げろー!」

「逃げろったって、コートの外全方位敵だよ!」

 

 白線の外には黒山の群れ、もとい敵チームの壁。


 最初は良かったのだ。敵に大神が入っているが、そこは平等の観点の下で公平に人数分けして、大神も普段通りやる気なさそうにさっさと当たって外にでも出る気満々だったのだ。


 なのに、ボールが…、ボールがな…。ボールがヘドロ沼、もとい目の保養と憩いという目的で作られた蓮を植えた貯水槽みたいな所に入ったことで状況は一変したのである。


 そりゃ私だって蓮が死滅どころかあの藻とヘドロが浮き出して真夏はうじゃうじゃ蚊が湧くところにヘドポチャした異臭塗れのボールに当たりたくねぇよ…! どこの罰ゲームだって話だよ…! 


 正直当初の癒しと真逆の苦痛を提供するあの貯水槽はぶっ壊すか、誰か清掃人雇うべきだとめちゃくちゃ真っ当な意見を学校のなんでもご意見箱にぶちこんだ程度には酷いのである。無視されたが。何かその年の二年生の夏に、何故か全教室に蚊取り線香が無料配布されたが。


 そうじゃねえよ…!!!


 ひゅんっとボールが耳の横すれすれを通る。


 ひいっ、こっわ! そしてくっさ!! 何かベタついてるのに砂利が付着して余計に当たりたくねぇー!!


 うう、触りたくない、当たりたくない、持ちたくないとひいこら全力で逃げていたら、気付けば自軍コートには地味に運動神経のいい健太と無様に逃げ回った私、そして敵コートにはのらくらと避けるだけだった大神だけが残ったのである。


 そして、只今敵の外側にボールが渡り、残り時間までの間に引き分けに持ち込もうとでもいうのか、健太と比べたら運動神経の悪い私がひたすら狙われているのである。


 うひー、チャイムは…! チャイムはまだか…!! あと、五分……!! あ、無理。


「りこワンバン取れよ!」

「お前みたいに図太くないわ!! というかそんな余裕ないわ!!」


 あんなヘドロボール持てるか!! 持とうとした瞬間当たるわ!!


 復活制度なしなので、もうコートの外側でみんなやんや、やんやである。人口密度の落差と熱気がすごい。というかお前等だけ綺麗なままとか許さんという熱意と怨念も感じる…!


 うひー、これが中世でおなじみの闘技場のリンチ式処刑方法とでも言うのか…!!


 何だか転生してから様々な処刑方法を経験している気がする不思議である。気のせい…だよな…?


 またもひゅんと足首でワンバンするボールに涙目でコートの中央白線付近に寄ると、大神が面倒そうというか、欠伸を噛み殺して暇そうに近くに突っ立っていた。


 これが天国と地獄の格差社会…! 呑気そうな様子につい敵意と殺意が一瞬で湧いた瞬間である。


 だが、私も大人、荒い息の中ここで閃くものがあった。


 大神も絶対当たりたくないから最後まで避け切って残ったに違いない。そしてやる気のない二人が残ったのなら、大神が「飽きた」とでもツルの一声を上げればチャイムを待たずとも強制終了掛けれる筈…!


