第21話 心太の過去(後編)
修羅と死神の戦いは激しい戦いであった。
「あ、あいつら本当に人か?」
爆風のメンバーの一人がそういった。
「(やっと本気で殺せる相手が見つかった)」
「(ようやく私を殺してくれる人に出会えた)」
心太は袈裟蹴りで仕掛けた。
だが、徳田のときと同じくこれはフェイントだ。
美奈子の鳩尾へ前蹴りを放った。
だが美奈子が正拳突きを放ち、心太の顔面に直撃した。
さらに右上段回し蹴りも放った。
これは交わしたが、美奈子の攻撃は続いた。
美奈子はまた、正拳突きを放った。
今度も直撃し、さらに数メートル吹っ飛んだ。
美奈子は神速で心太に向かって突っ込んだ。
「(馬鹿目。ストレートに突っ込んでくるとは……突き刺してやるぜ)」
と、向かってくる美奈子に突きを繰り出した。
だが、美奈子は神速で交わした。
「消えた!どこだ?」
美奈子は心太の頭上より高く飛んで一回転をし、心太の頭にかかと落としをし、もう片方の足で蹴り飛ばした。
これは天誅という明光天神流の技だ。
「どうやらあなたも私を殺せないみたいね」
「へっ……まさか女に負けるとは……悔いはない。俺を殺してくれ」
「どうやら、死神に取り付かれていたのはあなた自身みたいね」
そういいながら、ゆっくりと心太に近づいた。
心太は刀を投げ美奈子に渡した。
「あの女本当に殺す気だ」
と、爆風のメンバーの一人が言った。
そして美奈子は心太の頭に、刀を振り落とした。
「これで死神は死んだわ」
「痛て~……あれ?俺は生きているのか?ん?峰打ちか」
「死んだのは死神だったあなたよ。そして今あなたは人として生まれ変わったわ」
「人として……」
「あなたはもっと強くなれるわ」
そう言って美奈子は去ろうとした。
「ま、待て!お前の名前は?」
「あなたの本当の名前を教えてくれたら教えてあげるわ」
「俺の名は青村心太だ」
「いい名前ね。死神なんて名前より本名の方が素敵よ」
その言葉に心太の顔が赤くなった。
これが彼にとっての初恋であった。
「私の名前は如月美奈子よ」
「如月美奈子……美奈子、お前の名前もいい名前だ」
「ありがとう」
「美奈子……いや、美奈子さん。これからどこへ行くんだ?」
「行き先なんて決まっていないわ。私はただ、戦いを求めて旅をしているだけ……さようなら心太さん」
「あっ……」
自分も付いていくと言いたかったが、結局言えず、二人は別れた。
それから一ヶ月の時が流れた。
心太は自分の生き方を変えようとしていた。
美奈子が死神だった自分を人にしてくれたからだ。
「美奈子さんは今頃どこにいるんだろう。何故あの時、連れて行ってといえなかったんだろう」
あの戦いがあった公園のベンチに座り、悩んでいる心太の前に男が現れた。
「1ヶ月ぶりだな死神」
現れたのは爆風の15代目、徳田慶喜だった。
「徳田……君」
「気持ち悪いな~。君付けで呼ぶなよ」
「俺……いや、僕はもう一度あの人に会いたい。こんな気持ち初めてだ」
「けっ……あの死神が恋するとは」
「これが恋なんだね」
「そんなことよりも死神」
「ん?」
「お前がおとなしくしている間に、馬鹿な奴が死神の名を使っているぜ」
「別にいいよ。僕はもう死神じゃないんだから」
「そうかい……まあ、俺にも関係ないことだがな」
そう言って徳田は去っていった。
心太も公園を出て散歩をし始めた。
すると中学生くらいの少年が心太の財布を掏ろうとした。
だが、相手が悪い。
心太は少年の手首を掴んだ。
「離せ!」
「坊主……いや、君、悪い事をしたら詫びるのが常識だよ」
「うるせ~男女」
「うっ(この場合殴ってもいいのかな?)」
その時、18くらいの女性が現れた。
「衛!」
「姉ちゃん!」
女性は衛とい少年の姉で、名前は神谷巴という。
二人には両親がいない。
だから彼女は昼は工場で働き、夜も週三日コンビニで働いている。
「あのう、弟が何かしたんですか?」
「あ、いや……」
心太は衛という少年の手を離した。
「報告。男女」
「衛!」
「俺コイツの財布を掏ろうとしたんだよ」
「それ本当なの?」
「ああ。なあ、男女」
「えっ……まあ……」
「馬鹿!」
そう言って姉は衛を叩いた。
「(何だ。やっぱ殴って良かったんだ)」
「申し上げございません」
そう言って地面に土下座をした。
「姉ちゃん」
「頭を上げてもらえないかな」
姉は泣きながら頭を上げた。
「弟思いなんですね」
「衛……君。もうこんなことしないよね」
「……」
「衛。あなたが悪い事して捕まったら、天国のお母さんになんて言えばいいの?」
「うっ……」
この姉弟の父親は8年前に蒸発し、その後母親が女一人で二人を育てていたのだが、4年前に病で病死してしまったのだ。
「ごめんなさい。僕が悪かった。あいつらの事が怖くて……」
「あいつら?学校でいじめられているの?」
「……うん。僕だけじゃない他にも何人かいじめられている。お金を持ってこないと殴られるんだ」
「だからって人様の物を盗んじゃダメでしょう」
「分かっていたけど……」
「衛。他にもお金を盗んだことがあるの?」
「……この前お姉ちゃんの財布から……大事な生活費なのは分かっていたけど」
