第16話 秀二の友
秀二は痛みと不安を抱えながらも、今を生きていた。
その頃、陽道会という空手道場で問題が起きていた。
「ワシが山篭りしている間に道場破りだと」
「押忍!」
この道場の館長武市武一という武道家が、何者かに病院送りにされたのだ。
「どんな奴だった?」
「押忍!自分、携帯で写真に撮っていますので」
「フン……面白い。陽道会に喧嘩売ったこと後悔させてやる」
それから二日後……
秀二は痛みが和らいでいる時に漫画喫茶に来て、小説のネタ探しをしていた。
そして彼が、店から出ると、一人の男が秀二に声をかけてきた。
「秀二」
「以蔵か!?」
男の名は田中以蔵といい、秀二と同じ専門高校に通っていた男だ。
「懐かしいな~」
「以蔵はまだ空手をやっているのか?」
「まあな」
「そうか……高校時代は俺のほうが強かったのに、今じゃお前は師範だもんな~」
「へへっ……あの頃はよくお前にイジメられていたな~」
「……あの時はすまんかった」
「いや、あの時の悔しさがあったから、ワシはここまで強くなれたんじゃ」
1994年……
この年に二人は同じ高校に通っていた。
秀二は中学時代いじめられていたが、高校に入学し、教師の暴力や生徒同士の喧嘩など、毎日、修羅場の中で生きていたら、平気で人を傷つける事ができる人間になり、弱いものをいじめていた。
「秀二君、止めてください」
秀二は容赦なく弱い生徒をいじめていた。
その時、田中が止めに入った。
「や、やめろよ。秀二」
「あ?以蔵、お前俺にタメ口か?」
そう言って、田中を殴った。
バキッ!
「ぐは~……」
「雑魚が。でしゃばるなよな」
「クッ……い、いつか、お前より強くなってやる」
「面白い。いつでも上等だ」
それから田中は陽道会空手に入門した。
さらにその間に毎日喧嘩に明け暮れた。
そして二人が3年になった頃……
弱いものイジメをしていた秀二の顔面に田中の正拳突きが決まった。
秀二の鼻から血が流れた。
「ち、ちくしょう」
秀二が殴りかかったが、今度は右回し蹴りが決まった。
「どうやら、今のワシとお前とじゃ潜った修羅場の数が違うようじゃな」
「クソッ!」
バキッ!
教室の床を殴る秀二。
「今度は俺が以蔵(てめ~)を超えてやる」
「いつでも来いや」
だが、これをきっかけに、二人はよきライバルとなっていった。
「しかし本当に懐かしいのう」
「ああ……」
「お前も病気しなければ、いい武道家になれたかもしれんのにな」
「いや、病気をしてなくても俺は最強にはなれん。新戦会に入門して、多くの真の武道家を……鬼や修羅を見てきたからな~」
二人が会話をしていると、美奈子がやってきた。
「秀二君」
「美奈子さん」
「(ん?この女!)」
田中はどうやら美奈子のことを知っているようだ。
「美奈子さん、コイツは同じ高校に通っていた田中以蔵です」
「はじめまして、田中さん」
「以蔵、この人は」
「知っているぜ」
田中の表情が険しくなった。
「アンタだろう。陽道会の館長、武市先生を病院送りにしたのは」
「えっ?」
秀二が美奈子の顔を見つめた。
「田中さん、あなた陽道会の人間だったの」
「美奈子とか言ったな。師匠の仇を討たせてもらうぜ」
田中は美奈子に戦いを挑む気だ。
明光天神流を破門された美奈子はどう出るのか。