ダグルヒュアルランの抜け殻
置いて行かれた。それだけはわかっていた。どうして?などと聞く声を僕は持っていなかったし、そう聞く意思も持っていなかった。それほど幼かったのだし、未だに幼い。
記憶の片隅しかに後ろ姿はもう残っていない。それでよかった。理由もわからず、声も温もりも顔も名前も知らないのだから。今はただただ“家族”ともに楽しみを、悲しみを、怒りを、苦しみを、知っていけばいい。増えていくしかない思い出のページにちっぽけな残り香など残しておく必要などはない。
彼の眼の奥に眠っている寂しさは、きっと彼自身も気付いていないもので。それを指摘してはいけないのだと、私は理解している。傷をつけること以上に彼の人生すべてを狂わしてしまうだろうから。私は彼の人生をすべて背負えるほど人間はできていない。
まして、この身が背負っている秘密を暴かれてしまうかもしれない危険を誰が冒そうというのだろうか。墓場の中にまで持っていくことしかできはしない。今はまだ、まだ、まだ・・・。
ゆりかごに眠る“妹”。口ずさむ子守唄は聞きなれた歌で、終わりの音を踏むことはない。
「ダグルヒュアルラン」は作者の造語です。生き物かどうかもわかりません。
誤字・脱字などありましたら、お知らせください。
2012/03/28