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不幸少女と死神メジロ  作者: 武池 柾斗
第一章 第二の人生
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1-4 黒塊発生

 西区中央にあるビルの屋上に着いた奈津とメジロは休憩を取り始めた。


 死神にも、その遣いにも、食事や睡眠は必要ない。しかしながら、両者とも一日三時間ほどの休息が推奨されている。精神的な負荷を和らげる、吸収した不幸因子を体内に定着させる、という効果があるからだ。

 奈津とメジロは並んで仰向けになり、青空を眺める。


 睡眠と覚醒の中間状態で、時間が過ぎるのを待つ。入眠前のような心地よさの中、二人の疲労は少しずつ回復していく。


 あっという間に三時間が過ぎ、時刻は昼になっていた。

 奈津とメジロは体を起こし、街の見回りに出かけた。


 不幸因子漏出の少ない昼は、街を細かく見ることにしている。不幸因子の発生箇所の予測が主な目的で、ある程度目星を立てておくことで夜の活動がスムーズになる。微量の不幸因子が発生している場所は夜にも出やすい。昼の吸引は予測のおまけ程度だ。


 事故が起きそうでも、不幸因子の関与がなければ干渉しない。あの世のエネルギーに直接関係のない事には手出しをしないのがルールだった。


 担当区域の巡回が終わると、日没前になっていた。

 奈津とメジロは拠点のビル屋上に戻り、見回りの結果を整理した。


「北側に二か所。西側に一か所。今夜はこの周辺に注意しましょ」

「そうだね。でも、黒塊が出たばかりだから東側と南側にも気を配らないと」


 奈津は軽快に頷く。


「おっけー。昨日黒塊が出たばかりだもんね」

「今度出たら、ちゃんと知らせるよ」

「わかってるって」


 予測を終わらせた二人は立ち上がり、街を見渡す。


 日が沈み、街は完全な夜の姿へと変化した。ビルは無数の電灯で輝き、車のライトが道路上をうごめいている。人工的な明かりで満たされた都市は、朝や昼よりも活動的に見えた。


