第6話
その後、千歳と桜とは別れたオレは、この国から召喚された勇者それぞれに用意された部屋に案内された。
「おお、こりゃすごい。」
高級ホテルのロイヤルスイートみたいだ。泊まったことないけど多分こんな感じじゃないかな。部屋に見とれていると、メイドさんが話しかけてきた。
「先程はありがとうございます。」
「ん、何が?」
「カミヤ様から私をかばってくれたじゃありませんか。」
「あーあれな。あるはオレがムカついただけだから気にすんな。それに、男として当たり前のことをしたまでだから。」
実際、神谷のことが気に入らなかったのがあの行動に出た理由の8割を占めている。
「それよりも、君の名前を聞いてなかったね。」
「そうでした。私はフランと申します。」
「よろしくフラン。」
「此方こそ、よろしくお願いしますカオル様。」
よし、自己紹介も終わったし、大分遅くなったけどあの質問の答えを聞こうか。
「それでさフラン。さっき聞きそびれたけどなんでオレの名前を知ってたんだ?神谷から聞いたわけじゃないだろ。」
オレは最初なんで知っているのか見当もつかなかった。けど、神谷の鑑定の熟練度が上がっていて、オレのステータスを知っていたことから神谷に教えてもらったと思った。
だが、これも違う。千歳や桜はオレの名前を知らなかったからだ。あの場でオレの名前を神谷が言っていたらあの二人もオレの名前を知っているはずだ。残る可能性は二つ。元から知っていたか、彼女が鑑定スキルを持っているかだ。
そこで、オレは彼女を鑑定してみる。
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フラン・ブランシュ Lv.20
種族:ヒューマン(偽装中)
スキル:
・闇魔法Lv.6(400/600)
・(隠蔽中)
・(隠蔽中)
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鑑定スキルは持ってないようだ。てかレベルと闇魔法のレベル高っ!神谷はLv.15だったし、光魔法のレベルは4だったし、熟練度も結構溜まってるのも何気にすごいな。
そしてヒューマンについている偽装中、それとスキルにある隠蔽中の文字。これはいったい…おっとその前に
「フラン、君は元からオレの名前を知っていたのか?」
「えっと、何故そう思われるのですか?」
「それは、色々と考えて確かめて見た結果、だな。あっ、勝手に鑑定するのってマナー違反だったりするのか?もしそうだったたらすまん。」
今考えたら、鑑定って相手の個人情報を勝手に覗いてるるわけで。それって、プライバシーの侵害なのではないか。そんな当たり前のことも考えられていなかった。
「ふふ、大丈夫ですよ。鑑定のスキルはそれほど持っている人が多くありませんから。それに、カオル様のように正直に鑑定したと伝えてくる人はそういませんからね。」
「そうなのか。それなら良かった。でも、それならなおさらオレの名前を知ってる理由がわからないんだが。」
「それは、こうした方がわかりやすいでしょうか?」
フランはそう言うと、腕をサッと横に振った。すると、綺麗な黒だった瞳が真っ赤に変わった。
「えっと、それは?」
「この赤の瞳は魔族の特徴なんです。偽装魔法と隠蔽魔法は解除したので、鑑定で調べて貰えばわかるはずです。」
言われた通りもう一度フランを鑑定してみる。すると、種族は魔族に、スキルには偽装魔法と隠蔽魔法が表示されていた。だが、オレにはこうした意味がさっぱりわからん。
「魔族がヒューマン領内にいると知られると討伐の対象になってしまうのでこうしていました。」
「オレにそれを教えていいのか?オレは勇者として召喚されたんだぞ。その、この国に報告するとかするかもしれないぞ。」
「大丈夫です。」
オレは心配して言っているのに、フランは微塵も心配していない信じ切った様子でオレを見つめてくる。その綺麗な瞳に射抜かれて次の言葉が出ないでいると、フランから話を再開した。
「私はスパイとしてこの国に潜入していました。その目的はある人物をお迎えするためでした。」
「まさかそれって…」
「お待ちしておりました。カオル様、いえ魔王様。」
えぇぇぇオレ⁉︎てかなんでオレが魔王だって知ってんの?それに、召喚されることも知ってたのも意味がわからない。あれか、巫女みたいな予知能力の類か。
「混乱されるのもわかりますが、私の話を聞いてください。」
「ああ、ごめん顔に出てたか。」
「私がカオル様をお迎えに上がったのは、他でもなく魔族の未来のためです。」
「魔族の未来?」
おう、なんだか壮大なスケールの話になってきたぞ。魔族の未来?オレが?無理無理そんなの。今だって自分のことで精一杯なのに。
もちろんこんな弱音は口に出さない。美人の前でかっこ悪いからな。
「はい。今魔族はヒューマンの侵略行為により、その数を激減させています。このままでは魔族は絶滅してしまいます。」
この世界って人間が魔族を侵略してるのか。オレが読んでたラノベとかは大抵魔族が人間を侵略していて、それを止めるための勇者だったからな。
「いくら魔族が個体差ではヒューマンに勝るとはいえ、ヒューマンの数は魔族の十倍。敵うはずもございません。そこで、魔族は魔王の絶大な力を持つのカオル様に魔族の未来を託すことにしました。ですので…」
「待った待った。」
勝手にどんどん話が進んでいるが少しはオレの意思を尊重してほしい。
「オレはそんな大層な存在でもないし、魔族の未来を託すなんて言われても困る。」
「ですが…」
「だいたいオレは魔王じゃなく勇者になりたかったんだぞ。それなのに魔王になれなんて言われても無理だ。」
「そんな…」
フランはその綺麗な顔を絶望に染め、しまいには俯いて泣き始めてしまった。
おい、オレは何をしているんだ。こんな美人を泣かせて。
「ごめん、最低だなオレ。よし、決めた!」
「カオル様?」
「オレは勇者になる。」
「ではやはり…」
「話を最後まで聞けって。勇者にはなる。その裏で魔王もやる。これがオレが出した答えだ。」
我ながら言ってる意味がよくわからんが、これでいい気がする。
「それはどう言うことでしょうか?」
「いやな、オレは勇者になりたかったんだ。でもさ、魔王の力を持ってるのも確かなわけだ。その力は魔族たちのために使わないとなって思ったんだよ。」
「しかし、勇者と魔王は正反対の存在ですよ。そんなことも無理に決まってるじゃありませんか。」
フランの言うことは最もである。でも、オレの持つ魔王の力があればそんな芸当もできるはずだ。なにせまだ確認できてないスキルが無数にある。それらを駆使すれば不可能も可能にできる。
不可能を可能にする。なんて素晴らしい響きだろうか。それに勇者で魔王、これって結構いいんじゃないかな。うん、ただの勇者よりこっちの方がよっぽどいい。
「大丈夫だ、オレに任せてくれ。全部どうにかして見せるさ。」
「カオル様…本当に、本当にありがとうございます!」
フランが今度は嬉し泣きし始めた。おう、抱きつくのはやめなさい。何気に今密室で二人きりだからね?ぐっ、いい匂いが…いかん自分を抑えるんだオレ。
あっ、なんでオレの名前知ってるのかまた聞かなかった。まあいいや、とりあえずフランが泣き止んでから聞こう。
結局フランが泣き止むまで五分程かかり、その間オレは自分の中の狼を抑えるのに尽力するのだった。
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