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せっかくですから出来るだけ、久保田さんが感想を書きづらい話を目指そうと思います。

「月城さん、特にどうというもんじゃねぇのよ、俺の第六肢(パーツ)は」


 西日の紅、夕暮れの教室。あせた茶髪の学生服、どこかまだあどけなさの残る表情が言葉と裏腹に弾む。黒袖から伸びる指先が、今時珍しい木造の机に乗る。

 広げられるは歴史Ⅱの教科書。戦国時代の武将の絵は真横から破られていた。持ち主は月城(つきしろ)カナデ、しかし破ったのは彼女ではなく、目の前の少年――西島(にしじま)カナタだ。

 これは別にイジメの現場ではない、教科書を破いたのは月城から許可を得てやった事だ。


「で、こうやるとさ」


 ゆっくりと、破れ目に合わせ西島の指が動く。指が通り過ぎた後には、すでに破れ目は存在していない。


 ページの端から武将の顔まで破損の痕跡が綺麗に消えている。まるでそんなものは最初から存在していなかったように。


「復元能力……つうのかな、これ? 範囲せまいし時間かかるしで部屋の壁紙直すとか本の破れ直すぐらいかしか使い道ないけどね」


 使えない力さ――そう呟きながら、西島は僅かに笑う。その表情には第六肢を持つ故の常人とは違うという僅かな優越と、それでも大して役に立つものではないという自虐が見えた。


「ううん……スゴいよ! 物を直せるなんて、凄い便利な第六肢(パーツ)だね」


 弾む声で少女――月城が答えた。小柄で細い肢体を包む今時古風な紺のセーラー服、腰まで届く黒髪が赤光を反射。色白の肌、整った顔立ちの美少女。明るい性格に、どこか物憂げな一面を見せる。

 清美な雰囲気を纏う彼女は、西島たちクラスメイトにはどこか高嶺の花といった扱いだ。


「やっぱり能力ってあったほうがいいよ、そうだよねケイ」


 横を向く月城の視線。その先にもう一人の少女(クラスメイト)。


「……別に、第六肢があったって、いいことなんか」


 今にも消え入りそうな沈んだ小声で、眼鏡の少女が答える。月城と同じセーラー服の上に羽織られる安っぽい緑のジャージ。月城と対象的なショートカットの黒髪、やや高めの背丈、影のような薄い存在感。

 その顔は鬱蒼とした髪に隠され良くみえない。まるで闇夜に頼りなく浮かぶ三等星のような少女。

 それが星薙(ほしなぎ)ケイを見た万人が抱く感想だろう。



 二十年前、全世界規模に置ける人類種変革現象(リスタート)が発生。その中の最大事項の一つ、約百分の一の新生児に発生する原理不明の特殊能力の付与現象。

 個人により千差万別かつ物理法則を無視した特殊能力群は、人類進化に置ける新たな生体器官の発生――――四肢及び人類の失った第五肢である尾部、それに次ぐ新器官としての第六肢(パーツ)という名称が与えられた。

 世界はそれらの能力群を「次世代に置ける人類進化の道の模索にして過度期の存在」とし、第六肢使いの中から新たな次世代人類の発生を願い、その存在を肯定した。

 実際問題として第六肢の能力は全体的にそれほど大したレベルでは無く、せいぜいが日常に置ける手品程度と世間では認識されていく。それにより第六肢使いは通常の一般人と変わりなく、むしろ一般人として扱われている。

 人類の変革は、結局は平和な日常に飲み込まれその一部と変わっていった。

 それはある意味、最も理想的な変革の形態。


「いや、俺なんかより星薙さんの能力の方がずっといいよ」


 西島が星薙へ声をかける。西日に照らされる彼女の姿は、普段よりもくっきりとその存在感が際立って見えた。


「星薙さんの能力はほら、なんか女の子らしいっていうか、かわいらしいじゃない。役に立つしさ」


 少年の声に、うつむいたままの少女が答える。


「私の能力なんて、大して役に立たないものだから……」


 彼女の右手、広げた手のひらからころりと何かが転がる。

 それは小さなビス――の形をした砂糖菓子、否、ビスだった物(・・・・・・)


「いやそれ絶対役に立つよ。無機物をお菓子に変える能力なんて、小腹が減った時とか最高じゃない!」

 明るく笑う少年と対極的に、星薙が更に沈む。


「私、甘いもの嫌いだから……」


「あ、ああ、そりゃ確かに役に立たないね……」


 再び訪れる気まずい沈黙。第六肢の能力は基本的に決定される条件がない。誰がどんな能力になるかは全くのランダムに決まっているとしか言えない。あるいは、見えざる神の悪意か善意。


「ねぇ、西島君、少しお話しない?」


 いつの間にか月城が少年の前に座っていた。窓から入る西日が彼女の透き通った容姿を際立たせる。

 そもそも西島がこの放課後の教室に残っているのも、月城に話があると誘われたからだ。


「あ、ああ、話ってなんなんだい?」


 ややどぎまぎとしながらも、どうにか平静を保つ少年。我ながら冴えない人間だと自覚しながらも、いわゆる色恋沙汰の「もしも」という可能性を捨てきれないのは男子の悲しい性だ。


「うん、今回の話はね、――勘違いの、話なんだ」


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