第3話 修羅場
「私クローン病という病気を抱えていて、それで嫌なことを忘れたくて……本当にごめんなさい」
「クローン病!」
「秀二と同じ病気じゃね~か」
「ゆきちゃん、君が心から謝っているんだ。許すよ。それに僕の知り合い……この前立ち話した人、あの人もクローン病だから、病人には病人の健康人には分からない痛みや苦しみがある。でも、クローン病なんかに負けないで、これから真面目に生きてよね」
沖田は笑顔でそういった。
そして彼女は「はい」と答えた。
次の日、沖田と由紀子、さらに秀二と一緒にいつものファミレスに来た。
「ふ~ん。クローン病だったんだ」
無気力な感じで秀二は言った。
「はい。それで、今は恋人じゃなく友達として付き合っているんです。で、修二さんも仲良くしてあげてください」
「ああ」
秀二は気のない返事をした。
そんな彼の顔を由紀子は見て、何かを思い出した。
「秀二さんって、ちょっと前のCCJAPANにネット作家の体験談で出ていませんでした?」
CCJAPAN……クローン病、潰瘍性大腸炎などの専門誌。
出版社は三雲社である。
「ああ、出ていたよ。今は何も書いてないがね」
「小説以外にも格闘技や音楽もやっていたんですよね」
「昔の事だよ」
「でも亡くなった方のためにCDまで作ったんですよね」
「まあね」
「私も、前にバンドやっていたんですよ。一緒にやりませんか?」
秀二は少し考え、こう答えた。
「今は何にもしたくないんで……それより、腹が痛くなってきたから帰るわ」
「えっ……あっ、お大事に」
「お金ここに置いておくんで。じゃあな」
そう言って秀二は帰っていった。
「ごめんね」
「何がです?」
「普段のあの人はすごくいい人なんですよ」
「気にしていません。それにあの人の気持ちはよく分かります」
「そうか」
その頃ある空き家で数人の若者達が集まっていた。
「3代目の名前と伝説はよく聞くぜ」
集まっていたのは、新見たち3人と芹沢と摩利支天のメンバー数人であった。
「で、沖田って奴に焼入れてやりたいんだな」
「はい。野郎にやられ、女を取られたんですから」
「でも沖田強いんだろう」
「は、はい」
「しかも、3代目の知り合い……それなりの報酬は貰うぞ」
「はい」
「よし。お前の由紀子を使って沖田をここに連れて来い」
「分かりました」
夕方……
沖田が夜、空手があるため、二人は別れた。
「気をつけて帰るんだよ」
「はい。今日はいろいろありがとうございます」
「じゃあ」
二人が分かれてしばらくしたところで、由紀子の前に新見が現れた。
「な、何の用?」
「ちょっと話があってさ」
「悪いけど急いでいるの」
「まあ、聞けよ。おとなしく言う事聞かないと、家に火を点けるぞ」
「……分かったわ」
「よし。じゃあ、着いて来い」
由紀子が拉致された。
その頃沖田は、道着に着替え、道場へ向かっていた。
すると途中で、同じく道場へ向かっている内気と出会った。
「押忍!沖田さん」
武道の世界は上下関係が厳しい。
年は内気の方が上なのだが、帯は沖田の方が上。
そのため、彼は沖田に敬語で話している。
また、秀二も現役時代は沖田に敬語で話していた。
「そういえば、内気さんの病気ってクローン病と似ているんですよね?」
「似ているわけではないですけど、同じ腸の特定疾患ではあります」
「そうか。僕の友達にもクローン病がいてね」
二人が会話をしながら道場に向かう途中、沖田の携帯が鳴った。
「ゆきちゃんからだ」
沖田は携帯に出ると、電話の声は由紀子ではなく、新見であった。
「お前、ゆきちゃんに何かしたのか?」
「いや、まだしていない。だが、お前の態度しだいではどうなるか分からん」
「俺にどうしろと?」
「今からいう場所へ一人で来い」
「分かった」
沖田は指示された場所へ向か決意をした。
「沖田さん、お友達に何かあったのですか?」
「内気さん、誰にも言わないでくださいね」
「で、でも」
「大丈夫ですよ。それより早く行かないと遅れるよ」
「ですが」
「(破門されるかもしれない。だが、ゆきちゃんを助けに行かなくちゃ)
彼は由紀子を助けに向かった。
「沖田さ~ん!!」
内気が大声で呼んだが、沖田の耳には届かなかった。
内気はどうすればいいのか悩みながら道場へ来た。
だが、すでに練習は始まっていた。
館長の命令で、北斗が彼を怒った。
内気は決心し、遅刻した理由を話した。
「どうだトシ?繋がったか?」
「ダメです。それにしても沖田が無断で休むなんて、何かあったのかも」
「その通りですぜ。土方さん」
と、北斗が言った。
北斗は内気から聞いたことと、昨日の出来事を話した。
「原田、永倉、二人で指導続けろ」
「押忍!」
「内気、本来なら腕立て100回だが、今日は50回で許してやる」
「押忍!遅刻して本当にすみませんでした」
「北斗、トシ、外に行くぞ」
「押忍!」
三人は道場の外に出た。
「北斗、お前がいたチームの奴がバックにいるんだろう。たまり場はどこだ」
「時代が違いますから、今、あいつらがどこで集まっているのか分かりません。ただ、ファミレスによく来ているみたいですが……呼び出したということは、沖田に復讐するつもり……大勢の人がいる場所でさすがにやらないと思います」
「そうか。よし。昔の不良より今の不良の方がいろいろと知っているだろう。トシ、山崎を呼んで来い」
「押忍!」
「まったく新戦会に喧嘩を売るとはいい度胸だな」
「ただの馬鹿ですよ」
「じゃあ、居場所が分かったら、お前がその馬鹿共に礼儀を教えてやれ」
「押忍!」
北斗は薄っすらと笑った。
多くの修羅場を潜ってきた修羅だからこそ、暴れられるのが嬉しいのだ。
「館長、山崎を連れてきました」
「うむ。山崎、お前、新見って奴知っているか?」
「新見ですか……下の名前は分かりますか?」
「知らん。なら芹沢という今、摩利支天の頭を張っている奴は知っているか?」
「摩利支天なら、自分より北斗さんのほうが詳しいのでは?」
「時代が違うらしい。だから昔の不良よりも今の不良のお前の方が詳しいと思ってな」
「ちょっと、悪友に電話してもいいですか?もしかしたら誰か知っているかもしれません」
「ああ、頼んだぞ」
その頃沖田は芹沢たちのたまり場である空き家の前にいた。
「ここか」
バキッ!
