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不幸少女と死神メジロ  作者: 武池 柾斗
第一章 第二の人生
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1-3 後継者候補

説明回です。

 莉多の号令の後、葉月、小夜、結衣は会釈して飛び去った。

 奈津も自分の西区に戻ろうとしたが、莉多が呼び止めた。


「奈津はちょっと残って」

「は、はい。なんでしょうか」


 奈津は飛ぶ寸前の体勢から背筋をピンと伸ばし、振り返った。


 自分が何かしたのだろうか。昨夜の黒塊戦で、はしゃぎすぎたことを注意されるのだろうか。それとも他のことで怒られるのだろか。奈津は不安で仕方なかった。


「そんな顔しなくても……怒ることなんてないわよ」

「そ、そうですか」


 奈津は安心して息を吐き、表情を緩めた。


「いい機会だから、基本事項について確認しておこうと思ってね。後継者候補が基本を忘れていたら、推薦できなくなってしまうから」

「後継者うんぬんは置いて、基本事項の確認くらいなら大丈夫ですよ」


 奈津はいつもの調子を取り戻し、莉多の申し出を承諾した。


 莉多がするのは、集会前にしていた話の続きのようなものだろう。こうやって他の遣いの者と時間を取って話をする機会は少ない。今日は早く来てしまったことも、莉多と話しをすることも、何かの縁かもしれない。


 奈津の返事を受け、莉多は問答を始めた。


「ありがとう。それではさっそく……まず一つ目。不幸因子とは具体的にどういうものかしら」


「不幸因子は、あの世、つまりは精神世界のエネルギーです。人の怒りや悲しみといった負の感情が引き金となり、この実物世界に漏れ出すことがあります。その漏れ出したエネルギーは、事故の誘発という形で人に不幸をもたらすことから、不幸因子と呼ばれています」


「その通り。さすがね。では次。死神の役目は?」


「死神の役目は、魂をあの世に導くことです。その際、不幸因子を魂に乗せ、あの世に戻すというエネルギー処理の役割もあります。死神には三種類あり、自然死を扱うモノ。不幸因子の処理のために寿命わずかな人間の命を奪うモノ。そして、エネルギーの効率的な回収のために、死者の魂を自らの遣いとし、使役するモノ。メジロやカラスさんは、三つ目に当たります」


「正解。では、死神の遣いの特徴は?」


「遣いには不幸因子を吸収する能力があります。また、不幸因子を大量に溜め込めます。その量は普通の魂の一万倍以上です。平均五年で限界が訪れ、その時が来たら溜め込んだ不幸因子とともにあの世に送られます。生前から不幸因子の限界量が大きい人間が選ばれ、死神の遣いになることで限界量の増幅と吸収能力を得ます。不幸因子を使って移動することができますが、使う量はわずかなのでこの世への影響はありません」


「ま、そんなところね。特殊事項については?」


「遣いが反抗した場合、死神が遣いの行動を強制的に支配できます。不幸因子が大量放出するなどの異常事態には、即日あの世行きになることと引き換えに不幸因子の吸収限界量を二倍にすることができます。遣いが撃破された場合、それまで溜め込んだ不幸因子が一斉に放出されるため、遣いは慎重に行動する必要があります。……これくらいですかね」


「合格。それでは一番大事なこと。遣いの心得は?」


「遣いは不幸因子から人々を平等に守らなければならない、です。誰かを特別扱いして救ったり、見捨てたりしてはいけません」


「そのとおり。ちゃんと覚えているみたいで安心したわ」


 莉多からの質問にすべて答えた奈津は、胸を張った。


「ま、これくらいは覚えていないと、遣いなんて務まりませんよ」

「ふふ、自信があるのはいいことよ」


 莉多は微笑んだ。


 基本事項の確認が終わると、緊張していた空気が和らいだ。奈津としては、後継者になるつもりは今のところ無いものの、莉多の期待には応えたいという思いはあった。自身の命にもかかわる事柄を余すことなく言えて、奈津は心の底から安堵していた。


「呼び止めてしまってごめんなさいね。じゃあ、今夜もよろしく頼むわね」

「はい! 莉多さんもお気をつけて。それでは、失礼します」


 奈津は一歩下がってお辞儀をし、莉多に背を向けて飛び上がった。

 莉多は奈津の背中に向けて小さく手を振り、彼女を見送った。



 集会所の公園は中央区にある。奈津はメジロを肩に乗せたまま、西区の高層ビルの屋上へと向かった。


 その途中、メジロもカラスに刺激を受けたようで、エネルギー消費が激しくなるにもかかわらず、飛行中に少女の姿に戻った。奈津とメジロは横に並んでゆっくりと街の上空を移動していた。


 通勤通学の時間も終わり、街には落ち着きが戻っていた。爽やかさと暖かさを兼ね備えた冬の日光が建築物を照らし、ぬくもりを感じさせる光景となっていた。


 奈津は莉多との会話を思い返しながら、快晴の空を見上げた。


「わたしが次のリーダーか」


 その呟きに、右隣のメジロが反応する。


「まだ決まったわけじゃないから、変に考える必要もないと思うよ。ぼくだって死神二年目のぺーぺーなんだし、可能性はそんなにないって」


「そうだといいね。リーダーになるにしても、せめて先輩たちが引退してからがいいな。その頃にはわたしも四年目くらいだろうし」


「ぼくもそれくらいがいいな」


 メジロの同意を受け、奈津は指を折って年数を確認した。


「それだと、七年くらいリーダーやることになるのか。わたしがあの世に行って転生するのもまだ先の話だねえ」

「ぼくたち、長い付き合いになるね」


 奈津はおどけた様子で「よろしくお願いします」と言い、そのわざとらしさにメジロは噴き出してしまった。何が面白いのかわからないまま、奈津もつられて笑い出した。


 十秒くらいで笑いは収まった。


「まあ、二年後のことも九年後のこともわからないし、とにかくわたしは不幸因子を吸引して街を守るだけだよ」


「頼もしいね。ぼくも、奈津みたいな優秀な遣いに恥じない死神にならなくちゃね」


 メジロはそう言って少しスピードを上げた。

 奈津もメジロと同じ速さになり、二人は飛行に集中して拠点へと向かっていった。





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