第17話 真の強さ
鋭い目で美奈子を睨む田中。
「美奈子とやら、覚悟はいいな」
そう言って、美奈子の鳩尾に前蹴りを放った。
美奈子はその攻撃を避けようとも受けようともしなかった。
「ぐっ……」
「美奈子さん!」
「何故避けん。何故攻撃してこん」
「私はあなたの大切な人を傷つけた。だから私は手を出さないわ」
「何!?」
再び攻撃しようとした田中を秀二が止めようとした。
「以蔵、お前は間違っている。お前のところの館長の事は知らないが、でもお前が尊敬したほどの人なら、真の武道家だ。美奈子さんもその人が本物の兵だから、本気で戦ったんだよ」
「秀二君……」
田中は、今度は秀二を睨んだ。
「うるさい!」
その時だった。
一人の男が現れた。
「田中師範。ワシはあの戦いを見ちょったが、武市館長の負けた時の顔は微笑んでいたぜよ」
男は高知県出身で、名は中岡龍馬(33歳)といい、陽道会の幹部の一人だ。
「龍馬さん……」
「武道家として、悔いのない戦いができちゃから、館長は微笑んだんじゃ」
「クソ……」
「おまんが、武市館長を尊敬しているのはよう分かる。じゃが、仇を討っても館長は喜ばん。むしろ、師範を軽蔑するじゃろう」
だが、その時だった。
美奈子がどこかへ走り去ったのだ。
「はっ、ははっ……秀二、お前の女逃げたぞ」
だが、秀二はこう言った。
「あの人は逃げないよ」
「ワシもそう思うき」
「なんだと。じゃあ、何故あの女は何もいわず修羅場から去ったんだ?」
「あの人の後を追えば分かるさ」
美奈子が向かった先で、実は女が絡まれていたのだ。
そして絡まれている女は由紀子だ。
新見と芹沢の二人から絡まれていたのだ。
「どいてよ。もうあんた達とは関わりたくないわ」
「つれないな~」
「沖田君に言うわよ」
「言えよ。沖田が来る前に俺たちでお前を犯してやるからさあ」
二人が彼女を犯そうとしたとき、美奈子が現れた。
「美奈子さん」
「由紀子ちゃん。大丈夫」
「はい」
「んだ?この女は?」
芹沢がそういった瞬間、美奈子のとび蹴りで、芹沢は吹っ飛んだ。
そして、秀二、田中、龍馬の3人がたどり着いた。
「どうだ以蔵、あの人は逃げてないだろう」
「(この女……あそこからここまで、かなりの距離があるのに、助けを呼ぶ声が聞こえたのか?)」
「お前らの事は摩利支天の3代目で、新戦会の幹部、神威北斗さんから聞いてるぜ」
秀二のその言葉に芹沢たちは震え始めた。
「今日の事は黙っといてやるよ。だから、消えろよ」
二人が去ろうとした時、美奈子がこう言った。
「次は病院送りにするから」
その言葉に田中もこう言った。
「ワシらにも気をつけろよ」
「は、はい」
そして二人は去っていった。
「秀二、美奈子……さん、それに龍馬さん、ワシが間違っていた。すまん」
その言葉に美奈子は優しく微笑んだ。
その頃芹沢と新見は、美奈子たちの姿が見えなくなるところまで逃げていた。
その時、芹沢の肩に女の容姿をした小柄な男性とぶつかった。
「いて~」
男はすぐに謝罪した。
薄く茶色に染め、長い髪を後ろで結んだ男。
どこか遠くから来たのだろうか?
男は杖を持っていた。
「こりゃ~、肩おしゃかだ。おい、慰謝料出せよ」
「慰謝料って……ぶつかったのはお互い様じゃないですか?」
「うるせ~、殴られたいのか?」
芹沢は男を脅した。
「分かりました」
男はそう言ってポケットからお金を出した。
「へっ、由紀子に手を出して今日は厄日だと思っていたが……ラッキーデェーだな」
男は芹沢にお金を渡した。
「では僕はこの辺で」
「おい、なめているのか?」
「えっ?ちゃんと慰謝料払ったでしょう」
だが、男が渡した金額は500円であった。
芹沢は500円を地面に叩き落した。
「十万だ」
「いや、そんな大金いきなり言われても」
その時、通行人の一人が止めに入った。
「おい、俺の前でタカリかよ。えらくなったな。摩利支天の14代目」
芹沢たちが、また震え始めた。
それもそのはず。
止めに入ったのは摩利支天の三代目であり、新戦会の幹部の一人神威北斗だったのだ。
「お前らと喧嘩している暇はない。早く消えろ」
「は、はい」
二人は走り去った。
「ありがとうございました。僕の名は青村心太と申します。是非お礼を」
「あっ?そんなのいいよ。急いでいるしなあ」
そう言って北斗は去っていった。
新たに現れた青村心太という男。
実は彼は誰かを探して旅をしているのだ。