とドアを蹴破り中に入った。
するとたくさん懐中電灯が照らされた。
そして、新見たち3人と芹沢と20人の摩利支天のメンバー、さらに両手を縛られ、床に座らされている由紀子もいた。
「沖田君!」
「ゆきちゃん、もう大丈夫だよ。おい、約束どおり来たんだ。ゆきちゃんは返してやれ」
「それは出来んな」
と新見が言った。
「彼女は病気を抱えているんだ。ストレスや不安で体調が悪くなったらどうするんだ」
「そんなの知った事か」
「何!」
「由紀子は俺達の切り札。お前は今から俺達にボコられるんだ。抵抗しても構わんが、由紀子がどうなっても知らんぞ」
「クッ……」
「沖田君、私は大丈夫だから、こいつらをやっつけて」
「……ゆきちゃん、ありがとう。さあ、ボコれよ!僕は手を出さないから」
「いい度胸だ。さすが武道をやっているだけの事はあるな」
そういったのは芹沢だ。
「殺れ!」
「おお!!」
20人の男達が沖田に襲い掛かった。
その頃新戦会では、ようやく芹沢たちのたまり場が分かった。
「じゃあ、自分行ってきます」
「ああ、だが、殺すなよ」
「押忍!」
沖田が空き家に入って2時間の時が流れた。
沖田ボコボコにされても一度も倒れることはなかった。
「ば、化け物か」
「ぺっ……てめ~らの攻撃なんて、館長や土方さんの攻撃に比べればたいしたことない」
「そうかよ。おい、カメラ回せ」
「……?」
「お前をボコっても面白くないのが分かった。だから、お前の目の前で、由紀子を犯してやる。そして、DVDにして高い値段で売ってやるぜ」
「約束が違うぞ!」
「俺達がそんなもの守ると思うか」
「やめろ~!」
「じゃあ、まず元彼の俺から」
「馬鹿、俺が先に決まっているだろう」
「すいません。芹沢さん」
芹沢はまず激しくキスをしてきた。
「(嫌……)」
「お前ら殺す!」
沖田が本気で怒った。
だがその時、北斗がたどり着いた。
「沖田、悪いが館長からこいつらに礼儀を教えてこいと言われてるんだ」
「北斗さん」
「アンタが3代目か」
「お前が芹沢か」
「ああ、そうッスよ」
「お前らは摩利支天の名前と伝統に傷をつけやがった。さらに、沖田を傷つけ、由紀子も傷つけた。新戦会の者として、そして摩利支天OBとして、お前らに礼儀を教えてやるよ」
「や、殺れ!」
「摩利支天の本当の意味を教えてやるよ」
そういいながら、紙一重で交わす。
「摩利支天は、武士の守護神なんだよ」
そういいながら、今度は攻撃を仕掛けた。
そしてたった数分で20人を立てないようにした。
残るのは新見たち3人と芹沢だけだ。
「沖田、芹沢と新見はお前がやれ」
「押忍!」
「くそったれ!」
と新見が襲い掛かるが、沖田の上段回し蹴りが決まった。
「ぐわ~」
そして、芹沢に向かっていった。
「おい、お前ら行けよ」
芹沢は残った新見の仲間二人にそう言った。
「む、無理ッスよ」
「チッ……役立たず共が」
そう言って、ナイフを出した。
が、すでに沖田は、芹沢の間合いに入っていた。
そして気を失わない程度に殴った。
「ぐわ~」
「お前には生き地獄を味合わせてやる」
そう言って、気絶しない程度のパンチを9発喰らわせた。
そして最後に、由紀子を傷つけた分の、怒りの篭った正拳突きを喰らわせた。
「ハアハア……」
「沖田君大丈夫?」
「僕は大丈夫だよ。それより君を守れなくてすまない」
「そんなことないです。私のためにここまでしてくれた人なんて今までいなかった。だから、悔しさよりも嬉しさでいっぱい」
「そうか」
「良かったなお前ら」
「押忍!北斗さんありがとうござました」
「でも、お前は喜んでいられないぞ。勝手にこんな事したんだ。破門にはならんが、館長を含め、黒帯全員から1人十発づつの下段蹴りの刑が待っているから」
「うっ……」
地獄の押し置きが待っているが、由紀子を無事に取り戻した沖田。
そんな沖田に由紀子は本気でときめいていた。
どうも生時です^^
僕は物語の中で格闘技をやり続けるため、今回の話も格闘モノになってしまいました。
この物語は秀二が主人公だから、次からは彼を活躍させます。