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不幸少女と死神メジロ  作者: 武池 柾斗
第二章 不幸因子の行方
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2-5 一筋の光

 翌日からも調査は続行されたが、事故の誘発や黒塊の出現が重なり、いつしかそういったものの対処が主な行動となっていた。


 莉多は五区すべてを巡って不幸因子を吸引し、黒塊の出現があれば他の遣いたちに指示を出していた。


 不幸因子を操作できる人間の捜索は、調査四日目で五区すべてが完了した。くまなく探したものの、そういった人物は発見できなかった。葉月と奈津は調査を一旦止め、黒塊の撃破と事故の防止に専念した。


 小夜と結衣は霊穴を数多く見つけていたが、不幸因子が漏出しているものはなかった。霊穴の調査は六日目で終わった。


 調査開始から七日目の朝、集会の空気は非常に重いものとなった。

 それでも、莉多だけは普段の表情を保っていた。


「一通りの捜索、お疲れ様。これからは、少し方法を変えてみましょうか。なにか、意見はあるかしら?」


 莉多は遣いたちを責めることなく、話を進めた。

 提案を求められ、最初に手を挙げたのは葉月だった。


「はいはーい! 霊穴担当と人間担当を交代してみるのはどうですかー?」


「それもいいかもね。他にはないかしら」


 次に結衣が手を挙げる。


「小夜を中央区に置くのはどうだ? 小夜は不幸因子の感知に集中して、他の四人は自由に動く。これなら、調査をしながら吸引もできる」


「なるほど、いいわね。他には?」


 誰もすぐには手を挙げなかった。

 その沈黙を破るように、奈津が恐る恐る口を開く。


「一度、自分の担当区域に戻るのはどうですか? 慣れてる場所なら、時間をかければ何かを見つけることができるかもしれません」


「ありがとう。それも一理あるわね」


 自分の意見を言えて、奈津は安堵した。


 もちろん採用されるとは思っていない。調査も不幸因子の吸引も中途半端になるのは目に見えている。とにかく何かを言うことが大事だと思った。


「小夜はどう?」


 莉多のその言葉で、全員の視線が小夜に集中する。

 小夜は視線を気にも留めず、眠そうな表情のまま話し始めた。


「ワタシは……結衣の意見が、いいと思う……ワタシは、飛ぶのも速くないし、黒塊との戦闘も苦手……でも、感知だけは得意……だから、適材適所で、いい」


 彼女の言葉を受け、莉多は大きく頷いた。


「ありがとう。よく言ってくれたわ。小夜はこう言っているけど、葉月と奈津はどう思うかしら」


 莉多は葉月と奈津に目を向ける。

 二人の考えは決まっていた。


「葉月は結衣さんの意見に賛成でーす!」

「わたしも、それが一番効果があると思います」


「……決まりね」


 莉多は口元を大きく上げた後、表情を引き締めて指示を出す。


「今日から小夜は中央区に移動し、不幸因子の感知に専念して。葉月、結衣、奈津は自分の担当区域を中心に、調査および不幸因子の吸引をお願い。担当区域以外に行っても構わないわ。私は中央区と南区を中心に動くから。黒塊が出たら、小夜以外の四人で対処しましょう」


 新しい調査方法を受け、遣いたちは大きく返事をした。


「では、解散。健闘を祈るわ」


 莉多の号令で、遣いたちは自分の拠点に戻っていった。小夜は中央区に留まり、莉多は中央区と南区の境界に向かった。




 集会が終わり、奈津は西区の拠点で四時間の休憩をとった。


 昼頃、体を起こした彼女は屋上の端に座り、この大都市を眺めていた。彼女の隣には少女の姿になったメジロが立っている。


 二人はこの場所で数分間唸り続けていた。


「これじゃあ、埒が明かないね」

「何の進展もなく一週間が経ってしまったね……」


 奈津とメジロは同時にため息をついた。


「なんなのこれ全然見つかんないじゃん。ねえ、メジロ、本当にこの調査方法でいいの?」

「二つしか可能性がないんだから、それに賭けるしかないよ。不幸因子は霊穴と人間からしか出てこないんだから」


 二人はもう一度ため息をついた。


「でもさ、このまま見つからなかったらどうしよ」

「それはもう、どうしようもないかな。何か手がかりがあればいいんだけど……」


 さらにため息。


 メジロの言う通り、調査の中で手がかりになるものを見つけていれば、突破口は見えたかもしれない。実際に掴めそうなときは何度もあった。移動する不幸因子の周辺に何かあったかもしれない。しかし、そのたびに黒塊の出現があって中断せざるを得なかった。


