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11、中学一年生 適性検査。衝撃だった 中

 

 

 


「りこちゃん緊張するねぇ~」

「そうだねお花ちゃん。あ、終わったら待ってて~。一緒に帰ろ?」

「うん~」


 ぽんやり微笑むお花ちゃんの列の後ろを首尾よくゲット出来たので、ここまでくればバッチオーライである。古い? き、気のせいであろう。


 目の前には如何にもな臨時で建てられた白い小部屋の扉が五つ隣り合って並んでいる。私たちはその前で縦に並べられた椅子にお行儀よく座っている感じであるな。あれだ、健康診断の待ち時間を思い出す感じ。


 まだ我らが一組のみんなしかいないので気楽なものであるが、先生も居るのであまり雑談は出来ないから手持ち無沙汰だ。とか言っていたら、準備が整ったのか先生に一番前の人から小部屋に入るようにと言われた。


 お花ちゃん頑張れ…!いってらっしゃい…!


 両手のガッツポーズで見送る。両隣の列の子も緊張と興奮の面持ちで小部屋へと入るものだから、私もみんなが心配でハラハラドッキドキである。


 大丈夫かなぁと椅子の上から小部屋の中を透視できる訳でもないのに体を左右に揺らしていると、隣の大神に鼻で笑われてしまった。くぅ、余裕ぶりやがってからに。


「大神は余裕そうでいいよねぇ」

「別に。性が何でも俺は俺だし関係ねーだろ」

「それは大神にアルファの確率が高いから言える横暴だよ。別にオメガやベータが悪いって訳じゃないけどさ、もし検査後でオメガだったとしても同じこと言える?」


 まぁそんなことはないだろうけど…と付け加えようとして、少し意地悪な質問をしてしまったと言ってから若干後悔したが、対する大神は真剣な表情で一拍考えたあと口を開いた。


「別に。オメガだからってやりたいことやらない言い訳に使う方がだせぇ。俺は俺の好きにやる。研究を変える必要はあるけどそれだけだ」


 そう言ってまた少し考える様にその長い睫毛を伏せ「それに、確か持ってるもんは好きに使い倒したり工夫しろ、だろ」と揶揄う様に言うのだから、その性をあくまでも個性に過ぎないと言い切れる強さとか、その年で既に芯とか軸を持てていることに悔しさと憧れが一瞬湧いた。

 

「ねぇ、大神のやりたい研究ってさ―――」

「利根田、大神、仲良過ぎなのは分かったから私語厳禁だ」

「先生仲良過ぎは誤解です!」


 途端みんなにくすくす笑われる。


 ううっ、先生! 私を使ってこの検査の緊張感払拭作戦とかりこちゃん反対でーす!!


 当の大神は我関せずで飄々と欠伸してやがるのに、酷い話である。という訳で仕方なしに大人しく居た堪れなさに身動ぎしながら待機していると、程なくしてお花ちゃんが扉を開けて帰ってきた。慌ててお花ちゃんの顔色を見る。


 だ、大丈夫かなっっ。お花ちゃんの顔色は…、顔色を見―――


 お花ちゃんが夢見る女の子みたいに頬を染めていた。


 お花ちゃーーん!!? 何で青ざめとか、通常状態のぽんやり癒し笑顔じゃなくて薄っすらと頬を染めてるのー!!? 中で何があったの!!? お花ちゃんの性より何か重要な衝撃事態な気がするよ!!? 聖也くんなんかごめーん!!?


「お、お花ちゃんど、どうしたの!? 中で一体何がっ」

「りこちゃん」

「う、うん」

「とっても素敵なお医者様だったの~」

「なん、だ、と……」


 ばっと思わず扉の先を眺めたが、室内に誰が待っているか分からない。ヘルプを求めてさ迷わせた視線が大神と合えば、不機嫌そうな表情で睨まれた。


 うひぃ、分かったよ自分で解決するよ!

 冷たい野郎である。


 女、利根田。”あの”お花ちゃんさえ倒した相手に今から逝ってきますとも…!


