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不幸少女と死神メジロ  作者: 武池 柾斗
第一章 第二の人生
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1-5 暴走体との戦い

 奈津は黒塊に急接近し、先制攻撃を仕掛けた。


 彼女の右拳は黒塊の腹部に直撃し、強烈な衝撃を与える。黒塊がひるんだところで、左拳を頭部めがけて振り下ろす。ダメージをまともに受けた黒塊の体は前に大きく傾く。そこへ追い打ちをかけるように、奈津は黒塊の顎部分を右足で蹴り上げた。


 人型黒塊の体が大きく跳ね上がる。

 奈津は追撃を仕掛けるが、黒塊が反撃する。


 黒塊は空中で後転し、その勢いを利用して右脚の蹴りを繰り出す。それは奈津の腹部に突き刺さり、彼女の体は大きく飛ばされて上を向く。黒塊は奈津との距離をすぐに詰め、彼女の胸部めがけて両手を振り下ろした。


 奈津は咄嗟に両腕で防ぐ。それでも威力は大きく、彼女は叩き落された。

 自由落下の速度以上で落ちていく奈津を目標に、黒塊は降下を始めた。


 黒塊が高速で奈津に迫ってくる。このままではもう一度攻撃を許してしまう。下手をすればこちらが撃破されてしまう。想像以上に手ごわい相手だった。すでに体の自由は戻っているが、このまま反撃に向かっても戦闘が長引くだけ。ならば、黒塊を待つしかない。


 黒塊が上空から接近してきた。降下のスピードを保ったまま拳が突き出される。


 ――今だ!


 奈津は横に移動して急停止した。それに対応できない黒塊は奈津を通り過ぎる。奈津はすぐに動き出す。黒塊以上の速さで空を翔け降り、標的に追いつく。敵の後ろをとった奈津は、黒塊の胸に左腕を回して固定する。そして、黒塊の心臓部分めがけて右手を突き刺した。


 奈津に核を破壊された黒塊は崩壊し、体を構成していた不幸因子は爆散した。

 四方八方に散った不幸因子をすぐに吸収し、奈津は大きく息を吐いた。


「危なかったぁ……」


 空中で停止し、奈津は東区に目を向けた。

 彼女が黒塊を仕留めたと同時に、東区での戦闘も終了したようだ。不幸因子の気配が消えている。


「これで終わりかな」


 黒塊殲滅をうけて、奈津は少しだけ気を緩めた。

 だが、その直後に強大な悪寒が彼女を襲う。


「五区全部に、不幸因子の気配!」


 奈津が悪寒を感じると同時に小夜が声を張り上げる。


 その知らせが奈津の頭を揺らす。彼女の精神が再び緊張し、感覚が研ぎ澄まされていく。街の様子が気配で感じられる。異常事態だ。五区すべての中央部に、黒塊が一体ずつ出現している。目で確認するまでもない。


 黒塊の同時出現から間もなくして、莉多が指令を飛ばす。


「全員担当区域に戻って。撃破したら、他の区域に応援に行って」


 彼女が指示を出した直後、遣いの五人全員が動き出した。


 東区にいた葉月と莉多は、それぞれ北区と中央区に引き返す。中央区と南区の境で待機していた小夜も南区の中央に向けて移動を開始し、東区では結衣が黒塊に突進していく。奈津もすぐに西区中央へ翔け出した。


「なにがどうなってやがる」


 高速で飛行する奈津の肩で、メジロは困惑の声を漏らした。

 奈津は両こぶしを握り締めた。


「わかんない! けど! 今はやるしかないよ!」


 奈津はさらに速度を上げ、目標地点へ急行した。

 あっという間に西区中央に到達し、黒塊を発見した。


 人型の黒塊は街に下り、周囲に不幸因子をまき散らしながら大通りの五メートル上を翔け抜けていた。物理的な破壊行為は行っていないが、不幸因子の蔓延という行動はまた別の方向で厄介だ。


 黒塊には自我がなく、その行動はエネルギーの暴走という形で表れている。物理的危害と事故の誘発が起こらないうちに、黒塊が拡散している不幸因子を吸引し、本体をすみやかに撃破する必要がある。


 先ほどの戦いのように手間取るわけにはいかない。


「メジロ、黒塊を瞬殺したいから、少し無理してくれる?」


 奈津は肩に留まっているメジロに作戦内容を伝える。

 メジロは気が進まないといった調子だったが、最終的には協力することに決めた。


「しょうがない。俺に無理させるんだ。しっかりやれ」

「任せておいて」


 打ち合わせが終わり、奈津は最高速で動き出した。


 急降下し、黒塊と同じ高度で街を翔け抜けていく。うるさいほどに明るい街の電灯が視界で一本線に繋がる。撒き散らされた黒い霧を吸い込みながら、暴走する高エネルギー体を追跡する。その距離は驚くほどの早さで縮まっていく。


 そして、ついに奈津は追いついた。


 黒塊の背後から下半身を両腕で掴み、奈津は全力で急停止を試みる。黒塊から抵抗を受けても脚にしがみつくのをやめない。引っ張られそうになっても、それと同じ力で引っ張り返す。


 その甲斐あって、奈津は五秒もしないうちに標的の動きを止めることに成功した。


 その直後、メジロが少女の姿に変化し、黒塊の正面に移動した。

 メジロは黒塊の心臓部に右手を当てる。


 死神の少女が力を込める。その刹那、黒く尖ったものが黒塊の背中から突き抜けた。核を破壊された黒塊は崩壊し、不幸因子を周囲に飛び散らせた。奈津はすぐに不幸因子を吸引し、黒い霧は一瞬にして消え去った。


 露わになったメジロの右手からは、黒い槍のようなものが伸びていた。メジロはそれを体内に取り込み、目を閉じた。メジロは荒い呼吸をしながら体勢を整える。


「メジロ、大丈夫? やっぱり、こっちの世界で不幸因子を使うのはキツかった?」

「へへ、これくらい、なんともないよ」


 心配そうに問いかける奈津に対し、メジロは目を開けて笑みを浮かべて応える。それでも軽度の疲労は隠しきれていなかった。


「おかげで、十秒くらいで倒せたよ。ありがとう。早く鳥に戻って」

「ああ、すまないね」


 メジロは小さく頭を下げ、鳥の姿に変化して奈津の肩に乗った。

 担当区域の黒塊討伐を終えた奈津は、急いで飛び上がった。


 街を見渡せる高度まで上がり、状況を確認する。各地区で死神の遣いと黒塊が戦闘を繰り広げている。東区の結衣は優勢。中央区の莉多は戦い始めたばかりだが、彼女の実力を考えれば心配ない。北区の葉月と南区の小夜は黒塊と互角の戦いをしている。


 救援に行くべきなのは、パワーの劣る葉月か小夜。葉月は機動力に優れ、小夜は感知力が強い。葉月は東区の援護から戻ったばかり。この状況で優先すべきなのは……。


「メジロ! 葉月さんの応援に行くよ!」

「わかった。行け」


 奈津は北区に向けて急発進した。


 彼女は街の上空を斬り裂くように飛んでいく。その途中、メジロを介して他の遣いに自らの行動を伝える。


「西区の奈津は黒塊を撃破しました! 今は北区の応援に向かっています!」


 誰からも返事がない。それほど状況は切羽詰っているのだろう。


 奈津は北区へ急いだ。




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