 そして、異質な黒い霧が浮かび上がった。


 あの世のエネルギーが人の負の感情と結びついて漏れ出している。その不幸因子は少しずつ濃度を増していく。


 奈津はすぐには動かず、不幸因子出現の様子に目を光らせていた。


「予想通り、北側が濃い。他はそうでもない、か」


 状況を呟く奈津の隣に、メジロが並んだ。


「そろそろいくかい? 奈津」

「うん、行こう」


 奈津は目を閉じた。

 深呼吸をし、精神を集中させ、目を開ける。


「朝ヶ丘奈津、これより不幸因子の吸引を開始します!」


 その宣言と共に、奈津とメジロは同時に屋上から跳び上がった。


 メジロが鳥の姿になり、奈津の肩に乗る。奈津は一回転半の前転をし、頭から降下を始める。不幸因子が濃くなる高さまで下りると、担当区域の北側に向けて飛翔を開始した。


 不幸因子を吸引しながら、豪速で翔け抜ける。


 要注意箇所の北側で黒い霧を吸い込み、西側へ向かう。大通りから脇道まで飛び回り、第二注意箇所の西側も難なく仕事を終える。残りの場所は不幸因子の量が少ない。


 奈津はペースを落とし、余裕をもってエネルギーの回収を行う。


「奈津、今日の不幸因子はどうだ?」


 南側で飛行していると、メジロが話しかけてきた。


「んー、そんなに濃くないかな。ちょっと薄いくらい。今夜は楽勝だね」


 少し休憩も悪くないと思い、奈津は以前からの疑問をぶつけてみることにした。


「てかさ、メジロはなんで鳥になったら口調を変えるの?」


 奈津がそう尋ねると、メジロは黙ってしまった。

 何か重要な理由があるのだろうかと身構えてしまう奈津だったが、メジロの口から放たれたのは予想外のモノだった。


「この低い声は変えられないんだ。だから、いつものように喋ったら変だよね」


 メジロは低い声のまま、少女の姿の時と同じ口調で答えた。

 良い声の男性が少女の喋り方をしているかのようなミスマッチさに、奈津は思わず吹き出してしまう。


「確かに、合ってないね」

「というわけだ。雰囲気も大切にしろ」


 そう言うメジロの口調は、いつもの鳥姿のモノに戻っていた。




 雑談の後は不幸因子の吸引に集中し、南側と東側の仕事を終わらせた。昨日よりは不幸因子が格段に少なく、事故も起こらなかった。


「これでよしっと。一旦戻ろう」


 一通りの吸引を終え、奈津は拠点のビル屋上に向かった。


 これからは担当区域を監視し、不幸因子の発生があれば随時吸引しに行くことになる。不幸因子の発生は日没時がピークなため、最大のヤマは越えた。あとは油断せずに朝までどんな事態にも対応できるように待機しておくだけだ。


「今日はすごい楽だったな……ちょっとつまんないかも」


 奈津は悪態をつきながら拠点に足を着ける。

 そのとき、彼女の背中に悪寒が走った。


「なにこの不幸因子の量! どこ!?」


 奈津の表情が一瞬にして険しくなる。

 少なくとも担当区域の西区には見当たらない。方角から推測すると、五人の担当区域外というわけでもない。となると、中央区か東区、もしくは中央区の境界線。いずれにせよ、救援に向かわなければならないのは明白だった。


 奈津が思考を巡らせていると、死神仲間からのテレパシーが伝わってきた。


「東区で人型の黒塊が出やがった! 三体いる! アタシだけじゃ倒せねえ! 救援頼む! 早くしてくれ!」


 金髪ポニーテールの少女からだった。

 その要請に、莉多が素早く応える。


「わかったわ。北区の葉月、スズメ様。聞こえていたら今すぐ東区に向かって」

「ハイハーイ! 結衣ちゃん待っててねー!」


 茶髪ツインテールの少女は元気よく返事をし、東区へ神速で翔けていく。

 莉多はすぐに次の指示を出す。


「私とカラスも東区の救援に行くわ。南区の小夜、フクロウ様は中央区のカバーをお願い。西区の奈津、メジロ様は行動範囲を北区に広げて」


「わかり、ました……」

「了解です!」


 白髪ロングの少女は消え入りそうな声で応え、中央区と南区の境界線に向かう。

 奈津は莉多の指示を受け、屋上から飛び上がった。


 街を見渡せる高さで飛行し、北区と西区の間に到着する。高度を保ったまま待機し、不幸因子の発生に備える。


 東区の様子は奈津にも見えていた。


 三体の人型黒塊を相手に、結衣が奮戦している。黒塊は打撃に加えて掴み技や投げ技らしきものを繰り出しているが、結衣はそれらを上手く躱している。だが、反撃できる余裕は無い。周囲に被害が及ばないよう、囮となって必死に耐えている様子だった。


 そこに、葉月が翔けつけた。


 高速で人型黒塊に迫った葉月は、体にスピードを乗せて一体の黒塊を蹴り飛ばした。結衣から離れた黒塊に向けて、葉月はそのまま攻撃を仕掛ける。葉月と黒塊は互角の戦いだったが、結衣を襲う黒塊が二体に減ったことにより、反撃の機会が生まれた。


 そして、リーダーの莉多が戦闘現場に到着した。


 結衣は一体の黒塊を蹴り飛ばす。莉多はその離れた黒塊へ瞬時に肉迫する。莉多は黒塊の首の部分を左手で掴み上げ、胸の核の部分を右手で貫いた。溢れ出る不幸因子をすべて吸引した莉多は、葉月の援護に向かっていく。


 東区の戦闘を見ていた奈津は、感嘆の声を上げた。


「葉月さん速いなあ。結衣さんは戦いに強いし、莉多さんは速くて強い。私も頑張らなくっちゃ」


 その直後、小夜からの声が頭の中に届いた。


「奈津……西区の西側で、不幸因子、気配ある……気をつけて」

「本当ですか! 今すぐ向かいます!」

「ワタシは……この場に留まる」


 小夜の言葉を受けた奈津は、すぐさま西区の西側へ向かった。

 奈津は目的地に到着した。そして、目の前で人型の黒塊が出現する。


「小夜さんの言った通りだ」


 奈津は小夜の感知能力の高さに感服しながら、両手の握り拳を合わせた。


「さあ、やろうか!」


 大きな声で自らを鼓舞した奈津は、黒塊に向かっていった。






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