 正直、今は健太がまだやる気を見せているから最後まで分からない感じで盛り上がってるだけなのだ。


 つまり……



 よし、健太を大神に売ろう



 一瞬で迷うこともなく判断した自称愛の美少女戦士で大人な利根田 理子であった。


 矛盾する? 貴様は触れてはならぬ闇に触れてしまったようだな…

 さて、というわけでぜえはぁ…。いや、もう息切れがヤバいのである。


「大神くんや……」

「あ? 何だよ」

「聞いてくれ。正直さっさと終わりたい。でもボールに当たりたくない。お互いそうじゃないか?」

「で?」


 ふんと馬鹿にしたように顎をしゃくる様子にいらっとするも、此処は大人しく作戦を告げる。

 健太への慈悲? 主は時に試練を与えるもんだろう? そんなもんである。はい適当。


「健太を当てさせてやるから、そしたら飽きたとでも言ってさっさと終わらせてくれ。チャイムまで待つのしんどい」

「ひでぇやつだな。あっちは頑張ってるのに」


 ちなみにこの間、健太と、敵チームになった友達連合との間で盛大なボールの避ける攻防戦が行われている。


 見てるだけで元気吸われそう。そのまま時間いっぱいまで遊んでくれりゃあいいのに


「あっちはあれが楽しいんでしょ。むしろか弱い女の子をこの主戦場におくなし」

「はっ」

「お前徹底抗戦する気か??」


 流石に大人~な理子ちゃんにも怒る時があるのである。

 こいつ何でも感でも、あ?だの、で?だの、挙句の果てに鼻で笑うだのと……。


 もうこいつに同盟なんて持ってくるんじゃなかった、やはりこいつと馴れ合うなど我が考えが砂糖菓子メープルシロップ掛けレベルで甘かったのだと、まるで最近の国家情勢の縮図みたいに考えを一転緊張関係へと翻していると、「まぁ待て」と大神が自然を装って声を掛けた。


「乗ってやるよ。俺もさっさと終わらせたいしな」

「なら何で無駄に煽ったし」

「とりあえずお前適当に外野の近くでこけろよ」

「はぁ? 当たりたくないっつってんじゃん」


 こやつ、さては馬鹿だなと訝し気な目で見れば、心外だと言わんばかりに大神は片眉を上げた。


「あいつが絶対守りに来るだろ。そしたらその隙を当てられて試合終了だ」

「はあ? 健太が? そりゃ時間もないし運動神経いいから逆に取りに来そうだけど、ダブル狙われるくらいなら引き分けのがいいと思いそうじゃない?」


 至極真っ当な意見を述べれば、逆に大神に呆れた者を見るような目で見られた。


 解せん…!! やはり常人にその思考は理解不能だとでも言うのか…!


「ま、乗るかどうかは任せるぜ。俺はお前が当てられようが時間を潰そうがどっちでもいいしな」

「ドッチだけにってか! くっそう、分かったよ。もし作戦失敗したら後で覚えとけよ…!」


「おいりこ! 狙われてるぞ!」


 瞬間、咄嗟にしゃがんだ頭上をボールが通り抜けた。 


 誰だよ顔面セーフなのに顔面狙ったやつ…!絶対女子だろ…!!


 ボールが遠くの方まで転がっていく内に、ひいこら何とか健太の近くまで撤退する。


 うひい、さっき売る契約が成ったのに健太ナイスぅぅ!! ほんのちょっとだけ申し訳なさが湧いたぞ…! ボールを沼に落としたのもお前だから、正直蚊を潰した時程度の申し訳なさだがな…!!


「おいりこ、さっきまで大神と何話して――」

「健太来た…! 逃げるよ! 健太のこと頼りにしてるから…!!」

「お、おう!」


 何故か予想以上に張り切りだした健太を怪訝に思うも、やはり小学三年生の男子など煽てれば木に登る猿のような扱いやすさなのだろう。


 ふわっはっは! 今からこけるから、頼む我が身を守ってくれ…!

 え? クズい? それは作戦立案者の大神にでも言ってくれ…!


 来るぞ来るぞと別の緊張感も持ちつつ、ボールを持った男子がコートの近くに戻ってくる。

 いまだ!とばかりにずさぁっと顔面からこけてみた。ヘドロに塗れるくらいなら砂ぼこりのがまだマシである。


 おい、大神、今へたくそって言ったの、りこちゃんイヤーで拾ったからな!!