 可笑しいな、これ適性検査の筈なんだが。ま、まあいい。


 ひとまずお花ちゃんに待っといてねと言おうとしたら、残念なことに目を付けられていたようで、45ドに「終わった者から順番に帰って次の子を呼んでくるように」と先回りされてしまった。


 むむう、45ドめ、流石に分かっておるというか効率主義だのう。


 仕方なしに頬に手を当てて周囲に目に見えぬ花が舞っ踊っちゃってるお花ちゃんの背を見送る。


 うう…。あの状態のお花ちゃんを見た聖也くんは魔王に聖転換しないか恐いというか、絶対闇堕ちる気がするでごわすよ。ああ、教室に帰りたくないなぁ。というか今からこの小部屋に入りたくないなぁ。教室に大神だけでもしんどいのに、闇堕ち聖也くんまで降臨して魔王が二人とか…。一組崩壊の危機だなぁ、ああ、面倒臭い。


 うふふと遠い目になりながら、とりあえず自分の出席番号と名前を言ってドアノブに手を掛ける。


「おい理子」

「分かってるって後で教える教える」

「チッ、違ぇっつの」


 何か後ろで言ってる大神よりも目先の強敵である。

 ほんじゃまぁ、行きますか。


「一二番の利根田です。失礼しまぁ…す」

「はいどうぞぉ」


 耳に響いた声は、落ち着いた男性の声であった。







 お花ちゃんって……、もしや爺専だったりするんだろうか……。なるほど、我がオメガバース愛に並ぶ才能の持ち主の可能性が……


 それはそれで聖也くんの緊急事態だなぁとぼんやり思いつつ、注射器でちゅーっと血を取られる。この血を取られる行為って苦手なんだよねぇ。前世、山田 莉子時代から苦手なので筋金入りと言ってもいいんじゃなかろうか。なんか抜かれてるなぁっていう感覚がさぁ


 あんまり自分の血を抜かれている状況をじっと観察するのも微妙な気分なので視線を上げると、好々爺然とした白衣のお爺ちゃん医師がいる。青みがかった白髪を綺麗にオールバックで固めた、そう、”お爺ちゃん医師”である。


 何か、聖也くんよりも更にゴージャスで、王子様聖也くんの上位版だからてっきり王様みたいなイケメーンでも出てくるのかと思ったけど、予想の百八十度真逆であった。そっちかーいお花ちゃーん!とドアを開けて数秒固まった程度はびっくりした。


「ほっほ、よく我慢できたの。五分で検査結果出るからそのまま待ってなさい」

「ありがとうございます…。早いんですね」

「丁度最新機種になったばかりでの」


 ぱちんとお茶目にウインクされる。なるほど、お花ちゃんはこのお茶目可愛いさに爺専のツボを――

 

 お花ちゃんを既に爺専疑惑で固めて謎な納得をしつつ、一応探りを入れとくことにした。ほ、ほら、何も収穫ないと聖也くんへの供物が足り無さそうで…! おっことぬ…じゃなかった魔王よ、静まりたまえ…!


 取られた我が血液ちゃんを確かに最新っぽい機械でぶん回し中のお爺ちゃん医師をこっそり伺う。秒速あれ何周だろう。


「私、自分がオメガなんじゃないかって不安で…」

「ほっほ…。検査後にそれぞれの性ごとに診断もするから大丈夫じゃよ。オメガだからと卑下する必要も、ベータだからと落ち込む必要もないからの。社会で働くオメガ達は何人も居るし、今は抑制剤や法整備が整っておるから大丈夫じゃ」

 

 優しそうな笑顔で言い切るお爺ちゃん医師は頼もしい。白いゴム手袋をぱっぱと取ってゴミ箱に捨てている。猫かぶり演技りこちゃんの効果のほどは微妙だ。


 なるほど、普通に祖父とかに居そうな感じだなぁ。それも孫から好かれる頼れる系。聖也くん現場からのレポートは以上です…!


