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不幸少女と死神メジロ  作者: 武池 柾斗
第五章 少女たちの決意
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5-10 決戦

 莉多と奈津が衝突し、カラスが他の六人に襲いかかる。

 カラスの相手は仲間に任せ、奈津とメジロは莉多との戦いに集中した。


 奈津は正面から殴りかかり、莉多はそれを手で受け止める。拳を掴まれる前に奈津は手を引くが、その直後に莉多が掌打を繰り出した。奈津はそれを腕で防ぐが、衝撃を殺しきれなかった。


 よろけた奈津に向けて、莉多の左フックが放たれる。だが、それはメジロが張ったバリアに遮られ、標的に届くことはなかった。莉多の体勢が崩れ、大きな隙が出来る。奈津はすぐに右足を突き出し、莉多の腹部に直撃させた。


 莉多の体が大きく後ろに飛ぶ。

 奈津はその場で不幸因子を放った。


 縄状の黒いエネルギーが彼女の左手から伸びていき、莉多の体に巻き付く。体中を縛り上げられ、莉多は身動きがとれなくなる。


 奈津は不幸因子の縄を両手で掴み、体を回転させた。


 彼女を中心に莉多の体が大きく回される。強大な遠心力に晒され、莉多にダメージが蓄積していく。このまま続ければ莉多を行動不能にできるが、そう上手くいくほど甘くはなかった。


 莉多は力づくで拘束を破り、回転地獄から抜け出した。

 感覚が狂っていたが、彼女は頭を自分で殴り、強引に整えた。


 奈津がそれを悟るのと同時に、莉多が全速力で翔け出した。


 葉月でさえ比べものにならないスピードで、莉多は奈津に迫ってくる。体勢の不安定な奈津をサポートしようと、メジロは彼女の前にバリアを張った。だが、莉多はそれを易々と打ち破った。右肘を突き出し、豪速で奈津に向かう。奈津は顔の前で腕を交差させて防御態勢をとるが、無益に等しかった。


 莉多の肘が直撃し、奈津は為す術もなく吹き飛ばされた。

 行動不能に陥った奈津に向けて、莉多は追撃をかける。


 再びスピードを上げ、奈津に追いつく。彼女と平行に飛びながら、莉多は奈津の体を全力で蹴り上げた。彼女の体は遥か高くに舞い上がる。


 莉多はとどめを刺しに向かった。

 上昇してくる莉多に気付き、奈津は目を覚ました。体は上を向いている。


 背後に莉多が迫ってきているのが気配で分かる。このままでは殺されてしまう。奈津は反撃の準備をした。


 莉多の突き出された右手が奈津の背中に触れる直前、奈津は体を思いっ切りねじって莉多の方向を向いた。莉多の驚いたような顔が目に入った。奈津は莉多の突きを避けながら、固く組んだ両手を敵の側頭部に叩き込んだ。


 直撃を受け、莉多の体は自由落下を越えた速度で落ちていく。

 その先には、不幸因子を活性化させたメジロが待ち構えていた。


 莉多は想定外の攻撃を受け、現状の認識が遅れてしまう。自分の進行方向にメジロがいるという情報が欠落し、頭が勝手に奈津による追撃の対策を練り始める。それは、メジロが戦力外だという思い込みによるものもあった。


 そして、それが致命的だった。


 体の落下を食い止めた莉多は、体勢を整えながら上空の奈津に目を向ける。

 その直後、メジロが莉多の背後に回った。


 メジロの右手から不幸因子が放たれるのと同時に、莉多は危機的状況に陥っていることを悟った。反射的に体を右にずらすが、わずかに遅れた。胸の核を狙った不幸因子の槍が、莉多の左肩を貫く。


