5.その村人、無双する
ちょこっと重め?の文体かもです。
――アークデイモンは、魔界に生息する悪魔だ。
強靭な肉体に膨大な魔力を秘め、理不尽な破壊行動を繰り返す。その活動に一貫性はなく、しかしだからこそ恐ろしい魔物だった。
時には死んだ仲間の肉を喰らい、その力を我が物とする。
そうして肥大化していったアークデイモンは、いつしか生ける災害と呼ばれるようになる。今回のそれはまだ成長途中ではあるが、十二分な魔力を保持していた。
「さっきの一撃――俺でも、喰らってたら骨を持っていかれてたな」
冷静に、リクは距離を測りながら呟いた。
彼にはアークデイモンに関する知識はない。それでも、それを補うだけの経験値があった。何故ならこの魔物は、彼の育った村に頻繁に現われていたのだから。
多くの村人が、この悪魔の餌食になっていった。
その中でもリクは生き残り、ついに奴らが現れなくなるまで戦い続けたのだ。
「こいよ――悪魔。俺の中にある復讐心は、伊達じゃないぞ?」
普段は温厚な青年も、この時ばかりは別人格のようになる。
笑顔ばかりを浮かべていた顔には、冷酷な殺人鬼のそれがあった。鍬を構えて、鋭い眼光を敵に向かって投げる。しかし同時に、守るべき者のことも考えた。
「(クリスティーナは、絶対に守ってみせる……)」
決して戦闘狂というわけではない。
リクという青年は、すなわち守護者のような存在だった。
誰かを守るために大きな力を振るう。それが、彼の在り方だった。
「――さぁ、行くぞ」
静かに口にして、リクは真っすぐにアークデイモンへと駆け出した。
◆◇◆
クリスティーナは信じられないものを見ていた。
「そんな、あり得ないですわ……」
アークデイモンはSランク相当、あるいはそれ以上の等級に格上げされる可能性を持つ魔物だ。並の冒険者や王宮に勤める兵士、それらが束になってようやく勝てるか否か。勝てたとしても、相応の犠牲を覚悟しなければならない相手だった。
「あの使用人は、いったい何者ですの……?」
それだというのに。
王女の目にしたリクは、一人で互角――いや、それ以上。
彼の戦いは、動きは、常軌を逸していた。アークデイモンの巨躯の懐に潜り込み、鍬で一撃を加える。魔物は悲鳴を上げ、リクを排除しようとした。
しかし、鋭い反撃も青年を捉えることは出来ない。素早く距離を取った彼は、得物を構え直して大きく反時計回りにアークデイモンの脇をすり抜ける。
「強い、強すぎますわ……」
その姿を目で追っていたクリスティーナは、思わずそう呟いた。
彼女も過去に魔法学園に通い、そこを首席で卒業した経歴を持っている。王女としての務めを果たすため、最前線からは撤退した。
だがそれでも日々研鑚を積み、腕は衰えさせてはいない。
「すごい……!」
そんな彼女の口からは、感嘆の声が漏れた。
おそらく目の前で戦いを繰り広げる青年には、王都のどんな戦力を用いても敵わない。何故なら彼はまだ、本気を出していない。クリスティーナは直感した。
この、リクという男の底知れぬ強さを。
「リク、貴方は強すぎる……!」
唾を呑み込む。
胸の高鳴りを隠せなかった。
いま、王女は完全にリクによって魅了されている。
「わたくしは、貴方が――」
――欲しい、と。
言葉にはしなかったが、瑠璃色の瞳にはそんな文字が書かれているようだった。そして、彼女がそう口にした、それとほぼ同時に決着する。
上がったのはアークデイモンの断末魔。
村人――一介の農民であった青年は、魔素へと変換されていく黒い霧の中。
まるで、その余韻に浸るかのように立ち尽くしていた。
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