 検査結果が出るまでの時間を脳内で遊びつつ、ふと気になった所を質問してみることにした。オメガ関連の法律とかあるなら知りたいなぁ。


 だって前世、山田 莉子のオメガバース知識だと、路地裏でオメガの男性女性がヒートとか起こして通行人複数人で…ってザラにある物語が多いのである。何処の妄想過多エロ広告アプリだという話だが。え?急にぶっこむな?ご、ごめんって。


 いやまぁ現実でやったら、即座にアウト―!だが、でも読んできた本だと普通に受け入れられてたし…。まぁそりゃ設定からしてエロには寛容というか、作者も読者もそれを求めてる人も多いだろうしねぇ。だから法律というより、この世界版の社会ってどういう感じなのか興味あるのである。


 前世、山田 莉子も小説とか設定で楽しむ分にはそれがその世界ごとの普通だと流してたし。とはいえ前世、山田 莉子はエロ目的よりも性差とかの障害で盛り上がるカップルの苦悩やら青春群像劇でうひょう萌えー!!!と楽しんでたクチであ……いや、大人しくしときやす。


 というかこの世界、中学生まで携帯持っちゃ駄目だわ、それならそれでと意気込んだ小学校の図書室は健全も健全だわ、中学校の図書館に新学期早々早速乗り込んだのに、閲覧しようとしたら適性検査以降じゃないと詳しい本の閲覧は無理だと書棚から取り出す前に機械に言われる健全具合だわ……いや薄汚れた大人ですんません。この世界、無駄に前世の地球よりハイテクな所もあるんだよなぁ。


 とはいえ街の図書分館も渡された個人カードで年齢ばれるから、性関連の読みたい本も閲覧出来ないわ、機械で年齢チェックされるからコンビニでさえ買えないわ……。珍しくゲット出来たあのお花ちゃん用予定だったヒート資料だってすんごいふんわりめに書かれてたのである。皆さんこのりこちゃんの苦労分かってくれた? どう? どう?


 それにしても毎回思うが個人差ありますで内容の大半を占めやがってあの本め…。しかも語句説明ばかりで全部内容知ってたしな。我がお小遣い二ヶ月分の癖にしょっぱいヤツである。


 というかむしろ母よ、お小遣い月に三百円って物価と比較しても安すぎる気がするんですがどうでしょう。これが普通なのだろうか…?りこちゃん恐怖である。


 まぁ肩たたきと皿洗いでひたすら荒稼ぎしたけどさ…! 分給すると十分百円だけどさ…! この愛らしき容姿で父上からはスマイル千円もぎ取ったけどさ…!


 え? げすい? 大人の処世術と子供の特権と言いなさい。むしろ反抗期の無い両親思いの娘とはこの美少女天使りこちゃんのことであ―――すんません調子乗りました。


 まぁ親の携帯でさえ指紋認証で弾かれるから無理だし、この世界、何と言うかかなり潔癖な気がするのである。アルファのお陰のパラレルワールドだからか、地球に似過ぎていて、地球よりもハイテクな所もあれば違う所もある。そんな感じを今の所受けている。

 

 私が読み漁ったオメガバース作品は幼少期や詳しい法律まで書かれていたものなど無かったため、パラレルワールドか、どこかの作品に紛れ込みか、はたまた妄想かは分からないが埋め合わせがこうなっているのだろうかと螺子の噛み合わない様な違和感は今は我慢している。

 

 情報制限が解除されれば自然と私の知るオメガバースの世界の側面も見えるだろうし。携帯さえ手に入れたらきっと同士もいっぱい居る筈だしね。


 というわけで折角詳しーく正しい知識を知ってそうで、一回こっきりの出会いであろうお爺ちゃん医師から情報を聞けるのはいい機会なのだ。親や先生とか近所の大人からは流石に性に興味ありまーす!って聞きまくるの恥ずかしいし


 え? ちゃんとりこちゃんいい子だから恥ずかしくらい持ってるよ? え? あるよ? え? そんな奴はいきなり変な話ぶっこまない? 何を言ってるのか聞こえないなぁーー?? あ、調子乗ってすんませんっした。


医師せんせえ~。オメガって法律で救済措置があるんですか? 逆にアルファって優遇措置とかあるんですか?」

「ほっほ、其処に興味があるんじゃのう」


 柔和に目を細めたお爺ちゃん医師がよくある黒い丸椅子を引き寄せて私の正面に座る。


「利口じゃの。自分の性よりはそちらの方に関心があるのか。”普通の子”はよく自分の性が気になって落ち着かないのが目に見えるんじゃがのう?」


 瞬間、ぞわりとした。

 思わず素直な若い身体に引っ張られて目を見開いてしまう。

 正面では相も変わらずお爺ちゃん医師が優しそうに目を細めているが、気付く。


 あ、これ何か探られて…る? 何で? 何かバレた? 前世の記憶があることが? いやでも自重はしなくても悪いこととかはしてないし、する気もないし…。でも何で? どこから?

