ダブルデートパニック
はじめのデートといえばダブルデートですよね!
雪ちゃんが素直になったら少し変化があるかもしれません。
花火大会も終わり、再びのんびりな夏休みが戻ってきた。
宿題も終えた。あとは二学期になるまでのんびり過ごしていればいい。
時々悠里と遊んで、家で本を読んで。ああ、幸せ。寝たいときに寝て、食べたいときに食べる。ぐうたらな生活最高!!
今日もいつもと同じようにのんびり過ごす。
本当なら高遠くんを誘ってみた方がいいのかもしれない。でも、なんとなくいやだった。
いや、始めは攻略するつもりだったけど、今はそんなのどうでもいいと思っている。
やっぱりゲームとは違う。選択肢がでないゲームは難しい。セーブ&ロードも必須だ。
ここではそれがない。当たり前だ。生きている。
生きているということは意思がある。自分でものごとを決めることができる。
だからゲームよりよっぽど難しい。
はあ。攻略するって決めてたけど、無理だろうな。
元々引っ込み思案。
言いたいことが言えない性格。
もっとこう、ライバルキャラクターみたいな感じの性格だったら良かった。
こんなとこまで前世と同じじゃなくていいのに。
ゴロゴロ過ごしていると、ふいにスマホが音をたてた。
確認するとやっぱり悠里だ。
悠里くらいしか鳴らないからな。
もちろん私も悠里も別に友達がいる。だけど、遊ぶ友達は私にはいない。
《1人でも大丈夫!》
孤独に対しての耐性が強すぎる。
このくらいの年齢の子は普通グループを作って同じ年齢の子たちとわいわいしているはずだ。
私はどうもあれが苦手だ。
楽しい話題もある。でも、陰口なんかも多かった気がする。これに関しては女特有だ。いくつになっても女の話題は噂や陰口が多い。
旅行に行けば妬まれる。仕事を休めば文句を言われる。体調不良は理由にならない。
悠里からのメールを読む。
『今日12時に遊園地にきて』
今日の12時。
今の時間は10時。
あと二時間しかない。
いまから支度をしないと間に合わない。
断ればいいものを。この時間からの呼び出しも断れない自分は断れない小心者で間違いないだろう。
急いで支度をしてから遊園地へ向かう。
ぎりぎりだ。
腕時計で確認すると11時58分。待ち合わせ2分前。
「雪ちゃん、こっちー」
遠くから聞きなれた声がする。
声の方をみると、うん?おかしい。
1人じゃない。
悠里の隣には前回もいた幼なじみの二人組。
なんで?
「ごめんね、突然呼び出して」
「ううん。で、どうしたの?」
「はるが遊園地行きたいっていうから、どうせならみんなで楽しくと思って」
あー。
どんまい、我妻くん。
せっかく誘ったのにこぶつきでごめんなさい。
断れば良かったのかな。でも、そうなると女1人に男2人のなんともいえない組み合わせだよね。
「よし!遊ぶぞー」
悠里は楽しそうだな。
「ごめんね、仁科さん」
「えっ?いや、こちらこそ来てしまってごめんなさい」
「なんで仁科さんが謝るの?」
いや、あー。
私にまで優しくしなくていいんすよ、我妻晴樹くん。
高遠くんははしゃぐ悠里を追いかける。
子供っぽい一面もあるんだなと悠里を見る。
中に入って、アトラクションを回る。
遊園地だからこれは避けられないよね。
遊園地は楽しいけど、アトラクションは苦手なものが多い。
ジェットコースターは昔から嫌い。観覧車は大人になるにつれ、苦手になった。
高所恐怖症というものだ。
ただ、苦手なんて言わずに乗ってしまったあとに後悔する。
「雪ちゃん、大丈夫?」
「うん。休憩したらよくなるから。ごめんね。」
「私、飲み物買ってくる!」
「悠里、1人じゃ危ないから。あき、一緒にいってきて。仁科さんは俺が見てるから」
「ああ」
高遠くんじゃなくて、我妻くんが残るの?
いや、どちらも残らなくていいのに。
沈黙が続く。
本当に耐えられないから悠里のところに行ってくれ。
私は1人でいいから。
「本当にごめんね。無理なら無理って言って良かったのに」
「いや、大丈夫かなって思ったし、楽しかったです。ただ、やっぱりだめなものはだめみたい。こっちこそ、すみません」
「悠里はちょっと周りをみないことがあるから」
「そうですね」
「ところで、なんで敬語?同い年なのに」
「あー、学園の王子にため口は」
それ、許されるの悠里だけだから。
隠れファンクラブになにされるかわからないし。
ただでさえ悠里と仲良くしてるのをとやかく言われるのに。モブはモブで苦労があるんですよ。
ゲーム本編にはなかったファンクラブってなんだよと思ったりね…。
「はぁ」
「大変なんだね」
そりゃもう。
「でも、それでも悠里と仲良くしてくれてるのは俺たちにはありがたいよ。正直心配だったんだ。悠里は素直だからよくも悪くも人の目を引くでしょ?俺やあきがそばにいてもいいけど、俺たちは男だから踏み込んじゃだめなときもあるから」
悠里のことをよく考えてる。
知らない一面。あんなにも周回を重ねたのに。
主人公のことをこんなにも想っていたのは意外だ。
「これからも悠里のこと、よろしくね」
「はい」
笑顔で返事をする。
私はこのとき、気づかなかった。
この、いまの瞬間が楽しくて幸せだったから気がつけなかった。
モブはモブでなければならなかったことに。
小さな歪みは確実に物語を歪めていく。
名前も出てこないモブ子が主人公の親友になどなれるはずがない。
攻略キャラクターとの接点を簡単に持ってはいけない。
小さな歪みが大きくなる前に気がつく必要があったのに、この時の私にはそんなことに気がつけるはずがなかった。