第7話
ようやく泣き止んだフランは、オレに抱きついている事に気が付いて顔を真っ赤にしてオレからそっと離れた。ぐっ、なんで顔をするんだ。鎮まれ、オレの中の狼よ。
「ごめんなさい、私嬉しさのあまりつい。怒ってませんか?」
がはっ、今度は上目遣いか。まさか狙ってやっているのかこの子は。狼を鎮めるにも限界があるんだぞ。こう言う時は深呼吸だ。吸ってー吐いてー、吸ってー吐いてー、よし大丈夫だ。
「全然怒ってないよ。むしろウェルカムだから。あっ待った今の無し!忘れてくれ。」
何を口走ってんだオレ!動揺のあまり本音がポロリしてんじゃねぇか。完璧セクハラだよ今の。落ち着け、落ち着くんだオレ。
「あの、カオル様。うぇるかむとはどう意味でしょうか?」
「知らないのか、なら良かった。なんでもないから忘れていいよ。てか忘れてくれ。」
「カオル様がそう言われるのでしたら、分かりました忘れます。」
セーフ、意味が通じなきゃセクハラにはならないはずだ。この世界にセクハラという言葉があるかわからんが。
ふう、なんとか落ち着いた。だいぶ逸れたが話の続きをしなければ。
「それで、だいぶ遅くなったんだけど、なんでオレの名前を知ってたんだ?」
「それは先代の魔王様がお亡くなりになる時、予言されたからです。」
「予言、ってどんな?」
「先代様は、いずれ勇者召喚されるカオルという男が魔王の力を使い魔族の希望になるだろう、と仰られました。それに、その魔王の力は今から私が授ける、とも仰ってました。その後直ぐに息を引き取られました。」
待てよ、ということはあの不思議な声の主はその先代の魔王ってことか。そういえば誘導する手間が省けた的なこと言ってたし。今考えれば最初から魔王にする気満々だったってことだよなあれ。
「多分オレがこっちの世界に来る前にあったのが先代だったんだと思う。その人に魔王にされたし。」
「そうだったんですか。先代様は特に刻魔法と付与魔法が得意でいらしたので、その二つの魔法を使い、ご自分の命を削ってカオル様に魔王としての力を授けられたのでしょう。」
「そうだったんだ。」
オレが持ってる魔王の力はとてつもなく重たいものだったのか。それも知らずに魔王なんてやだ、なんて言われたらそりゃ泣くわな。いっそうこの力を魔族のために使わないといけないという気持ちが強くなった。
「よし、魔族は絶対にオレが守ってやる。うーんこれじゃなんかダサいな。ほかにもっとなんかないかな?うーん…」
「いえ、ちっともそんなことはないです。カオル様はとってもカッコいいですよ。」
「お、おうありがとう。」
照れるじゃないか。魔族のために精一杯頑張らせていただきます。なに?チョロいだって?分かってないな。絶世の美女からカッコいいって言われことないからそんなこと言えるんだ。オレは断じてチョロくはない。
そんなことはさておき、これからのことを考えるとここでしっかりと自分のスキルを把握しといた方がいいな。
ステータスに表情された大量のスキルたちを一つ一つ鑑定して確認していく。40個ぐらいスキルがあるし、これだけで鑑定の熟練度がたまりそうだな。
確認したスキルで勇者として活動する上で使えそうなものをピックアップする。魔王としての方は、表示にして他は偽装魔法や隠蔽魔法でなんとかできるだろう。
勇者として使えそうなスキルは今後また増えたり減ったりするかもしれないが、とりあえず以下のものにした。
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スキル:
・火魔法Lv.10
・水魔法Lv.10
・風魔法Lv.10
・地魔法Lv.10
・光魔法Lv.10
・闇魔法Lv.10
・治癒魔法Lv.10
・魔法合成
・魔法剣術Lv.10
・魔力解放(1/100)
・身体強化
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我ながらふざけたラインナップだと思うよ。でもさ、やり出したら止まらなくてさ、これでも自重した方だよ。魅力的なスキルがたくさんありすぎた中、よくここまで絞ったとむしろ褒めて欲しいくらいだね。
このスキル構成のコンセプトは『全属性魔法を操る魔法剣士』だ。かっこよくて強そうじゃない?勇者はこれぐらいしとかないと。
あと懸念があるとすれば鑑定かな。フランのステータスを見たとき、種族が隠蔽してあるのが分かったことから勇者たちに鑑定されたらバレてしまう恐れがある。
女子二人は話せばなんとかわかってくれそうだけど、神谷は騒ぎ立てそうだな。まあ、そうなったらそうなったでその考えよう。
「あのーカオル様、お話よろしいでしょうか?」
「ああすまんすまん。つい集中してしまってたな。話って何だ?」
「その、魔王様をお迎えできた時は、魔王様を連れて一度魔族領へ戻るように言われてまして。」
「えっそれって今から?」
「はい。幸いこの国からは、今日のところは勇者たちは休ませろと言われておりますので呼び出されるなどの心配はないはずです。」
「でもどうやって魔族領に行くんだ?」
魔族とヒューマンが争っているのなら、そう簡単に魔族領に行けるとは思えない。ヒューマン側の情報とかを魔族に与えないように、的な感じでヒューマン領から出ようとしたも止められそうだ。
「それが、転移魔法を閉じ込めた魔道具を預けられているのですが、私では出力が足りず、ヒューマン領と魔族領の間に張られている結界に阻まれて成功しないのです。」
「魔道具ってことはその出力って魔力なのか?」
「そうです。私の魔力を全て注いだとしても、起動しないでしょう。」
「それってさ、オレが魔力を注いだらダメな感じ?」
特定の人しか操作できないような何かがあるかもしれないしな。転移魔法を閉じ込めた魔道具なんてラノベなんかじゃ超貴重なものだったりするしな。
「いえ、そんなことは全くありませんが、こんなことでカオル様のお手を煩わせるわけには…」
「そんなことで悩んでたのかよ。」
なんだよお手を煩わせるって、初めて聞いたよ。オレは何様扱いなんだ?あ、魔王様か。
「試したいこともあるからちょっと貸してみ。」
「ですが…」
「いいからいいから。」
なおも渋るフランから魔道具を受け取る。見た目は普通のペンダントだが、はめてある宝石の中によくみると魔法陣が描かれている。
「へー綺麗だな。そういえば。」
スキルを確かめている時、魔法陣解読のスキルがあったな。使ってみるか。
「えーと、なになに?」
魔法陣には、『座標』『固定』『転移』と書かれてある。見た感じ、転移できる座標は固定の転移魔法って感じだな。
ここでさらにスキル:魔力操作が生きる。これにより、魔力の使い方を知らないオレでも魔力を自在に操れるのだ。なお、魔法スキルはスキルを使用することによって片手に自分の中の魔力が操作されるようだ。
魔力操作のスキルはパッシブにできた。他にもパッシブにできるスキルがいくつかあり、大帝が便利系だったため、全部パッシブしておいた。
早速魔力の操作をしてみる。体の中に集中してみると、今まで感じたことのなかった暖かな流れるものが感じられる。しかも、オレの意思に従ってスルスルの動かせる。これは楽しい。そのまま魔道具に魔力を注いでいく。
「これは…」
「こんなところかな?」
魔力を注ぐのをやめる。魔道具に十分な魔力だ溜まったようで、キラキラと光っている。
「これでいいかな?」
「はい、ありがとうございます。では、参りましょう。」
フランが魔道具を起動すると、視界が光で溢れ浮遊感に包まれた。うっ、気持ち悪い。
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