 莉多の顔が苦痛で歪む。


 体は仰け反り、左肩からは不幸因子が漏れ出す。莉多はこれ以上の追撃を避けるためにメジロの槍を右手で掴み、不幸因子に戻して強引に吸収した。


 莉多は死神からすぐに離れた。

 その直後、奈津がメジロのそばに戻ってきた。


 再び膠着状態に入る。だが、戦況は大きく変わっていた。奈津とメジロの連携によって莉多に深手を負わせることが出来た。


 莉多は傷口を修復しながら、奈津に語りかけた。


「奈津。あなたは本当に、このままの社会でいいと思っているの? 上に立つ資格のない人間が支配し、私たちのような真っ当に努力してきた人間が潰され、多くの子どもが努力さえ出来ない環境に置かれる。そんな社会のままでいいの?」


「確かに、いいとは思いません。わたしだって、出来ることならこの社会を壊して、一から作り直したいと思っています」


「それなら、どうして私と共に来ないのかしら?」


「言ったでしょう。この世界は生きてる人たちの物だと。生きてる人が、なんとかするべきなんです。わたしたちのような退場した人間が、手を出していい世界じゃない。不幸因子の回収も、本来出てきてはならないモノをゼロにしてるだけ。だから、裏の支配者なんて、悪霊にすぎないんです。どんな大義名分だろうと、悪霊の理想のために命を消すなんてあってはならないんです」


 奈津の言葉を聞いた莉多が笑い出す。


「それこそ、ただの理想にすぎないわ! クズな支配者が善良な人間を潰してきたのは何千年も前からのことなのよ! この世のモノではない存在が手を加えない限り、この愚かなシステムは未来永劫変わることはない! 極悪な指導者を間引いて調整を行う。それが、この世にとってもあの世にとっても最善のことなのよ!」


 莉多の張り上げた声が奈津の心を揺さぶる。

 だが、奈津の信念が変わることはなかった。


「人を殺して世界を変える。それこそ愚かな行為じゃないですか! あなたは自分からクズな支配者になろうとしています! 確かに人間は愚かですが、少しずつ歩みを進めています! 皆が幸せでいられる世界は、いつか来るはずです! だから、わたしたちが人の命を奪う必要なんてありません!」


 奈津は芯の通った声で莉多に真っ向から刃向った。

 双方とも、信念は変わらなかった。


 莉多は大げさにため息をついた。


「やっぱり、あなたは倒すべき最大の障壁だったわ。ここまで言っても変わらないなら、やることは一つ」


 彼女は冷たい視線を奈津に突き刺す。


「死んでもらうわ」


 その言葉の直後、周囲の不幸因子が急激に濃度を増した。


 莉多の支配下にあった五区の不幸因子が中央区に集まり、巨大なエネルギーとなって莉多の周辺で渦巻く。


 奈津は不幸因子を吸引しようとしたが、ビクともしなかった。莉多の支配のほうが強く、奈津にはどうすることもできなかった。


 そして、エネルギーが弾けた。


 爆発の衝撃に奈津とメジロは吹き飛ばされ、分断される。その圧倒的な威力の前では、強化された奈津でさえも無力だった。


 奈津はメジロに目を向ける。

 メジロは空中で行動不能状態になっている。そんな彼女に莉多が迫っていた。


 奈津は事の重大さを理解した。


 契約主の死神が消えれば、遣いも力を発揮することが出来なくなる。莉多の力は想像を絶するものだったが、切り札を使えば彼女を上回ることが出来るかもしれない。しかし、メジロがここで殺されれば、最後の手段すら使えず、莉多を止めることは不可能になる。


 なんとかしてでもメジロを守らなければならない。

 だが、ここで莉多に殺気を向けても対処されるだけ。


 やることは一つだった。


 奈津は急発進し、最高速でメジロと莉多のもとに向かった。莉多が奈津に気付く様子はない。気配を殺していたのが功を奏した。


 奈津はメジロと莉多の間に入り込んだ。


 彼女はメジロをかばうように両手を広げ、莉多を睨み付ける。莉多は右手を突き出したまま、直進してくる。


 奈津も、メジロも、莉多も、新たな行動に移れなかった。


 そして、莉多の右手が奈津の胸を貫いた。






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