2.似ている二人
「貴女が、魔女サタンナ――ですか」
「ふえ。魔、女……です? 今まで魔王(笑)とは呼ばれてましたが、魔女と呼ばれるのは初めてです。そういう貴女は、いったいどなたですか?」
「わたくしの名前は、クリスティーナ・ランディル・コーネリウス。ミルドガッド王族の第一王女ですわ。二度とお目にかからないでしょうけど、ね」
「…………? とりあえず、お客様――ということで、よろしいのでしょうか」
魔王城の奥に案内されたクリスティーナ。
通されたそこは、比較的小さな一室だった。とはいっても、ここまで歩いてきた限り、どの部屋も誰が暮らすのかと疑いたくなるような大きな部屋ばかり。
そう考えると、ここはやはり小さな一室だった。
「ここは、貴女の部屋なのですか? 魔女」
客人扱いされていることが、どうにも引っ掛かったからだろうか。
クリスティーナは二人きりにされた絶好の機会であるにもかかわらず、すぐに手を出すことが出来なかった。さらには、そんな世間話をしてしまう始末だ。
「そうですね。リクさんとはもちろん別ですが、食事や農作業の時間以外はここに一人でいることが多いです。私室と、そう言って良いのでしょう」
「ずいぶんと回りくどい言い方をするのですね。貴女の城でしょうに……」
「え、あ……たしかに、そうですね」
やけに丁寧に答えたサタンナ。
そんな少女に対して、王女はどこか違和感を覚えながらため息をつく。
すると憎き相手である彼女は、頬を掻きながら苦笑いをした。そして何か思い出すようにした後、微笑みながらこのように語り始める。
「私ずっと、産まれてからこの城で暮らしてました。だけど住んでたというより、軟禁されていた、と言った方が近くて――自分の家、という意識がなかったです」
「え、軟禁……ですって?」
「はい、そうなんです。私はどういうわけかずっとここで、一人で暮らすことを強要されてきました。どうして自分なのかとは、何回も考えましたね」
「……………………」
「あ! すみません、なんだか暗い話になっちゃいましたね!」
「いえ、いいですわ。そうだった、のですね……」
完全に不意打ちだったのだろう。
クリスティーナは、少しだけ押し黙ってからこう言った。
「今は、どうなんですの?」――と。
その問いかけに、サタンナは少しだけ考えてからこう答える。
「今は、毎日が楽しいです。リクさんもいますし、なにより一人きりだった私のことを『家族』と呼んでくださったことには、感謝しかありません」
「『家族』――です、か」
返答を受けたクリスティーナは、その言葉を繰り返した。
そして、ゆっくりと深呼吸をする。なにかを言おうとして、それを止めて。そんなことを数回繰り返してから、意を決したようにこう言った。
「貴女よりマシかもですが、わたくしにも――『家族』と呼べる存在は、いませんでしたわ。お父様でさえ、わたくしをどこか道具のように見ている……」
「え……?」
それは、身の上の告白。
王女として生きてきた自分にもまた、それが欠けていた、と。
「もしかしたら、わたくし達は似た者同士――なのかも、しれませんわね」
「クリスティーナさん……」
寂しげに笑った王女に、少女は悲しげな視線を向けた。
そこに先ほどまでの剣呑とした空気はなく、どこか哀愁の漂うそれに変わっている。もはやクリスティーナに、殺意や毒気はなかった。
態度が軟化したのをサタンナも察したらしい。
不意に、こんなことを口にした。
「あの、クリスティーナさん! 私たち、その……お友達になりませんか!?」
「え、お友達……!?」
それは、あまりに唐突な申し出。
王女はまったく想定外の言葉に、文字通り開いた口が塞がらない。
その様子を見てサタンナも、勇み足だったことに気付いたのか、小さく声を漏らしてからおずおずと引き下がった。そして、恥ずかしそうに頬を掻く。
「あの、魔族の私なんかで良ければ……」
最後には消え入りそうな、そんな声で。
クリスティーナは幼い見た目をした少女の、その提案を噛み砕いてゆっくりと、深い呼吸を何度か繰り返してから呑み込んだ。
やがて理解が追いついた時に、王女は――。
「ふ、ふふふっ……!」
笑ったのだ。
まるで完全に緊張の糸が切れたように。
そうしてしばしの間を置いた後、おもむろに手を差し出した。
「貴女、魔族なのに面白いことを言うのですね。わたくしで、良ければ」――と。
サタンナはそれを聞いて、パッと満開の愛らしい花を咲かせた。
手を取り、心の底からの感謝を何度も述べる。
世間知らずな二人の女の子。
魔族と人間。不思議な友好関係が、ここに始まった。
いつもありがとうございます!
もし少しでも面白いと思っていただけましたら、気軽に感想等、応援していただけると励みになります。よろしくお願い致します!
次回の更新は明日の昼ごろ!
よろしくです!!
<(_ _)>