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ゴースト  作者: 鏡完
ゴースト第二章
25/36

苦虫の狂詩曲(ラプソディー)

五月九日(土)午後三時二十分。



僕たち姉妹は、木下刑事の車の後部座席に揺られて木戸家の自宅まで戻った。


何か大きな組織が絡んでいるとは想像していたが、人身売買が絡んでいるとは思わなかった。


しかも、被害者の数が二桁後半だし…。


本当に警察組織は何をやっているのかと思わないでもなかったが、行方不明者だけで年間八万人以上もの届けが出ていたとは思いもよらなかった。


これの他に多岐に渡る様々な事件や事故、その他の処理を考えたら警察組織のやることってきりがない。


山積みの書類が処理出来ない内にさらに高い山になる様が想像するに余りある。


むしろこの事件に気付いた雨宮刑事の方が奇才と言うべきなのだろう。


木下刑事は、車の乗り降りの際に必ずドアを開けてくれる。


大変だからやらなくてもいいと断ったが、パトカーの構造上、後部座席は内側から開かないようになっているという事だった。


でも乗る時は開けられるじゃないか?と思ったが、その善意をむげにする必要もないので黙っておいた。


僕達が車を降りると、木下刑事は一度車を発車させた。


一度出た振りをして、車を別の場所に移動させてから、徒歩で見張りにつく事を聞いていた僕達は、木下刑事に御礼の意味で手を振った。


ガレージ側から入った僕達は玄関に回り込む際に有り得ないものが玄関脇に座っているのを見つけた。


明菜が少しならずのけぞる。




「あぁ!ハニー!!ハニー!!ハニーボクのハニーたち!?今日はなんて素晴らしい日なんだァ~!キミたちはボクが待っているって信じて、わざわざ二人で来てくれたんだねぇ~?アイラビュ…うべっ!!…」



両手を広げて僕に抱き着こうとしていたヤツの顔に問答無用の正拳突きが綺麗に入る。


その瞬間の、ヤツの顔面はまるでゴムのようにひしゃげていた。


さよなら三度笠…。


大丈夫…恵里奈の許可はもらってあるから…。


何がアイラブユーだ…気色悪い…。


ああああ!!鳥肌がたつぅ~!!!




「ぐあっ!!!」




あ…明菜ってひどい…何もヒールで顔を踏まなくても…。




「うわ~…失敗した…」




…あ、間違ったのね…。


そりゃあ、そっか…さすがにヒールはかわいそうだもんな…。




「靴の底、消毒しとかなくちゃ…面倒だな~…」




そっちか?そっちなのか!?


そう言いながら、明菜はカードキーを差し込んでいた。


こ、この人だけは…味方にしとこう…。


ん?…ちょっとまてよ?…。


僕はちょっと、名案を思いついた。




「あ、お姉ちゃん?ちょっと先に行っててくれる?」


「何?どうしたの?」


「ちょっと、あの三度笠ゴミを片づけて来るから」




三度笠ゴミは、ショックのためか、はたまた僕か明菜の攻撃によるものなのか、白目をむいて倒れている。


そこはかとなく、指先も痙攣けいれんしているようにも見えた。




「あ~…そんなのほっとけばいいのに…あ…でも目障りだもんね?お願いできる?私、それに触ると鳥肌立っちゃって…先に行って靴を消毒しとくわ…恵里奈もちゃんと手を洗っときなよ?」




病原菌扱いかよ…。


チーン…成仏しろよ…三度笠みどがさ…。




「う、うんわかった。がんばる…」




明菜は玄関を開けて、じゃあね、と僕に小さく手を振りながら家に入って行った。


さて、問題だ。


恵里奈は起きているんだろうか?


起きてるよな?…たぶん。


僕は、一応倒れている三度笠の隣に横になって、その手に触れた。


嫌だけど、しょうがないよな…今のところは、これが最善策だ。


僕は覚悟を決めて、三度笠の体に移った!。


ん?


いつものフラッシュバックはあまり感じなかった。


やっぱり、直接移ると抵抗が少ないのだろうか…。


それとも、気絶している人間だからなのだろうか…。


それでも、三度笠の記憶が僕の頭に入り込んでくるのは分かった。


で、でも…顎と頬が非常に、い、痛い…。




目を開くと、とても美しい目が僕を見ていた。


恵里奈だ。


鏡で見るよりもやっぱりこっちの方が可愛いな…。


蓮葉も大きくなったらこんな感じになるのだろうか…。


元嫁も、性格はともかく美人だったからな…。




「大丈夫?浅倉さん…」


「あ…いててて…恵里奈ちゃん…僕がわかるの?」


「そりゃあ、わかるよ。私の体が自分の意思で動くしね…」


「あ…そうか…ははは…あぁ…痛てぇ…」




僕は顎と頬をさすりながら、起き上がった。


恵里奈も一緒に起き上がる。


うわ、視点がだいぶ違うな…。


三度笠こいつ、結構背が高いんだ…。




「ねえ、ほんとに大丈夫?」


「ああ、大丈夫みたい…」




恵里奈は超至近距離で、まじまじと僕の目を見つめてくる。


うわ、なんだよ…恥ずかしいじゃないか!


