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ゴースト  作者: 鏡完
ゴースト第一章
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姉妹の絆

夕食の後片付けも終わり、僕はゆっくりとお風呂に入ることにした。


柔らかな髪を丁寧に洗い、トリートメントで仕上げる。


なるべく目を閉じて形の良い体を洗う。


…あ…下の方の毛はずいぶん薄いんだな…。


…だめだ!違うだろう!正気に戻れ!戻ってこい浅倉久美!


恥を知るんだ!恥を!


温かいシャワーで泡を流してからゴージャスな浴槽に胸の下まで浸かった。


いわゆる半身浴である。


もちろん恵里奈のプライバシーを可能な限り守るために、鏡の壁を背にしての事だ。


身体を洗う際に、ずっと目を閉じている訳にもいかないから、いやでも恵里奈のプロポーションははっきりと目に焼き付いている。


うーん…ナイスバディ…


すらりと伸びた足は見事な曲線美を描いている。


思わず、足に触れてそのすべすべした感触を確かめる。


…いやいや…だから、こんなことをしている場合じゃないだろ?




僕は気を取り直して、湯に浸かりながら今日一日を振り返った。


木戸恵里奈の身体から抜けて、他の人に乗り移ることができることは判った。


恵里奈の時よりも乗り移った瞬間の衝撃が少なかったのは、僕に覚悟が出来ていたからなのか、それとも他の違った理由があるのかはわからない。


もう少し実験が必要だ。


抜け出してから息苦しくなるまでの十三分二十七秒の間に誰かの中に入れば問題はないかも知れないが、誰にでも入れるのか、それとも入れない人間もいるのか、出来ればそのあたりも検証したいところだ。


あと、もう一つ気付いた事がある。


今回、あの変態、『腐れ外道』の中に入ったとき、いつもの抜け出た時のような水の中にいる感覚がなかった。


時差がなく、いきなり奴の視界になっていたもんな…。


どういう事だろう?




「恵里奈?まだ入ってる?」




脱衣場から声がした。


それは姉の明菜だった。




「うん。どうしたの?」


「お父さんがね、恵里奈の次に入りたいんだって。遅くなっちゃうから、私も恵里奈と入っちゃおうと思うんだけどいい?」




…う…そ、それは…まずいっしょ…?


僕は一向に構わないんですが、いや…むしろ嬉ばしい限りなんですが、目のやり場が…。


しかし、断る理由も見つからない…ど、どうしよう…?




「恵里奈?入るよ?」


「う…うん、もうちょっと待っててくれれば、すぐに上がるから…え?」




言ってる途中で、恵里奈の姉の明菜が浴室に入ってきた。


もちろん一糸纏わぬ姿で…。


返事をしようとして、浴室の入り口を見ていたから、まともに見てしまった。


…うわ!…これは…。


…恐るべしです、木戸姉妹。


若干、恵里奈の方が全体的な造りが小さいような気がするが、姉妹揃って美形なだけでなく、ナイスプロポーションです。


鼻血が出そう…。


くらくらしてきた僕は、浴槽のお湯で顔を洗った。


しまった、冷たい水で洗うべきだった。


顔が温まって余計にくらくらする。




「どうしたの、恵里奈?」


「ううん、なんでもない…」




明菜は広い浴室をすたすたと歩いてきて、シャワーのある洗い場の椅子に腰かける。


くびれた細い首、気持ち広めの肩から流れるようにウエストに至る完璧な曲線美。


細過ぎない太腿から足首に至る脚線美は、スーパーモデル並みの美しさだった。





「どうしたの?固まっちゃって?」




明菜は、髪の毛にシャワーを当てながら片目を瞑った顔をこちらに向けている。




「う、うん。お姉ちゃんって、そんなにプロポーション良かったんだ…」


「今更何を言ってるんだか?初めて一緒に入ったわけじゃないのにさ?」




…いえいえ…僕は初めてです、お姉さま…。





「恵里奈だって、かなりのモノよ?あなたもっと自信持ったらどう?ほら…ちょっと、こっち来てみなよ?」




いえいえ、ここからで十分です…これ以上近づいたら、僕の理性は濡れた紙より脆くなってしまいます。




「ほらぁ!早く来なってばぁ!!」




明菜は、浴槽に近づいてきて、無理やり僕の腕を引っ張る。


あ…そんなご無体な……お姉さま…なにとぞご勘弁を!!!!


