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掌小話5 ぎゅう




 

 

 あ、また空を見てる


 時折、窓からぼんやりと空を見ているりこちゃんは、どこか寂しそうで、いますぐ消えてしまったりどこか遠くへ飛んで行ってしまいそうに見える。


 だから、慌てて近付いて、ぎゅうっと抱きしめる。


 そうすると、りこちゃんはすぐに私に気付いてへにゃりと相好を崩すのだ。とろけた笑みは、私なんかよりもよっぽどかわいらしい。


「りこちゃん好き~」

「えへへ、お花ちゃんどうしたの。勿論私も好きだよー」


 遊びだと思うのか、軽くぎゅーっと返される。もし居たのならばまるで姉の様な居心地の良い腕に安心する反面、違うのだというもどかしさもある。


「はっ! 聖也くんにバレたらヤられる!!」

「もう居るよ」

「こわ!!!」


 一瞬でお顔が真っ青になる様子は、いつもの陽気で元気なりこちゃんだ。聖くんも、いつもの様ににこにこと仲良く話してる。

 でも、聖くんは多分気付いてない。いつも頼ってばかりだからか、この不安の名前や理由が自分では分からない。


 聖くんが少ししていつもの様に離れるよう言ったけど、私は首を振ってもう少しだけぎゅっとした。

 わたわたと二人が慌てるけれど、結局はりこちゃんものんびり髪を梳いてくれる。


「りこちゃん、何でも言ってね。友達だもん」


 大事な大事な姉の様な女の子を守りたくてそうっと言えば、りこちゃんは小さく息を吸った後、熱烈な抱擁をした。肩口に顔を埋めて隠す様に。


「これは、三角関係の予感!! 私、お花ちゃんの為なら何でも出来るっ」

「へぇ…。僕がやってもいいけど、大神くんを呼ぶかな」

「手口が悪どい!!!」


 ゆるりと梳かれる指は優しい。でも優しい指の反面、頼られない頼りない自分がもどかしい。

 お姉ちゃんの様で、でもときどきどこか迷子のこどもみたいな、ほつれそうなちぐはぐに時折見えるりこちゃんが心配で不安だけど―――


 頬ずりしていたら、お花ちゃん今日は子供みたいとくすくすと心地よく喉で笑う声がする。ふたり付き合い出してから、少し似たところも増えてきている。そう言うとりこちゃんは変な顔になるけど。


「―――りこちゃんのこと、まってるね」

「は、花!!? 僕捨てられる!? ……利根田さん、命賭けあおうか」

「え!!? これは略奪のお誘い!!? お花ちゃんが言うなら私!! あ、でも軽く死ねる」

「落ち着けお前等」


 タイミングが悪かったのか、二人でわーわーと慌てている。楽しそうなので思わずふふ~と笑っていると、呆れた様子で大神くんが傍にやってきた。


 自然にりこちゃんと聖くんの間に入って、観察する様に私を静かに見る。でも、それもすぐにりこちゃんの声がして逸れた。

 一瞬で優しく細めた目は、誰から見ても慈しみに満ちている。


 だから、私は安堵してようやっと腕を離した。


 暖かさが減るけれど、すぐに聖くんにぎゅうっと捕まえられる。


「花、浮気する前に悪いところがあったら言って。全力で直す。無理なら…」

「やばい! ヤられる!!! 大神助けてくれ!」

「助けても浮気されるしなぁ?」

「野郎共がひでぇ! お花ちゃあーん! はっ! エリスちゃん助けて!」

「嫌ですわ」


 聖くんは威嚇しながらしっしと手先でりこちゃんを追い払っている。

 聖くんと目配せしあって、大神くんに首襟を掴まれずりずりと引き摺られるりこちゃんは涙目だ。


 でも、あれくらい強引で力強く引き寄せる腕の方がいいのかもしれない。

 今までは不安だけだったけれど、今は傍に守る様に狼さんがいる。


「花、どうしたの」

「ん~、なんでもないよ~」


 女の子の背もたれになって、窮屈だけど満足そうにぐるりと寝そべる大きな狼を想像してしまい、思わずふふと笑いが零れる。突然笑ってしまったので、不思議に思った聖くんが声を掛けたけれどゆるく首を振った。


 本当は私がぎゅうっと抱き締めてあげれたらいいけど、私じゃたぶん力が足りないから……。

 だから、私は手をめいいっぱい広げて待っておく。でも、その代わりもしりこちゃんが何か困って私を頼ってくれたその時は、離さないように安心できるくらい力強く抱きしめ返してあげるんだ


「名前、忘れてただろ」

「ま、毎回とか聞いてないし!」

「じゃあ今から毎回な」

「あーあー聞いてませんー」

「ガキか」


 遠くから聞こえた仲の良いじゃれ合いに、不安が薄らいで思わずまたふふっと笑いが零れてしまった。







 

 

 

 


 

 

 お花ちゃんはおっとりしてるんですけど、こう、どんなに絡まった糸や状況の中でも、時間はだいぶ掛かるんですが物事の本質を見抜く目があるイメージです~。頭がいいわけでも、意図を汲む読解力があるというわけともまた違います~。なのでゆっくりじっくり時間は掛かる。こう、毛糸玉を解いて中の芯《本質》が分かるんじゃなくて、糸の隙間をぬって芯を見抜く感? もはやそれは一種の超直観とか才能ではある。

 ただ、社会に出ると、出来ない人間扱いされることもあるでしょう。というか、正直行動はゆっくりなので仕事が出来るかというと出来ない分類です。でもお花ちゃんの真価は日常でなくて、窮地で輝く能力かなぁ。目だけあっても仕方ないので、両方もった強さ?


 例えば「100人中99人があの会社の社長は横領をしたんだ。だからこの会社は倒産する。別の会社に行こう」と言ったとして、実際にはやっていないけど恨まれまくってるすんごい自他共に厳しい性格のキツイ人で、その会社の社長がお花ちゃんを使えない者扱いして邪険にしてたとしても「あの社長はそんなことしないと思う」と最後の五人あたりまで掛かりつつも自分の中で見て来た理由をもって判断して「でも悪い点もあったし倒産はするだろう」と認めつつ、倒産を避けられる能力はないので倒産しちゃいます。でも、寄り添いたいと思った人だったら、例え倒産してもその下について、社長が田舎に帰ると決めるまで見送るか、もう一度奮起するので助けてくれと頭を下げたならどんだけマイナススタートでも微笑んでその手助けをする感じイメージかな。お花ちゃんはどんな状況でもおおらかに受け入れてハピエンに持っていく精神的な健やかな強さというか、しなやかな器の様な心の強さイメージ~

 大事な守りたいものを見極めて分かっているので、億万長者の嫁でも、畳一畳の部屋の嫁でも、微笑みの質が変わらないのは稀有な子だと思います~。

 これ伝わる?長い?ごめんw

 まぁ聖也くんが畳一畳の稼ぎで収まるわけないので大丈夫でしょう(ぇ

 

次話予約「あねき」16日18時〜☆


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