6.影が動き始める
ちょいとだけ、シリアス?
「えー……? 二人そろって、なに言ってるの~?」
「国王様、争いはなにも生みません。生み出すのは悲しみの連鎖――共に手を取り合うことこそ、真の平和に向けての第一歩ではないかと」
「お父様、わたくしもアルフレッドと同意見です。それに魔王城の使用人には命を救われた恩があります。ここは一つ、それに報い、感謝することが必要かと」
「いや、ね? キミたちの考えはとても美しいものだし、実現が可能ならそれはとても――ね? でもさ、ちょっと国王っちの立場も考えてみてくれない? 仮に二人の意見を聞いたとして、女神様の神託とか、国民の反発とか、そういうの考えて? ――ね、一回でいいから!?」
謁見の間において国王は頭を抱えていた。
そして、若い二人に対して必死に訴えるのである。
「いやぁ、国王っちもビックリだよ。まさか魔王城に行った二人が、いとも容易く籠絡されてるんだもん。ねぇ、いまの国王の気持ち分かる? 勇者と王女が、魔王とその使用人さんと仲良くしたい~、って言い始めた時の国王の気持ち。暴君だったら、即打ち首だよ? 分かってるの?」
「しかし、この国の戦力をもってしても魔王城の戦力は超えられません」
「わたくしは、お父様の気性を承知の上で提案していますので、大丈夫」
「え~、こっちの話聞いてたぁ? これじゃ、会話のドッジボールじゃん。少しはキャッチボールしようよ~、って言っても駄目なの分かってるんだけどさぁ……」
国王、涙目である。
しかしそのような心中など知ったことかと、勇者と王女は折れなかった。
ここまできたら、もうどうなっても話は平行線だろう。そのため、国王はひとまず彼らを帰らせることにした。もとい、クリスティーナの家はここだが。
「ふぃ~……困ったなァ。二人とも浅いというか、なんというか」
そして、謁見の間で一人になった国王は玉座に深く腰掛け呟いた。
だが、その言葉を聞いていた者が一人。
「心労――お察しいたします。国王様?」
「あぁ、いたのヴァネッサちゃん。本当だよ~、もうオギャりたいぐらい」
「ふふふっ。そこまで冗談が仰れるなら、まだ大丈夫ですね」
「ぶー、ぶー! もっと慰めてよ~!」
それは、豊満な肉体に神官服をまとった女性だった。
ヴァネッサと呼ばれた彼女は、緑色の長い髪を揺らしながら国王の隣へ。そして、神に使える者とは思えないほどに淫らな仕草で、玉座にもたれ掛るのだ。
「それで、進捗はいかがです?」
紅い瞳が国王を捉える。
その宝石のような輝き、そして微かに見える二つの果実に鼻の下を伸ばす国王。
「ん~、ごめんねぇ。ヴァネッサちゃんの言った通りにしたんだけど、アルフレッドもクリスティーナも魔王を殺すのに失敗しちゃったっ!」
彼はだらしのない表情で、ヴァネッサに答えた。
心なしか鼻息は荒く。なにかを期待しているかのように、指先を震わせる。
「まぁ、そうでしたか。大丈夫です、国王様は悪くありませんよ」
「ひゃ、ひゃいっ……!」
すると、そんな国王の気持ちを感じ取ってか――そう言いながら、彼女はもはや傀儡と化した彼の首筋に指を這わせた。刺激が強すぎたのか、奇声を上げる国王。
その様子に、ヴァネッサは自然と口角を上げるのだった。
「では、次は私のもとから敬虔な信者を送り出すことにしましょう」
続けて彼女は、そう提案をした。
とうとう言葉を失った国王は、小刻みに震えながら頷くのみ。
「それでは、今宵はこれにて。国王様も、ゆっくりお休みください」――と。
そう言い残して、ヴァネッサは闇の中に溶けていった。
取り残された国王は、気持ちの悪い声を漏らしながら意識を失う。
謁見の間に展開された『結界』の中、それがその夜に行われた密談だった。
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