4.帰路でのこと
「悪いですわね、こんなところまで送っていただいて……」
「王都と魔王城が近いといっても、女性が一人で出歩くには危険な距離だからね。数日はかかるだろうし、魔物だって最近は多いし」
「心配いりませんのに、気の利く使用人ですわね。わたくしこう見えて、護身術と魔法には長けていましてよ? Bランクまでの魔物なら、一人で倒せます」
「ランク……? 魔物って、格付けされてるんだ。初めて知ったよ」
「ホントに、世間知らずなのですわね……」
リクの言葉に、クリスティーナはため息をついた。
時刻は日付の変わる頃。王女の帰路である森の中で、世間話をしていた。
「それにしても、お父様の仰っていたような危険はないのですね。魔王城にはこの世すべての悪と、そう称されている存在があると聞いていたのですが」
「この世すべての悪――か。少なくともサタンナは、そうじゃないね」
「えぇ、そうですわね。あの子はわたくしとそっくりでした。だからこそ、友達という突拍子のない申し出も、受け入れることができた……」
胸に手を当てるクリスティーナ。
「魔族とか、種族関係なしに――彼女は、わたくしの初めての友人ですわ」
そう、確かめるように言った。
リクは頷きながらその言葉を聞いて、小さく微笑むのだ。
「ちなみに、俺は?」
「貴方は所詮、使用人ですから。仮に仲が良かったとしても、友人という関係になることはありえませんわ。身の程を知りなさい?」
「あ、はい……」
ためしに訊いてみたら、バッサリと両断されたリク。
彼は苦笑いに表情を変えながら、しかしどこか嬉しそうにしていた。
「それにしても、貴方は貴方で不思議な方ですわね?」
「ん、そうなのかな?」
そんな青年に、クリスティーナは告げる。
「そうですわよ。あくまで感覚的な話ですので、具体的には言えないのですけど――例えるならそう、人間離れしている、という感じですか」
「人間離れ、か……」
「あぁ、これは悪口ではないのです。気を悪くしたのなら謝罪いたしますわ。ただ、貴方からは少し違った空気を感じることがあるのです」
「……………………」
リクは押し黙り、どこか厳しい目を王女に向けた。
それが彼の怒りなのだと思ったクリスティーナは少し、慌てた表情になる。だがしかし、さらに謝罪の言葉を重ねようとしたその前に、青年が動いた。
「伏せて――!」
「きゃ!?」
クリスティーナを抱え込むようにしたリク。
突然の出来事に悲鳴を上げて、王女は身を小さくさせる。その直後――。
「え――?」
――轟音。
木々を薙ぎ払う何かが、あった。
おそらく、リクに守られなければクリスティーナは即死。上半身を失っていたに違いなかった。ちょうど隣にあった大木が、その証拠だ。
王女は怯えたように声を震わせる。
もはやただの音になったそれに、含まれる意味は生存本能だけだ。
「……村にきてた魔物と同じ、か」
「え、村にきていた……?」
リクのやけに落ち着いた声を聞いて、ほんの少しの理性を取り戻したクリスティーナ。彼女は自身を守るように立っている青年を見て、言葉を繰り返した。
そして、同時にその先に立っていた敵の正体を知ることになる。
それは、彼女も文献によってのみ知っていた存在。
王都の外に出たことがない彼女が、遭遇するはずのない存在。
だがそいつは、少なくともこんな場所に現れるはずがない、と。
「そんな……アークデイモンが、どうしてこんなところに!?」
王女は、魔界と呼ばれる世界の住人の名を口にした。
「Sランク相当、地上に存在するわけのない魔物が――どうして!?」
明らかに混乱していく思考。
それでも、彼女は自身を守ろうとする青年の姿に気付き叫んだ。
「逃げましょう! 戦って勝てる相手ではありません!!」――と。
それでも、青年は鍬を構えた。
そして――。
「大丈夫だよ。サタンナの友達は、俺の友達――必ず守るから」
肩越しに微笑んで、そう言うのだった。
次回、主人公最強シーン。
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