花火大会
花火大会です。
いつもより長くなってしまいました。
さくっと読めるを目指しているのですが…。
楽しんでいただけたら幸いです。
夏休みに入りました。
のんびりした毎日を過ごすことに私は成功しています。
時々悠里と遊んで、夏休みの宿題をして、眠い時に寝る。
夏休み。なんていい響き!
病院ではつまらない毎日だった。だからゲームに没頭していた。
大人には夏休みはない。健康だったら休みを満喫できることを思い出した。
ただ、最近前世の記憶を思い出すことが少なくなってきた。今が充実しているのかそれとも今を生きろと言われているのかどちらかだろう。
まあ、今はこの夏休みという最高の期間を満喫しよう。
さて、今日は何をしようかな。
カレンダーに目を向けると赤丸がついている。
何か予定があっただろうか?
記憶を呼び起こす。
ああ。
2日前、高遠くんから連絡がきた。とても短いメール。
『8月2日。18時、駅前広場』
花火大会。
そうか。楽しすぎてすっかり忘れていた。
悠里と我妻くん、高遠くんが一緒の花火大会。
正直行きたくない。
悠里だけなら…あの2人が一緒。
いやだな。モブ子の私が一緒だと浮く。いや、浮くならいい。空気だよ、空気。
いないものではなく、いるけど見えない存在になる。
いやだな。
うーん…。普通の格好でいくか。
いや、ちょっと待てよ。
タンスから新しい服を取り出す。
悠里と1週間前に買い物へ行ったんだった。
「花火大会はこれね」
悠里と約束したからこれで行かなきゃいけないよな。
約束破る訳には行かないよね。
仕方ない。
「おかあさーん」
母親に着付けをしてもらう。
「浴衣なんて久しぶりじゃない?大丈夫かしら。まあ、楽しんでいらっしゃい」
母親はそういいながらも上機嫌だ。
嬉しそうに浴衣の私を見つめている。
親をみると、私が生きていて、普通の生活を送っていることを実感する。
ゲームではない。ここが現実なのだ。
時間に余裕を持って家を出て正解だった。
歩きにくい。
これ、捲って歩いてたら怒られるよね。はしたないって。
悠里と選んだ浴衣。
私のは控えめな紺色の紫陽花柄のシンプルな浴衣。
悠里はピンクの桜柄。悠里のイメージにぴったりだと思う
17時50分。待ち合わせの10分前。
駅前広場には多くの待ち合わせであろう人だかり。
駅前広場とは聞いていたがこの人だかり、待ち合わせの厳密な場所を聞いておくべきだった。
行き交う人を見る。
笑顔の人ばかり。女の子はみんな思い思いに着飾ってる。ああ、なんかむずがゆい。そんな女の子の一人が自分であることが更に自身をむずがゆくする。
着慣れない浴衣を着て、友達とその幼馴染を待つ。
これ、どんな乙女ゲームの展開ですか!?
私の経験上こんな展開は乙女ゲームだけだよ。
でも、私は主役にはなれないし、正直なるつもりもない。
だって、私には無理。
男の子は好きだよ。もちろん!でも、私は人を好きにはなれない。だってわかってる。人はどうせ、自分のために他人を切る。
どんなにやさしい仮面をつけていても、自分以外はかわいくはない。それを私は知っている。前の人生で。
今の人生は多分幸せなんだと思う。
友達がいて、両親がいて、健康な体で。
『友達もいない。親もいない。身体も弱い。お前には…』
私には……
おっと、昔の思い出に浸っている場合ではない。
そろそろ悠里がきてもいいころだと思うんだけど。
悠里は絶対に遅刻しない。
それはわかっている。だから私も遅刻しないようにしている。
ひときわ目を引く存在。女の私からみても悠里は魅力的な存在だ。
ピンクのかわいらしい浴衣がよく似合う。そしてしぐさもきれいだ。
「雪ちゃん、お待たせ」
「対して待ってないよ。私も今来たところ」
両脇に男を連れた女は注目の的だよと伝えた方がいいのだろうか。それもいい男2人。悠里はもちろんそんなことは気にしていない。
そこが悠里のいいところなんだけどね。
悠里のような裏表のない人間は珍しい。稀少価値がある。私のような人間には特に。
「雪ちゃん、かわいい!」
「悠里の方がかわいいよ。ね?我妻くん」
あえて我妻くんの方に話をふる。
「あ?ああ。似合う。仁科さんも似合ってるよ」
こちらのことまで気にかけてくれる。さすが王子。
「ところで、我妻くんだったら他にもお誘いあったんじゃない?」
親衛隊とかいてもおかしくない。学園の王子様だし。
「はるはそういうのはお断りだから」
高遠くんが即座に返事を返す。
もしかして高遠くんって我妻くんの。
「保護者」
「は?」
いかん。また口に出てた。
ついつい思ったことを口にしてしまう。この癖治さないと厄介だ。
「お互い様だろ」
「え?」
「お前も悠里の保護者だろ」
はい?
私が悠里の保護者?なわけないでしょ。友達なのに。
「あっ、お祭りだ!綿菓子たべたーい」
「ちょっと、悠里!走ると転ぶよ」
「ほら、保護者じゃん」
「いいから追いかけて」
出店に一直線の悠里。我妻くんが後を追いかける。
はぐれないようにしないと。
はぐれたところで悠里なら見つかるだろうけど、私だったら見つからないと思う。はぐれたら終わりだ。
あえてはぐれたふりして家に帰るのもありだな。でもそんなことができるはずもない。小心者。
ちらりと高遠くんを見る。
高遠瑛。
なぜ、攻略できなかったのか。攻略対象から外れていたのか。
我妻晴樹の保護者だから?いや、そんな描写なかった。
悠里と我妻くんは出店に並んでいる。
楽しそうだな。
我妻くんはきっと悠里が好きだ。そして、高遠くんも。
悠里を見る目が同じ。優しくて、いとおしい人を見る目。
悠里はわたあめを持って戻ってくる。その後ろには苦笑している我妻くん。
「はい、雪ちゃん。綿菓子!」
「ありがとう」
手渡されたカラフルなわたあめを貰う。お金を取り出そうとするが手に阻まれる。
「いつも悠里と仲良くしてくれてるお礼」
「そうだよ。悠里と仲良くしてくれてありがとう」
男子二人にお礼を言われるとは。
当の本人は次なる出店を物色している。どれだけ食べるつもりなのだろう。
それから悠里の気になる出店を回った。そうこうしているうちに花火があがる時間。
あらかじめいい場所を見つけていた高遠くんと我妻くんに連れられて四人で花火を見る。
「来年も四人でみたいね」
ふと悠里がなにげなく呟く。
私は正直、四人は勘弁してもらいたいけど、あまりに悠里が自然にいうからつい返してしまう。
「そうだね」
いつまでもこのままではいけない。
そんなことを感じながら花火を見つめた。
そろそろ、私も頑張らなきゃ。
『……に……ない』
耳元でなにかが囁いた。
私はそれを聞かないふりをした。
だっていまは…いまだけは、楽しいこの時間を大切にしたかったから。
少し仕事が忙しくなってきたので、投稿を毎日から変更させてもらいます。もし、楽しみにしていただいている方がいらっしゃいましたらすみません。隔日にはあげられるよう書いていこうと思います。