5.不思議な話もあるもので。
ここまで第一部。次話から、二部に入ります。
「喧嘩はいけませんよ? リクさん」
「うん。分かってるけど、せっかく耕した畑を荒らされたからね。それに作物に対して、命に対して敬意がないのは駄目だと思ったんだ」
「まぁ、それはたしかにそうですけど……」
「でもサタンナが喧嘩しないで、って言うならもうしないよ」
「そう、ですか。ありがとうございます」
アルフレッドを送り返した後、リクとサタンナはそんな話をしていた。
今回は向こうに非があることを理解した少女ではあったが、力で物事を解決したことには感心していない様子。そんなわけだから、青年は小一時間ほど彼女と話し合い、そんな落としどころを提案したのだ。
ただ、その中で彼はあまりにも暢気に――。
「(――喧嘩はダメ、だなんて。サタンナは優しいなぁ)」
などと、どこか気の抜けたことを考えていたりするのだが。
その先からは決して口には出来ないし、しようとも彼は思わなかった。闘争が嫌いというのは、魔族らしくない、と。そう言ってしまえば、ただの偏見だろう。
「(さて、それじゃ。少し話を変えようかな……)」
それはいけない考えだと、分かっている。
だからこそリクは、別の問題へと話題を変えることにした。
「それにしても、俺が魔王になった途端に勇者が現れたね」――と。
世間話のように。
青年は重要なことを切りだすのだった。
「……たしかに。言われてみれば、そうですね」
それに対して、サタンナはハッとした顔になり同意する。
「勇者というのは、女神たちの信託があって誕生する者です。話によるとそれは高位な神官に伝えられ、国王に報告される、とのことで。……今まで、私が魔王を務めていた頃には動きもしなかったのに、どうしてこのタイミングで?」
「世界は対抗しているといっても、魔族に支配されて、世界各地には魔物が大量発生していた。それなのに、ってことだよね」
「はい、そうです。偶然かもしれませんが……」
……どこか、腑に落ちませんね。
サタンナはそう呟くように言って、目を細めるのだった。
「本当に、彼は勇者なのかな……」
「え、それってどういう意味ですか?」
そうしていると、ポツリと。
青年がそう言った。
「ううん、なんでもない。こっちの話だよ」
――が、しかし。
すぐに笑顔を作ると、少女に向けてそう返した。
そして、鍬を手に取って歩き出す。少女は小走りでリクの後を追って、彼の顔を覗き込んだ。見られていることが分かっているのか、表情は変えない。
「むー、なんだか秘密がありそうです」
「ははは、そんなことないって」
「ありますよぅ!」
サタンナに言われ、リクは答える。
だが少女は納得せずに、ムッと、膨れ面になってしまう。
そんな少女を見ながら青年は、無邪気に笑ってこう思うのだった。
「(ごめんね、サタンナ。いつか話すからね)」――と。
◆◇◆
誰にも知られない暗闇の中。
そこには、少しの光も差し込まない。
神々の光があるのだとすれば、それはきっと対極の存在だった。
『何が起きた』
言葉にならない声。
概念的な何かが、蠢くようにそう口にした。そのように思われた。
『裏切りだ』
『反逆だ』
『謀反』
答えるのは、同じような何か。
少なくとも人間にとっては認知外の言語だった。
しかし、あえて言語化するのであれば、それらは口々にそのように述べる。
『ならば誰だ』
そして、そのうちの一つが疑問を呈した。
しばしの沈黙の後に、やがて彼らは一つの結論を導き出す。
『もしや――』
それは、誰にも知り得ない真実に迫るもの。
『――リークハルト、か』
だがしかし。
それが、人に知られることはない。
今日もただ、揺らめくように闇の中に溶けていくだけだった。
次回の更新は明日の昼ごろに!
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