「1万円なくなっていたのはあなただったのね」
「はい」
「約束して。もう人の物を盗んだりしないって」
「約束します」
彼は泣きながらそう答えた。
「大丈夫よ。お姉ちゃんが守ってあげる」
「今日も堤防に呼び出されているだよ」
「私があなたや、他の子たちに手を出さないように注意してあげるわ」
「そんな生易しい相手とは思えんが」
と、心太が言った。
「そうかもしれません。でも、この子にも戦う勇気を持ってほしいのです」
「でもお姉ちゃん。あいつらのバックにはあの噂の死神って奴がいるんだよ」
死神の名は不良たちだけでなく、一般ピープルにも噂が行き届いていた。
「怖がっていてはダメよ。行きましょう」
二人は堤防へ向かった。
心太も二人のあとを追いかけた。
「お~い、待ってくれ」
「男女」
「お詫びは事が済んだら必ずします」
「侘びならさっき貴女がしたじゃん」
「では、他に何の用が?」
「噂に聞く伝説の死神を見たくて」
「これは遊びじゃないのですよ」
「分かっていますよ」
「好きにしてください」
「はい」
堤防には中学3年生が8人と十代半ばの少年が10人、それに脅されている生徒が4人いた。
「神谷の奴誰か連れてきたぞ」
「私は子のこの姉の神谷巴です。もう、弟や他の生徒を脅すような事はやめてもらえますか」
その言葉に、不良たちは爆笑した。
「何がおかしいのです」
「おい、姉ちゃん。俺たちをなめんなよ」
「おい、この女犯そうぜ」
馬鹿共は巴を犯そうとした。
その時衛が叫んだ。
「姉ちゃんに手を出すな!」
「衛」
「うるせ~」
馬鹿の一人が衛を殴った。
「衛!」
「お姉ちゃんは僕が守る」
「衛」
巴は衛の勇敢に姿に涙した。
「面白れ~俺たちに上等か!」
今度は違う馬鹿が衛を殴った。
だが、衛も殴り返した。
「この餓鬼!」
「おい、女犯す前にこの餓鬼を殺そうぜ」
「ああ」
「衛逃げて~!」
「(僕が逃げたらお姉ちゃんは犯される。怖くてもにげないぞ)」
彼は震えながらも戦う気だ。
その姿を見ていた4人の生徒も戦う決意をした。
「衛君。僕達も戦うよ」
「雑魚が粋がるな!」
馬鹿の一人がそう言ってナイフを出した。
「皆逃げて!」
「に、逃げないぞ」
「じゃあ~死ね~」
ナイフを持った馬鹿が衛たちに襲い掛かった。
だが、その時黙っていた心太が衛たちにこう言った。
「君達の勝ちだよ」
「男女」
「てめ~から死ぬか?オカマ野郎」
「僕は男女でもオカマでもない」
そう言ってナイフを持って襲ってくる馬鹿に正拳突きが決まった。
「上等だ!俺らのバックには死神がいるんだぜ」
そう言って携帯で連絡しようとした。
「クソ!繋がらん」
その間に心太は7人の馬鹿共を倒していた。
「凄い」
そう衛が言った。
「男女……いや、お兄ちゃん凄いよ」
だが、馬鹿共は巴を人質にした。
「姉ちゃん!」
「やれやれ……お前らのバックにいる死神がどんな奴か知らないが、俺の知っている死神は男女と呼ばれたり、オカマ野郎と呼ばれたりしている奴だ」
「ああ?」
「その女にこれ以上手を出したら、俺は死神に戻って、お前らを地獄へ送ってやる」
「なんだと」
その時、一人の男が慌ててやってきた。
「俺たちの勝ちだ。この人が俺たちのバックにいる死神だ」
だが、男は来るなり心太の前で土下座をした。
「宮下さん!」
男の名前は宮下勉という。
「お前らも土下座しろ」
「どうしてですか?」
「あの人が本物の死神だ」
そこにいた全員が驚いた。
「お久しぶりです。青村さん」
「宮下か」
実は宮下は昔心太に喧嘩を売って、病院送りにされたことがあるのだ。
「お兄ちゃんが、あの噂の死神だったの?」
「自分、てっきり青村さんがこの町を出て行ったと思いそれで死神の名を使いました」
「俺はもう死神の名を捨てたから、お前らが名乗ろうが別にかまわん」
「もう名乗りません」
「俺がお前らの事をどうこう言える身分じゃないが、だが、弱き者や正しき者を脅すなら、天誅を加えてやる」
「も、もう馬鹿なことはしません」
「なら消えろ!」
「は、はい」
馬鹿共は一斉に逃げていった。
「ありがとうございます」
と、巴が心太にお礼を言った。
「お礼なんていいですよ。僕もある人に会わなければ、あいつらと同じクズのままでしたから」
「いろいろとごめんなさい」
衛が心太に謝った。
「これからもお姉ちゃんと仲良く暮らしなよ」
「はい」
「じゃあ」
「どこへ行くんですか?」
と、巴が聞いた。
「さっき言ったある人に会いに行ってきます」
「お兄ちゃん、僕、今度会うまでに強くなれるよう頑張るから」
「君ならなれるさ。だが、僕みたいになるなよ」
そう言って心太は美奈子を探す旅に出たのであった。
「この2年間、美奈子さんに会うまでに、弱き者や正しき者のために戦ってきました。美奈子さんに会えたから自分が変われたんです」
「私もこれからはあなたを見習って、人のために戦うわ」
「(こんな強くて凄い人じゃ僕に勝ち目はない)」
秀二は弱きになった。
恋もまた戦い。
美奈子が心太じゃなく秀二を選ぶかは、これからのかれ次第である。