「手がかりねぇ……」


 奈津はぼんやりと呟く。


 調査のことを思い返すと、いつも黒塊に邪魔をされていた。どれもこれも人型。不幸因子濃度が高くて手強いわりに行動はワンパターンで、戦闘もそこまで面白くない。思い出すだけで忌々しい。人型の黒塊さえいなければ、調査はもっと進んでいたはずなのに。


「……ん? 黒塊?」


 奈津の頭の中で何かが引っかかった。

 そして、それはひらめきへと変わる。


「そうか! その手があった! なんで気づかなかったんだ! バカじゃんわたし!」

「な、なんだい? いきなり大声上げて」


 急に立ち上がった奈津に対し、メジロは心底驚いてしまった。


 メジロは怪訝な顔で奈津を見る。奈津は危ない薬でも使ってしまったかのように上機嫌になり、メジロの両手を取って何度も上下に大きく振っている。


「手がかりだよ! 手がかり! 黒塊! 黒塊だって!」


 奈津は明るい表情で声を上げる。

 メジロは苦虫を噛み潰したかのように表情を歪ませた。


「ぼくにもわかるように言って欲しいんだけど……」

「だから! 黒塊が出た場所そのものが手がかりなんだってば!」


 奈津の言葉に、メジロは一瞬無表情になった。

 そして、すぐに顔が赤くなった。


「その手があった」


 メジロは両手で顔を覆い、奈津に背中を向けた。段差から下りて屋上の端から遠ざかり、周辺を足早に歩き始める。


「なんで思いつかなかったんだろう! すごく恥ずかしい!」

「恥ずかしがってる場合じゃないよ! 今すぐ出現場所を確認しなきゃ!」


 奈津は屋上の中央でうろうろしているメジロに駆け寄った。彼女の肩を掴んでその場に座らせ、二人だけの会議を始める。


「メジロは不幸因子を使って印をつけて」


 奈津はそう言ってコンクリートの床を指す。

 メジロは露骨に嫌な顔をした。


「なんでそんな疲れることしなきゃいけないんだ。その辺のコンクリの破片でいいだろ」

「はいはい」


 メジロの抗議もあり、奈津は立ち上がって屋上を歩き始めた。小さな破片を拾い集めながら一周し、中央に戻ってくる。


「さて、始めますか」


 奈津はメジロの隣に腰を下ろし、集めた破片を自分の横に置いた。


「まず、調査が始まる前の日を思い出そう。確か、最初に東区で三体、次に西区で一体、最後に五区それぞれの中央に一体ずつだった」


 メジロの言葉を追うように、奈津はコンクリ破片を並べていく。区切りは無いが、破片どうしを離して置いているため理解はできる。


「次。調査一日目は黒塊の出現は無かった。二日目は西区と東区に一体ずつ。三日目は北区と南区に一体ずつ。四日目は西区、北区、南区に一体ずつ。五日目は西区に一体、北区と南区に二体ずつ。六日目は北区と西区の境界に一体、北区と東区の境界に一体、南区と東区の境界に一体。以上だね」


 メジロが黒塊の出現場所を思い出し、奈津はそれを破片で再現した。

 大雑把な再現図を見て、メジロは呟く。


「東西南北、それぞれ五体ずつ出ているね。中央区は一日目の一体しか出ていない。中央区だけ異様に少ないね」


 奈津も、並べた破片たちを見つめる。

 そこで、あることに気がついた。


「これ、中央区と北東の二つは一回置いといて、他の出現地点を二つずつ線で上手く結ぶと、中央区の真ん中で重なるよ。中央区での出現地点とも一致する」


「本当だ。それに、東西南北で五体ずつ出ているし、ちょうど境界に出ているのも不自然すぎる。誰かが狙ってやっているとしか思えない」


 メジロと奈津は眉をひそめる。

 この異常事態は人為的なものだという予想が有力になっていく。


「何の目的があって、こんなことをやってるんだろう」

「わからない。だけど、黒塊の出現は何かの準備段階にすぎないのかもしれない」


 奈津とメジロは恐ろしい予感がして、顔をしかめた。


「とにかく、今日はここへ行ってみよう。これだけペアになってない」


 奈津は南区と西区の境界を指差した。


「南区と西区の境界に黒塊が出現すれば、北東と南西のペアが完成するね。奈津の言う通り、今夜はここを重点的に捜査しよう」


 奈津とメジロは顔を合わせ、頷き合った。


 偶然のひらめきから、わずかに見えた可能性。そこから何かを掴めば、この異常事態の解明に繋がるかもしれない。


 二人は屋上から飛び立ち、西区全域を見回りながら、夜を待った。





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