表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不幸少女と死神メジロ  作者: 武池 柾斗
第五章 少女たちの決意
35/39

5-9 火蓋

 莉多とカラスに抵抗していた六人だが、もはや限界だった。


 葉月とスズメの参戦により、一時期は抵抗勢力が優勢だった。しかし、全力を出した莉多から容赦ない攻撃を浴びせ続けられ、全員が瀕死の状態となった。最大戦力の結衣でさえも、構えをとるのが精一杯だった。


 莉多は葉月、小夜、結衣の正面に立ち、いつものように微笑みかけた。


「もう一度訊くわ。あなたたち、私の仲間になる気はないかしら? そうすれば、人間社会の調整役として、ずっとこの世にいられるわよ。死神に使い捨てられることなく、ずっと生きていけるの。さあ、私とともに来るのよ!」


 それは最後の通告だった。

 そして、格上の相手に抵抗し続けた者たちへの賛美でもあった。


 莉多は本気で言葉の通りにするつもりだった。社会を調整することにより、不幸因子の流出量は格段に減少する。そうなれば、二年後には遣いが働く必要もなくなる。実現は可能だ。さらに、莉多と戦えるほどの力を持つ仲間がいれば、莉多の立場も強固になる。


 葉月、小夜、結衣を殺す気でいたが、そうするには惜しい存在だった。

 莉多の仲間になれば、長い命が保障される。悪い申し出ではなかった。


 だが、彼女たちは一斉に首を横に振った。


「葉月はー! 世界征服とか興味ないでーす!」

「断る……ワタシたちは……本来、ここに居てはいけない存在……不幸因子も、同じ」

「いくらアタシでも、アンタみたいな悪霊にはなりたくないんでね。お断りだ!」


 三人同時に拒否され、莉多はため息をついた。

 断られたことよりも、あくまで死人であろうとする姿に呆れてしまった。


「そう。それなら、その不幸因子を渡してあの世に行きなさい」

「奈津が来るまでは、行かねぇぞ……」


 ふらふらの体で結衣は戦闘態勢に入る。


 それに続いて葉月と小夜も構えるが、三人とも死を覚悟している様子だった。

 莉多は遣いのリーダーとして、最後に声をかけてやりたくなった。


「ここまでよく頑張ったわね。冥土の土産として、特別に死神の遣いについて教えてあげるわ。死神はね、素質のある者を殺して遣いにしているのよ。もちろん、あなたたちも例外ではないわ。葉月はスズメに、小夜はフクロウに、結衣はタカに、不幸因子を使って殺されたのよ」


 莉多の口から突然語られた事実に、遣いの三人は目を見開いた。

 だが、彼女たちは真実を知っても奈津のように怒り狂ったりはしなかった。


「だからなんだってんだ。アタシは、あんなクソッタレな人生に比べたら、死んでからのほうが百倍楽しいね」

「ワタシも、同じ」

「葉月も!」


 その反応に、莉多は哀しそうに目を細めた。


 小夜と結衣の生前の記憶ついて、莉多はすでに知っていた。小夜はいじめで登校拒否となって引きこもり、不幸因子によって心臓麻痺を起こして死亡。結衣はどこにも馴染めず家出をして放浪し、空き家での寝泊まり中に放火を受けて焼死した。その放火犯は不幸因子によって結衣の寝床に引き寄せられていた。


 この三人は自分の人生を死ぬ前から諦めていた。未来に目を向けるほどの気力など無くなっていた。これが奈津や莉多との違いだった。だからこそ、こうして未練なく生まれ変わることができたのだろう。死神に殺されたと知っても立ち向かってくるのだろう。


 莉多は、こうした人たちを救いたかった。

 誰もが未来に希望を持てる世界にしたかった。


 もう立ち止まることは許されない。葉月も、小夜も、結衣も、世界変革のための尊い犠牲となる。莉多は犠牲者を出したという業を背負い、悪しき支配者を殺し続けるという茨の道を行かなければならない。


 そして、今まさに迫ってきている奈津と決着を付けなければならない。


 莉多の表情が険しくなる。


「今あなたたちを殺しにかかったら、私が奈津に殺されてしまうわね」


 彼女の言葉に、死神と遣いたちは怪訝な表情を浮かべた。

 そして、その真偽を確かめる前に、奈津とメジロが姿を現した。


 彼女たちは莉多と反抗勢力の間に降り立ち、莉多に鋭い視線を突き刺している。結衣たちには、その黄緑マント越しの背中が頼もしく見えた。


 たった一つの希望が到来し、遣いたちは感激のあまり声を出せなかった。


「結衣さん、小夜さん、葉月さん。それからタカさん、フクロウさん、スズメさん。ありがとうございます。おかげさまで、莉多さんを止められるだけの不幸因子を集めることが出来ました」


 奈津は反抗勢力に背中を向けたまま、柔らかな口調で語りかける。

 その直後、彼女は莉多を睨み付けた。


「莉多さん! もうこんなことはやめてください! やめないなら、ここであなたを倒します!」


「私を倒す、ですって? その不幸因子の量で、私とカラスに敵うと思っているのかしら? お仲間も頼れる状態ではないわよ」


「それについては問題ありませんよ」


 挑発する莉多に対し、奈津も自信たっぷりに応える。


 奈津は右手にエネルギーを集中させ、後ろの結衣たちに向けて放った。六つに分かれた不幸因子は一つずつ六人の体内に入り、瀕死の体に浸透していく。彼女たちの疲労が瞬く間に回復し、全身に力がみなぎった。


 回復した者は全員、驚いたように自分の手を見た。


 にわかには信じられないが、奈津によって戦力として復帰することが出来たようだ。奈津に聞きたいことは山ほどあったが、まずは莉多とカラスを止めるのが先。


 奈津の後ろで、死神と遣いの三組が戦闘態勢に入った。


「どうですか。これで、八対二です。葉月さんとスズメさんの魂を修復できたんですから、エネルギーを与えるくらい造作もありませんよ」


 奈津は莉多を挑発するかのように言った。

 莉多の腹の底から笑いが込み上げる。


「ふふふ……あははははははは! いいでしょう! カラス! あなたはあの六人の相手をしてあげなさい! 私は、奈津とメジロ様の相手をしてあげるわ!」


 莉多の言葉を受けたカラスは無言で頷き、莉多は奈津の双眸をまっすぐに見る。少女たちの目には、それぞれの信念が宿っていた。


「さあ、奈津。私は、あなたという最大の障壁を越えて、私が裏の支配者にふさわしいと全世界の死神に知らしめるわ! 私の理想を実現させるために、あなたを殺す!」


「莉多さん。わたしは、あなたの言う社会が良いとは思わない。馬鹿な指導者を殺したところで、また新たな馬鹿が出てくるだけ。殺しても世界は良くならない。だから、あなたを殺人鬼にさせないために、不幸因子から人々を守るために、私はあなたを倒す!」


 両者は睨み合い、沈黙する。

 そして、彼女たちは一斉に動き出した。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