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鳴神  作者: ふゆ
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朝焼けと夕焼け

「朝焼けと夕焼けの違いを知っているか」

 と、鳴神が言う。いいや、と僕は答える。

「どちらも基本的な仕組みは同じだ。昼間は太陽光線が垂直に近い角度から地表に届く。だが払暁や日没に於いては入射角が浅くなり、光線が大気中を通過する距離が長くなる。その間に青色光が障害物に衝突するなどして吸収され、結果的に地表には赤い光のみが届く。大雑把に言えばそんなところだ」

 成る程ね、と僕は欠伸を噛み殺しながら言う。

「それだけならば朝焼けも夕焼けも同じだ。だが、人は朝焼けと夕焼けに違うものを見る。何故だ?」

 さあ、僕には判らない。だが君には判るのだろう、鳴神。そして君はそれを僕に説明しようとしている。説明することでそれを君の中で確固たるものにするために。それが判っていれば余計な前置きは不要だ、そうだろう、鳴神? 僕はそう鳴神に言う。鳴神は、その通りだ、と頷く。

 そして鳴神は腕を振って周囲を示す。始発前の駅前広場。空は、昼間の青でも、夜中の黒でもない、限りなく深い色。西から東へ掛けてほんのかすかではあるがグラデーションを描いていることに気づく者がいるかも知れない。そんな空の下、灰色のビルがいくつも建ち並んでいる。

 今、車が一台だけ通り、去って行った。それ以外には動くものの無い、僕と鳴神だけの世界。

「判らないかね?」

 鳴神はそう問い、僕は答える。判らない、と。

 鳴神はまた頷く。そして言う。

「それは、窓の明かりさ」

 窓の明かり? と、僕はその言葉を舌の上で転がし、そして言われたものを探す。

 建ち並ぶビルをよく見れば、いくつかの窓に明かりが灯っている。こんな時間から、或いはこんな時間まで働いている人がいるのだろう。あっちのマンションは勉強中の学生だろうか。勉強ではなく、徹夜でゲームをしているだけかも知れない。ただの消し忘れかも知れない。

 鳴神を見る。鳴神は眉を立てた笑みで僕を見る。

 窓の明かり。そんなものは日没時にも見られるだろう、僕がそう言うと、鳴神はかぶりを振り、

「だが数が違う。日没ならほぼ全ての窓に明かりが見られる。だが今は違う。そのうえ、今見える窓の明かりはこれから減っていくだろうが、日没時は逆に増えていく」

 まあ、確かにそうだ。

「朝焼けと夕焼けの違い。それは窓の明かりの数さ。本来ただの自然現象で違いなど無い筈の朝焼けと夕焼けが、人の存在が故に決定的な違いを与えられる。とても面白いと思わないかね?」

 ふむ、と僕は頷き、鳴神が言ったことをよく考える。そして聞く。それが鳴神の言いたかったこと?

「そう、その通りだ」

 鳴神は頷く。僕は聞く。それを言うためだけにこんな朝早くから呼び出した?

「そう、その通りだ」

 鳴神は頷く。オッケー。僕も頷く。そしておもむろに鳴神を打撃して、自転車に跨がって家路につく。

 大の字で地面に倒れた鳴神を、舞い降りた烏が不思議そうに眺めている。


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