思わず目をそらす。




「良かった、ちゃんと浅倉さんだね?」


「う…うん」


「もし三度笠の演技だったら、今度はわたしがグーで思い切りぶってあげようと思ってさ!」




そう言って楽しそうに笑う恵里奈を見て、ついつい僕は蓮葉の顔を彼女に重ねてしまう。


そっか、僕は恵里奈の中に蓮葉を見ていたのかも知れないな…。


あの子は今頃どうしているだろう…まだ立ち止まって泣いているだろうか。


それともちゃんと未来まえを向いていてくれているだろうか…。




「浅倉さん?」


「…え?なに?」


「本当に大丈夫?」


「あぁ…本当に大丈夫だよ、平気平気!」


「それならいいけど!」


「あ、そうだ。こいつの身体、勝手に借りちゃったけど、大丈夫かな…」




恵里奈は眉を寄せて少し考えていた。




「ん~…ま、いいんじゃない?視覚的には『アレ』だけど、中身が浅倉さんなら大丈夫だよ」




『アレ』って…ハハハ…三度笠、終了チーン……。




「ははは…そういう意味じゃなくてさ…」


「ん?まだ何かあるの?」


「いや…一応僕の身体じゃないしね…」


「あ、もしかして三度笠の事気にしてる?」


「そう…」


「ああ!それなら全っっっ…然問題ないよ~!。昨日に続いてうちに来たの二日目だよ?普通の人ならともかく、三度笠あいつの場合は既にストーカー認定決定だし…あいつの代わりが浅倉さんになるなら、一石二鳥どころか、五鳥にも六鳥にもなるよ!」




…この二人にとって三度笠かれには個人の尊厳とか無いのね…。


僕はちょっぴり、この身体の持ち主に同情せざるを得ない切ないものを感じた。




「とりあえず、しばらくの間だけ…ね?」


「うん!じゃあ、中に行こうか!」


「え…あの僕は今…」


「大丈夫、大丈夫!!私にまかせて!ね?」




い、いや…あの…ね?と言われてもさ…。


恵里奈はとても楽しそうに笑っているが…家の中には、この身体の持ち主を芋虫毛虫きもけいがいちゅうと同様に扱う怖~い人がいらっしゃるのですが…。




「どうしたの?浅倉さん…さ!早くはやくっ!」




躊躇している僕の手を引っ張って恵里奈は玄関のドアを開けた。




「お姉ちゃん!大変、大変!」




え!?…いきなり呼びますか??…僕はまだ死にたくありませんよ!?…。




「どうしたの!?恵里奈…げ…!!!なんでコイツが私の家の中にいるの?…」




…げ…って…。


あの…とても怖いんですけど…お姉さま…。




「あのね?お姉ちゃん!今、この人別人なんだって!」


「はぁ?何言ってんの恵里奈…」




え、恵里奈くん?…一体ナニを言ってるのかなぁ~?




「ちょっと聞いてよ!この人ね…浅倉さんって言うんだって!」


「はい~?」


「あのね?三度笠くんって、二重人格者だったみたい!」


「はあぁ??二重人格者ぁ~?」




…に、二重人格者?……トホホ~……終わった…完全に作戦失敗だよ…恵里奈くん…僕の命もここまでかもしれん…。


スマンな三度笠…君の身体、五体満足で返せなくて…。


でも、お前の責任でもあるんだぞ?


だって、この嫌われ方って異常だろ?…五体満足じゃなくなっても、しっかり生きろよ?…な?…。


あ…ほら…お姉さまがこっちをジト目で見ている…。


来るぞ?…来るぞ…!来るぞ?!!!


ああ!…だんだんお姉さまの表情が怖くなってきた…おお!…神様…。




「うっそっ!?本気マジでっ!?」


「うんっ!」


「今ちょっと話してたんだけどさ、ほんとに本当みたい!お姉ちゃんも話してみてよ!!」


「う、うん!話す!話させて?」




へ?……。


恵里奈は僕に向かって、にこりと笑いながら左目を軽くつぶった。


いわゆるウィンクだ。




「三度…じゃなかった、朝倉さんだっけ…ちょっと上がってよ!」




こっちこっち…と言いながら、明菜は僕をリビングのソファーに案内する。




「ちょっと待ってて!今、お茶頼んでくるから!」




すごい変わりようです、お姉さま…。


本当に大丈夫なのかな…戻ってきたら、いきなり包丁で『ぐさり!』とかは嫌だな…。




「あの…恵里奈ちゃん?ほ、本当に大丈夫なの?殺されませんか?僕…」




僕は隣に座った恵里奈に不安な気持ちを小声で伝える。




「大丈夫。お姉ちゃんはね…そういうの、ほんっっとに大好きなの。たぶん推理小説とおんなじくらい…だから、心配しないで話だけ合わせてね?」




恵里奈も小声で答えたあと、嬉しそうな顔で僕を見てから、もう一度あの可愛いウィンクをして、クスクスと笑った。


明菜が小走りで戻ってくる。


その顔は既に好奇心のかたまりになっているようだった。


でもきっと、それに反比例するかのように、僕は苦虫をかみつぶすような顔だったに違いない。



こんばんは…あ、もう「おはようございます」ですね?


鏡です<m(__)m>。


第25部お届けいたします。


ようやく…ようやくヒロインに登場していただくことが出来ました。


こ、これからやっと恵里奈の事をご紹介できます。


まるで、箱入り娘をお披露目する気分です。



それでは朝になってしまいそうですので、今回は短めに…ZZZ



     むにゃむにゃ…鏡でしたZZZ…

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