「おい! りこ立てって!」

「健太無理っ、ごめん後は任し…」

「げっへっへ、引き分けにしてやるぜぇ…! このくさくさボールを食らえっ!」


 やんややんやで楽しむ周りに乗っかって意外とみんなノリノリでやっていると、明らかに当たる速度とコースで向かってくるヘドロ砂ボール。


 うわ…、大神に嵌められたかも…。というか健太も流石にわざわざ守って危険になるなんてそんなことする訳ないだろうし―――


 馬鹿をしたな…と、最早一息で当たると目を瞑った時、ざわりと空気が揺れた気がした。


 次いで黄色い悲鳴。…ん? 黄色い悲鳴?


 おそるおそる視線を上げると、健太が目の前に立ってボールを受け止めていた。


「け、健太…、何で…」

「お前見捨てて行けるわけねーだろ」


 無駄に当然とでも言いたげに返されるセリフ。大神の予想は当たってたと言える。腐れ縁レベルで一緒に居た健太の正義感や義侠心を僅か二日で読んだのは、流石と言えるし若干悔しくも感じはする。だが、だがな……。


 何で当たらず受け止めれるんだよ…! お前はアルファか…! そのお猿顔でアルファだとでも抜かすつもりか…!!


 動揺したまま何とか上体を起こして座り込んだ私の前で、何のパワーが働いているのか、健太はその沼ボールを恐れず掴んで、これまでにない速度で回転させながら投げたのだ。


 これには流石の大神も避け切れず真正面から受け止めるしかなかった。


 バッシ――ンッという、最近のお子様用に改良された痛くないふわふわボール素材からあるまじき音が木霊する。


「へっ。やっと受け止めたな」

「お前…」


 その声音には苛立ちと怒りが混じっており、我がりこちゃんイヤーには「お前が中途半端なことしやがったからだろ??」というドスの効いた副音声が聞こえている。


 ひいっ、ヤバイ、二人ともヤラレルっっ


 若干殺意混じりの大神から投げられたボールの速度は凄まじく、受け止めようと真正面から構えた健太の腕を弾き飛ばし、ボールは高らかに宙に舞った。



 そんで、我が顔面に落ちて転がった。



「「あ」」



 私以外の全クラスメイトと大神と健太の声が重なった瞬間、無情にもキーンコーンカーンコーンと試合終了のチャイムが鳴る。



「引き分けだね~」



 と、のんびりお花ちゃんの声が木霊するなか、心の中でむせび泣いたには言うまでもない。






 はい、という因縁があるのである。他にも色々あるがそこは割愛しよう。


 な? 酷いだろ? あのあと、皆から腫れ物扱いを暫くされたんだぜ…?


 な? 酷いだろ? あの後給食の時間だったんだぜ? な、酷いだ以下略。


 まぁ悔しかったから嫌がらせとして授業出てないと分からない問題ばっか出して、え?これも分かんないの?ぷーくすくすみたいに揶揄ってやったら、最近授業には出るようになったんだがな。 


 ちぇ、今度は小学校高学年の問題を出す予定である。


 え? 大人げない?


 まぁこの手の社会に対して斜に構えたやからは、ガミガミと授業に出るよう言うよりもこうした方が勝手に対抗意識燃やすのである。 


 一応りこちゃん大人なんで若人の成長には貢献するのでござるよ、うむ、感動したであろう?さあ崇めるがよい称えるがよ…すんません調子乗りました。




 さて、そんなこんなで四年生になった。

 









 

 


あいつやりやがったな…(りこちゃん健太を売るの巻き

ありつやりやがったな…(健太、男を見せるの巻き

ありつやりやがったな…(大神、りこちゃんの顔面にボールを当てるの巻き

ありつやりやがったな…(トネリコ、更新遅かったの巻き


 はい、お待ちくださった方がいたら平にご容赦をををおおお


 という訳で、伸びすぎたのがこちらでした☆ダイジェストってなくて伸ばしたお☆←おい


 次話は今度こそ『小学四年生 大神の家に行くとか嫌なんだが。結論、喧嘩売って逃げた』予定なんで、気長にお待ち頂ければ☆ではでは~♪

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