第8話
浮遊感がなくなり、転移が終わった。うっ、やっぱまだ気持ち悪い。これ便利だけど、毎回こうなるなら嫌だな。それとも何回かやったら慣れてくるのか?
そんなことよりも、目の前には、奥が深くて見えない洞窟がある。ここが魔族の拠点だろうか。なんか、入り口から違和感を感じるけど。
「カオル様着きました。ここが、魔族の幹部たちの拠点です。」
「へ?幹部?」
フランさんや、そんなの聞いてないんだけど。いきなり幹部とかやめてよ。ここに入る気が一気に失せちゃうからさ。
「ささ、みんなカオル様を待ってますよ。早く行きましょう。」
「ちょ、押すなっ!まだ心の準備が。」
抵抗むなしく押されて洞窟に足を踏み入れる。その瞬間転移した時と同じで体が一瞬フワッとした。なんだ今の?
周りを確認してさっき感じた浮遊感と入り口の違和感の正体に気づく。洞窟の外からは奥が深くて見えなかったのに、今オレの目の前には松明で照らされた石が敷き詰めらた道か続いているのだ、明らかにさっきとは違う場所だ。それに、フランがいないと思ったら、となりに瞬間移動したように突然現れた。
「今のは魔法か?」
「そうです。幹部の拠点の位置がヒューマン側に見つかるといけないので、先程のいくつかの洞窟の入り口に設置型の転移魔法がかけられています。」
「へぇ、設置型の魔法なんてものもあるんだな。」
オレのスキルは全て「魔」に関するものだから、その辺についてもしっかり勉強して、スキルを使いこなせるようにならなければ。フランが先行して歩き始めたので、オレも彼女後ろをついて歩きながら話を続ける。
「それに、あの魔法は登録されてある人の通過した時のみ転移魔法が発動します。例外としては、その人が許可した人は転移できるようになってます。」
「それでオレも通れたってわけか。でもさ、それなら直接ここに来ればよかったんじゃないか?」
わざわざ洞窟の入り口を経由してここに来なくても、直でここに転移した方が早い気がする。
「それができればいいのですが。ここには転移魔法を封じる結界が張られていて、外から中へ直接転移ができなくなっているのです。先程のものだけがここに転移してこられる唯一の転移魔法になっています。」
「そっか。中に直接転移される可能性もあるのか。なかなか難しいな。」
まだまだこの世界に順応できてない状態では、常識にもついていけくて質問ばっかになってしまう。フランには本当に申し訳ないがオレがこの世界に順応し始めるまで付き合ってほしい。
その旨をフランに伝えると、快く了承してくれた。フラン、超いい子。
「着きました。この部屋に幹部が集まっているはずです。」
フランが止まったのは木製の人二人分くらいの大きさの扉前だった。この世界の扉は大きめに設計されてるのかな?それともこのサイズの人が中にいるのかな?それは嫌だな。
「ふぅ、なんか緊張するな。」
「カオル様なら大丈夫です。みんな歓迎してくれますから。さあ、行きましょう。」
フランが扉を開けてくれる。部屋の中はなかなかに広く少し薄暗い。
「誰だテメェ?」
あれぇ?聞いてた話と違うぞ。なんかめっちゃ警戒されてるし。しかも、柄の悪い不良のような奴しかいない。
「フランです。」
「フランか!戻ってきたと言うことは…」
「はい、魔王様と一緒に、です。」
お?なんとか話がまとまってくれそうだ。こう言う時は口を出さず見守るに限るな。
「あの無能が本当に魔王を連れてくるとはな。」
ん?オレの聞き間違えかな?今フランのこと無能って言ったような。
「おい、お前フランのこと無能って言ったか?」
「おっ、あんたが魔王か。俺はザキってんだ。よろしくな。」
「質問に答えろ。」
「はあ、めんどくせぇやつだな。こいつは無能、だからそう呼ぶ。それの何が悪いんだ?」
この世界に来て同じことを早くも二回も聞くことになるとは。それに、なぜかこちらをバカにしているような、そんな感じがする。おおよそずっと待っていた人に対する話し方ではない。
「その態度は、魔族の総意なのか?」
「態度だぁ?俺の態度が気に入らねぇのか?ギャハハ、お前面白いこと言うな。無能になんて説明されたか知らねぇが、俺がお前に敬意を払うなんざごめんだな。」
こいつ、さっきから質問を無視しやがって。そろそろ我慢の限界だぞ。
「謝れ。」
「はぁ?お前に俺が何かしたか?」
「オレにじゃない。フランにだ。」
「無能に?それこそ何したってんだ?」
「謝れって言ってんだよ!」
なんだか体が熱くなってきた。だが、そんなことは今はどうでもいい。
「まあまあそう怒るなって。だいたい、いきなり現れて謝れなんて言われてもな。俺がそこの無能に謝るなんてブヘッ!」
五度目の無能発言に、気づけばやや無意識のうちにザキに瞬時に近づき顔面を殴っていた。怒りで力加減もできておらず、パッシブスキルがゴリゴリにかかった、常人なら頭が消し飛ぶくらいの威力が出ていた。
「テメェこの野郎!痛ぇじゃねぇか。」
まあこいつは死ななかったようだが、だいぶ吹っ飛んで壁にぶつかったのに、意外とピンピンしてんな。これなら、魔法を乗せて殴っても大丈夫だったかもな。
「直ぐに謝っていればこうはならなかったんだがな。さあ、謝る気になったか?」
「調子にのんな!ぶっ殺してやる。」
ザキの雰囲気が変わり、壮絶な殺気が放たれ始める。あの時の神谷とは比べ物にならない、本物の殺気だ。今のキレてるオレからすれば可愛いもんだがな。
ザキが何もない空間に出を伸ばし、そこにドス黒い色のハッキリ言って気持ち悪い槍を呼び出した。
「俺の邪槍ガイライルの糧にしてやる。」
邪槍って、いかにも悪い奴が使ってそうな名前してんな。それに糧ってことは何か特殊な力でもあるんだろう。
「死ねっ!」
なんで神谷もこいつも攻撃するときに正直に死ねって言ってくるんだ?バカなのか?いや、神谷はバカだったしこいつもバカっぽいからあってるか。
そんなことをぼんやりと考えながら、魔力を操作する。絶対に破られない壁をイメージして、体の外に放出し、できた魔力障壁を二つに分ける。
二つのうちの一つで突き出して来た槍を受け止め、もう一つでザキの顔面に猛烈な速度で叩きつける。
「ぐっ、なんだ⁉︎」
大したダメージにはならないが、仰け反らせることはできた。あとは、無防備な腹に火魔法を乗せた拳を一発ぶち込む。
「がはっ、熱っ!」
「殺されないだけありがたく思え…」
これは流石に効いたようで、ザキはうずくまる。それで少しスカッとして落ち着いて来たが、よく考えれば日本にいた頃から考えるとあり得ない行動をオレはした。これも魔王の力の影響なのか?今のところ悪影響はないし、大丈夫か。
「この騒ぎは何だ!」
ザキの叫び声を聞きつけたのか壮年の渋い男性が扉を勢いよく開けて入って来た。うずくまるザキを見て驚いたあと、その横に立つオレを見た。
「ザキ⁉︎貴様何者だ!」
どうやらまた面倒なことになりそうだ。
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