彼女は僕を引っ張り上げて、自分の横に立たせた。


もちろん鏡の壁の側である。




………絶景かな~…絶景かなぁ~……。




そこには二人の天女様が映っていらっしゃいました。


しかもそれこそ一糸も纏わぬお姿で…❤。


生まれてきて…ぼく…本当に幸せです。




「ほら、同じでしょう?」




あ…本当だ。


恵里奈は明菜よりも五センチほど背が小さいが、間違いなく姉の縮小版と言えた。


さっきまで、お湯につかっていたせいか恵里奈の身体は、ほんのりピンク色になった肌にお湯が滴って、実になまめかしく見える。


本当に綺麗な姉妹だった。




「ね?だからあなたもちゃんと自信持って、そろそろ彼氏でも作りなさい?じゃないと一生独りぼっちになっちゃうぞ?」




そう言う明菜の美しすぎる笑顔には、妹に対する深い愛情が見て取れた。


きっと、そうだ…彼女は恵里奈の昔の傷を癒そうとしてくれているのかも知れなかった。


…だけど…だけどだ!


僕の理性が限界です…。


これ以上は耐えられない。




「お姉ちゃん、ありがとね?頑張ってみるよ…」




僕はどうにかそれだけ言って、下を向いた。


お姉さん…これ以上、こんなに肉感的で魅惑的なものを視界に入れ続けたら、本当に僕の理性は羽根を生やして飛んでいってしまいます。


…よく頑張ったぞ僕、よく正気を保った。


偉いぞ?僕!…え!?


明菜は次の瞬間に僕を強く抱きしめた。


柔らかい胸の弾力が僕の、いや、恵里奈の胸に重なって押しつぶされる。


…お~い!!本当に頼むってばぁぁぁl!!これじゃあ拷問だよ~…。




「恵里奈、あの事件から今まで大変だったね…つらかったね…でも、よく頑張ったね…偉いよ?本当に…恵里奈は…」




明菜のその言葉に、僕の理性は一瞬で完全復活を遂げた。


明菜の胸の柔らかな弾力ではなく、明菜の気持ちが僕の胸を打った。


したたかな僕の煩悩は、明菜のまっすぐな妹を思いやる心に木端微塵に打ち砕かれて、清々しく、そして暖かな温もりに昇華されていった。




「お姉ちゃん、ありがと…本当にありがとう…」




この姉の言葉を、本物の恵里奈に聞かせてあげたかった…。


聞かせなければいけなかった…。


明菜は、自分と妹の身体一緒に鏡に映すことで、自分と変わらないんだと、恵里奈は汚れてなんかいないんだと伝えたかったのだと感じた。


初めての相手が、あんな粗暴な男で、それも無理やりに…、大事な貞操を奪われたのだ。


どれだけ恵里奈は傷ついたことだろう…。


とれだけ絶望を感じたことだろう…。


僕は今、その恵里奈の中にいて恵里奈の自由を、それも全ての意味での自由を奪っているんだ。


今この瞬間にも…。


僕の目から涙が零れ落ちるのがわかった。




「お父さん…待ってるんだよね?わたし、先に上がるね?」




僕は明菜の身体をそっと引き離した。




「頑張ってなんて言わないよ?あなたは今までずっと頑張ってきたんだから…でもね?恵里奈…幸せになる努力はやめちゃだめだよ?」




背中から届く姉の声は、凛として強く、そして何よりも温かかった。




「うん…わかってる。ううん…わかった」




恵里奈の目から、またとめどなく涙が流れた。


これは僕の涙ではなく、恵里奈の涙なのだと僕は思いたかった。



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