1.王女(当て馬ヒロイン)、村人と出会う
「ところで、なんで農作業だったんですか?」
「ん、そんなことも分からないの? サタンナ」
「いや、分からないでしょう。普通に考えて、魔王城で最初にやることが『農作業』だというのは。アルフレッドさんが混乱した気持ちも察せますよ」
少しだけ自分を小馬鹿にするような言い方をしたリクに、サタンナはジト目でツッコみを入れた。かれこれ魔王交代から一ヶ月が経ち、互いに遠慮もなくなってきている。そのため少女も、青年もこんな感じの会話をするようになっていた。
「それで、どうして農作業を?」
切り替えるように、もう一度質問をするサタンナ。
それにリクはこう答えるのだった。
「『家族』といえば、共同作業! 共同作業といえば農作業だろ? 毎日同じ時間に起きて、挨拶をして、同じような苦労をして一つの結果を生み出す!」
「は、はぁ……。なる、ほど……?」
勢いに押される形で、納得してないにも関わらず納得の相槌を打つ少女。
するとニッコリと笑った青年は、元気良くこう宣言した。
「さて、疑問もなくなったところで……今日はそろそろジャガを収穫しよう!」
こうして、また一日が何事もなく始まる。
そう思っていたのだが……。
◆◇◆
すでに元の面影はなく、完全に畑へと変貌を遂げた中庭には先客がいた。
「ここが、魔王城――の、中庭なのですか?」
それはなんと、ミルドガッドの王女であるクリスティーナ。
彼女はビクビクとしながらも、一歩一歩、確実に前へと進んでいった。いったい何が彼女を後押ししているのか、それというのは……。
「アルフレッド様をかどわかした魔女――わたくしが、この手で!」
そう、あのアホ勇者のためであった。
「あの日から、あの方は変わってしまった。王宮絵師に魔女の絵を描かせては、それを部屋のいたるところに飾って眺める日々。毎日励んでいた剣術の稽古なども手につかず、ましてや勇者としての役割など果たせるわけもなく――わたくしが恋い慕っていた人は、魔女サタンナによって歪められてしまった。それでも、その命をこの手で摘み取ればきっと……!」
きっと、自分のもとに帰ってきてくれる。
悩みに悩んで至った結論は、それこそ暴挙とも取れるものだった。
「それにしても、この畑はいったい……?」
ナイフを片手に、周囲を警戒しながら進むクリスティーナ。
彼女は異様とも言えるそんな空間に馴染めず、挙動不審になっていた。そうしていると当然、目立ってしまうわけであり、こう声をかけられるのであった。
「あれ、キミはいったい誰なんだい?」――と。
それは、想定していた女性のものではなく男性のもの。
王女は大きく肩を弾ませて、その声のした方へと振り返った。すると、そこに立っていたのは見るからに平凡な村人、といった感じの青年だ。
小首を傾げて彼女を見つめる彼は、不思議そうな顔をしている。
「魔女、ではない……」
対してクリスティーナは思案顔。
眉間に皺を寄せて、この男がいったい何者なのかを考えた。その結論が――。
「(あぁ、なるほど。この男は使用人ですわね)」
という、頓珍漢なものだった。
そのためクリスティーナは男性――魔王であるリクに向かってこう言う。
「使用人! わたくしを、魔女サタンナのもとへ案内しなさい!!」――と。
ひとまず、ナイフを懐に仕舞い。
そのやや大きな胸を張って、大きな声で。
その言葉を受けたリクは瞬間、何を言われたのか分からずに困惑する。だがすぐに何か、納得したような表情になって大きく頷くのだった。
「あぁ、つまりサタンナのお友達なんだね! それじゃ、いまから初収穫のお祝いだから、せっかくだし一緒に食べていくと良いよ!!」
そして満面の笑みでそう言うのである。
クリスティーナは、想定していなかった反応に首を傾げた。
しかし「(まぁ、いいですわ)」と、そう思うこととしてリクについて行くのであった。
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