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不幸少女と死神メジロ  作者: 武池 柾斗
第二章 不幸因子の行方
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2-1 緊急会議

 人型黒塊の大量発生から数時間後、夜が明けた。


 五区同時出現の後、黒塊は姿を見せず、不幸因子の漏出もごくわずかだった。朝日が昇り、街はゆるやかに活動を大きくしていく。人々は昨夜のことを知るすべもなく、いつもと同じように殺気立った通勤通学ラッシュに呑み込まれていった。


 死神とその遣いたちは朝の見回りをすませた後、中央区の公園に集まった。


 緊急事態のため、死神も人の姿になって参加していた。スズメは葉月と同じ身長で茶髪ロングの落ち着いた女性、フクロウはメガネをかけた白髪ショートの女性、タカは高身長の赤髪セミロングの女性という姿。

 死神五人と遣い五人の話をまとめ、莉多は大きく息を吐いた。


「非常に、まずいことになったわね」


 昨夜に出現した黒塊の数は九。いずれも人の形をしていて、不幸因子濃度が通常の二倍以上だった。このような事態は、遣い歴九年の莉多でさえも経験したことがなかった。また、人型黒塊が形成される早さも異常だった。


 莉多の次にカラスが口を開く。


「皆の言う通り、あの世とこの世の間に霊穴れいけつが開いたか、不幸因子を操る人間が現れた可能性がある。この二つについての調査が必要だが、我々五組で行わなければならない。あの世からも他の地域からも、余裕がないとの理由で救援を断られてしまった」


「死神様はそんなに人手不足なんですか?」


 結衣からの問いかけに、カラスはため息をついて答える。


「遣いを扱う死神はほぼ全員現場に出ていてね。他の死神は死者の誘導をしていて、役目を変えるにはかなり時間がかかる。まあ、人手不足といえば人手不足だな」


「でも、救援が来なくても私たち五組だけで事足りるわ。こういう時のために、五組も居るんだから」


 莉多は自信たっぷりに死神と遣いたちを見渡した。

 彼女は少し間を置いて、指令を出す。


「不幸因子の感知に優れた小夜は霊穴の捜索をお願いしたいわ。黒塊との戦闘が得意な結衣には小夜のサポートをして欲しいのだけれど、いいかしら」


「うん……わかった……」

「よし! 任せろ!」


 莉多から提案された役割を、小夜と結衣は快諾した。


「人間のほうは、スピードに優れた葉月と奈津に任せたいわ。不審な人物がいないか、街中をくまなく探して欲しい。霊穴に比べると可能性は低いけど、かまわないかしら」


「おっけーでーす!」

「わかりました」


 奈津と葉月も与えられた役目に異存はなかった。


「不幸因子の吸引は調査のついで程度で構わないわ。吸引できない分は私がやるから、みんなは調査に専念して」


 莉多の口から水のように言葉が流れていく。

 奈津はそれを聞いて声を上げた。


「五区全部やるんですか! それはいくら莉多さんでも無茶しすぎじゃないですか!」


 遣い歴九年の莉多であれば能力的には問題かもしれないが、五区すべてで吸引するとなれば、不幸因子の貯蔵量が激増してしまう。限界量があと一年分しか残っていないのに、そのようなことをすれば引退が早まってしまうのは、火を見るよりも明らかだった。


「確かに、厳しいわね。でも、できないことはないわ。奈津の心配は他にあるようだけど。……でも、今は非常事態だから、余力なんて残している場合じゃない」


 そう言う莉多の目は真剣そのものだった。

 奈津は莉多の言葉を受け入れ、首を縦に振った。


「そうですね……わかりました。わたしたちは調査に集中します」

「みんなもいいわね?」


 莉多の視線を受け、葉月、小夜、結衣も頷いた。


「それぞれの役割に専念する方向でいくけど、黒塊が出たら調査は全員中断して撃破に当たることにしましょう。では解散。手がかりを見つけたら知らせて頂戴ね」


 集会の終わりを告げた莉多は、鳥の姿になったカラスとともに早々に飛び去った。


 小夜と結衣は行動を共にすることとなり、二人一緒に拠点へ向かった。

 奈津と葉月は、まず自分の担当区域を調査することにし、それぞれの調査領域へと移動した。




 奈津は西区の上空を緩やかに飛び、街を見下ろした。


「不幸因子を操れる人なんて、本当に居るのかなあ……」


 彼女は半信半疑といった様子で呟く。

 奈津の肩に留まっているメジロは、その呟きに応える。


「わからない。過去には何人もいたようだから可能性はある。もっとも、あのレベルで操れる人間など前代未聞だが」

「悪い人だったら本当にマズイよね」


「ああ。だが、どういう人間であれ、見つけ次第、能力を奪うことには変わりない」

「とにかく、早く原因を突き止めなきゃ」


 そう言う奈津の声には責任感が表れていた。


 自然的なものか人為的なものか、もしくはまた別の原因があるのか。いずれにせよ、この黒塊大量発生という異常事態をいち早く解決しなければならない。街の平和が、この世の安寧が、あの世の存在によって壊されるということなど、あってはいけない。


 一刻も早く原因が判明するよう、奈津は願うばかりだった。





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