 

 一瞬で心臓がひやりと動揺したのを誤魔化すように、見開いた目をわざと子供らしく何度も瞬きさせた。公立学校にもアルファは紛れている筈だし、だから歳の割には大人びた態度もそこまで変じゃないかと思ってたけど…。


 いや待って、そもそも私が過敏に警戒し過ぎてるだけかもだし…。それに探られていたとしても前世の記憶があることを知っても得になるかと言うと微妙というか、目的も分からないし…。此処が中世ならまだしも、この世界で、この世界に似過ぎた地球文化知識で内政チートして大金持ちなんて鼻で笑われるだけである。


「えっと…、興味はあるんですけど、両親共ベータだしこの顔何でもう分かってるというか…。クラスメイトにアルファっぽい子も居るんで、余計分かりやすいというか。自分がオメガか不安って最初に言ったのはえっと…、友達で不安がってた子が居たので気になりまして」


 嘘は言っていない。此処で嘘をついても仕方ないので素直に苦笑いで答える。流石に口ではアルファかも…!と言ってはいるが、まぁ信じていればゼロパーセントではないとはいえ、まぁ、うん、ベータだろうしね…、うん。折角この世界に居るならアルファとかオメガとか特別感欲しかったなとか思ったりなんかは……、めっちゃ思うけどね……、うん。まぁそこはそれである。ほら、オメガバース愛の使徒は見守りに専念出来ると思えばリカバリーは出来るからね……、うん、多分。


 キィ…と同じく黒い丸椅子に両手を当てて座ったまま、足をぶらつかせてお爺ちゃん医師を見上げる。今更子供っぽくしても駄目、かな?


 うーむ、読めない。優しそうな顔のままだし、お花ちゃん騙しのテクニックだろうか? 第一印象で見抜けなかった時点で負けと言えば負けである。利根田 理子よりも、山田 莉子よりも相手は大人で上手だ。正直早く逃げて終わりたいのが本音である。どうすべきか…


「なるほどのう。友達思いじゃな。ああ、そう怖がらずとも大丈夫じゃよ。おまいさんも含め担任の先生から列を指定された子が居たじゃろう?」

「そういえば」

「担任が特に心配しておる生徒は儂みたいな熟練者が診るようになっとっての。ほっほ、先に資料も渡されておる」


 だから個人情報!!!


 それとも我が地球の経験とこの世界の個人情報の感覚って違うのだろうか。過保護というかなんと言うか…。というか、45ドめ、そんな素振りちっとも見せなかったのに…! 首尾よくお花ちゃんの後ろゲット出来たわーい!と思ってたのに何か恥ずかしいじゃないか…!!


 内心で顔を覆いたくなりつつ、一体何処を心配されてるのかとか、一体どんな情報が渡されているのかと不安になる。そんなにやらかしてたっけかなぁ。あんまり思い返しても自重してない気がするから心当たりがあると言えばあるし、悪いことはしてないと思うから無いと言えば無い? 


「それ、言っても大丈夫なんですか?」

「まぁおまいさんは資料通り大人びておるようじゃしのう」

「あはは…。そういえば私は何処を心配されて…」


 そろりと視線と共に探りを入れるとぬるりと避けられる。

 ほっほと目を細めて好々爺と笑っていた爺様は、腕時計を見てから時間じゃのと先程の命名、最新適性判別機器の方へと歩いて行った。

 

 うーむ、さっきからウナギみたいにはぐらかされてばかりだが、追及しずらいし相手にするのは苦手なタイプだ。手の平で転がされる感じしかしない。

 

 とはいえ何だかんだお待ちかねというか、メインイベント、自分の性が分かるターイムである。

 


 はい諸君ちゅうもーく!! 何と!! 私の性は――――






 





 え? ここで区切ってくるとは思わなかった? 無駄に引っ張るなこんにゃろう?

 衝撃だっただろう? わいも大体半分の位置みたらここで衝撃だったんだぜ(ぇ




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