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不幸少女と死神メジロ  作者: 武池 柾斗
第五章 少女たちの決意
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5-1 始動

 メジロは目の前の光景に戦慄した。


 不幸因子が溢れ出し、街を侵食していく。あの世のエネルギーの暴走が天候をも変化させている。黒く染まった空からは数えきれないほどの雷が落ち、都市の至るところが破壊されていく。メジロからは人々の姿は見えないが、不特定多数の人間に不幸が訪れているのは想像に難くなかった。


 メジロは奈津と別れた後、人の姿のまま西区の拠点に戻っていた。

 高層ビルの屋上から街を見渡し、必死に状況を把握しようとする。


「不幸因子の濃い箇所は、あの線と同じだ。これは、莉多とカラスさんがやったのか? どうやってここまでの量を出した? こんなの、奈津でも吸い取りきれない……」


 メジロは急いで後ろを振り返る。

 しかし、そこに遣いの姿はない。


 神崎親子の件はタイミングが最悪だった。あれさえなければ、今すぐにでもこの事態に立ち向かえた。不幸因子の吸引という面では、遣いのいない死神は無力に等しい。


「でも、どんな顔して奈津に会えば……」


 怒り狂った奈津の顔が思い浮かぶ。


 自分に殺されたと知ったときの彼女の表情は、一生忘れることができないだろう。だからこそ、彼女に会うのをためらってしまう。だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。事は一刻を争う。


「奈津! 聞こえる? 奈津!」


 メジロはテレパシーを用いて奈津との合流を図ろうとする。

 しかし、奈津からの反応があるどころか、届いてさえいないようだった。


「特定の不幸因子が邪魔している。莉多とカラスさんのしわざか……」


 メジロは歯ぎしりをした。


 あの二人が奈津を警戒してのことだろう。奈津が動き出す様子もない。おそらく、彼女はどこかに捕えられている。


「こんなことになるなら、奈津を一人にするんじゃなかった!」


 メジロは両拳を握りしめる。

 後悔しても遅い。頭を横に振って思考を切り替えた。


「正直、こんなに早く仕掛けてくるとは思わなかった。とにかく、奈津を探し出すしかない。これ以上、事態を悪化させてたまるか」


 決意を固め、メジロは屋上から飛び降りた。


 高度が下がるにつれ、街の様子が徐々に明らかになっていく。悲惨な状況だった。交通事故、落下事故、火災事故が多発し、人々の悲鳴があらゆる所から聞こえてくる。これらはすべて不幸因子によるものだろう。現時点でも、相当な数の犠牲者が出ているのは間違いない。


 メジロは自分を不甲斐なく思った。


 死神は不幸因子から現世を守る義務がある。それを果たせなかった。緊急事態であっても自分を責めずにはいられない。しかし、ここで立ち止まってはいられない。


 メジロは道路に着地し、走り出した。


「莉多とカラスさんが、これだけで終わらせるわけがない。次の行動を起こす前に、奈津と合流しないと」


 逃げ惑う人々の間をすり抜け、メジロは南区へと駆けていく。


 神崎親子救出の後、奈津は南区に向けて飛んで行った。南区以外で莉多が活動している様子もなかった。奈津と莉多の間で何かがあったとすれば、南区で事が起こったと見るのが妥当だった。


 メジロは体に鞭を打ち、奈津のもとへ向かっていった。






 不幸因子の大量漏出の直後、莉多はいつも通りリーダーを演じていた。


「小夜。霊穴が開いてないか調べて!」

「ちょっと、待って……今、見つける……」


 莉多は屋上で小夜の返答を待ちつつ、使った分の不幸因子を吸い戻していた。彼女の表情は険しい。葉月、小夜、結衣の目を欺きつつ、街に充満した不幸因子を自分の支配下に置かねばならない。莉多の緊張感は最高潮に達していた。


 約一分後、小夜からの連絡があった。


「大きな霊穴、開いてる……全部で八か所……北区に二か所……東区に三か所……中央区に一か所……南区に一か所……西区に一か所……全部、不幸因子が漏れ出てる……」


 彼女の喋りは遅いが、焦りが強く出ていた。

 莉多はすぐに決断し、指令を出す。


「北区の霊穴は葉月がそのまま行って! 結衣は東区で霊穴を塞いで! 小夜は中央区の一つを塞いだら、東区に向かうこと! 南区と西区は私がやるわ! 奈津は不幸因子の吸引をお願い!」


 緊急事態でも、莉多の指示は的確だった。

 遣いたちはすぐに返事をし、それぞれの仕事に向かう。


 それを確認した莉多は、一息ついて街全体を見渡した。


「ふふ、上手くいったわね。エネルギーがこんなにたくさん」


 莉多は口元を上げる。


 大量の不幸因子を呼び込むことができ、喜びを隠せない。彼女が作り上げた脈を中心に人々の負の感情が増幅し、不幸因子が浮かび上がってくる。それが広がることによって、また新たなものが生み出される。


「でも、これだけでは限界があるし、足りないわね。もう一つの爆弾を利用しましょう」


「ああ。だが、まず先に霊穴を閉じなければならない。エネルギーの漏出が増えるのはいいが、あの世と繋がったままでは邪魔が入る」


 莉多の横で、女性の姿のカラスが応じた。


 カラスにとっても、ここが正念場だった。ただの反乱で終わるのか、それとも不幸因子の調整役になるのかは、これからの行動にかかっている。


「外から死神が来る前に、すべてを終わらせましょう。あの世の連中にも邪魔はさせない。ここからはスピード勝負だわ」


 莉多は深く呼吸をして気合を入れた。





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