第15話 秀二の本音
秀二たちはスタジオにいた。
結局、北斗が忙しいため、彼がヘルプで参加が決まったのだ。
彼は今「LUNA SEA」の「ROSIER」を練習中だった。
この曲は1994年にリリースされたルナシーの3rdシングルで、彼らが一般的に知られるようになった曲だ。
また原曲者はベースのJで、この曲がリリースされる前、スランプ状態となっていた。
だが、そんなくだらない自分にさよならをするため、この曲のギターソロの前の英文はJの遺書でもある。
By the time I knew. I was born
Reason or quest. not being told
What do I do. What should I take
Words “God Only Knows” won`t work for me
Nothing starts Nothing ends in this city
Exists only sever lonesome and cruel reality
But still I search for light
I am the trigger. I choose my final way
Whether I bloom or fall is up to me
(LUNA SEA の「ROSIER」(MCAビクター)より一部抜粋)
生まれた事を知る時
理由か探求か知らなかった
僕が何なのか、何をすべきか
「神のみぞ知る」という言葉は
僕には意味がない
この街は始まりも終わりもない
孤独と残酷な現実
それでも僕は光を探す
僕は引き金
咲くか散るかは僕が決める
訳 生時
だが、突然秀二が歌わなくなった。
強い腹痛が襲ってきたからだ。
椅子に座らせ、痛み止めを飲ませたが、痛みは強くなる一方。
さらに本人は病院へ行きたがらない。
仕方なく、弟の秀三が家に連れて行くことになった。
と言っても両親が離婚しているため、二人はバラバラに暮らしている。
「私も行きます」
美奈子も急いで秀三の車に乗った。
スタジオから家まで車で20分くらいだ。
秀二を後部座席に乗せ、美奈子は助手席に乗った。
家に着くまでに、美奈子は秀三にいろいろと聞いた。
「病院に行きたくないのは、やっぱ入院が嫌なんでしょう。昔はそんなこともなかったのですが、入退院を繰り返すうちに入院が嫌になったみたいです。しかも4回目の手術をしなければいけないかもしれない。」
「お兄さんはご結婚されて、家を出て世帯を持ているんですよね」
「ええ、まあ……うちももう少ししたら、母と一緒に、秀二兄ちゃんや父親と一緒に暮らそうかと言う話が出ているんです。まあ、二人とももう年だし、ちょうどいいと僕は思う。でも、再婚はしないみたいだけど」
そして河村家の自宅に到着した。
「僕はバンドに戻ります。何かあったら、知らせてください」
「えっ!?はい……」
「うっ……」
「大丈夫?」
「ええ」
そのまま秀二を支え、彼の部屋に入っていった。
部屋には格闘漫画や映画のDVD、音楽CD、パソコンなどが置いてあった。
他にも格闘技や音楽、病気などの難しい本もあった。
さらに金髪時代の写真などが飾られていた。
その近くには模擬刀が飾られていた。
実は他にも手裏剣やヌンチャクなどを隠しもっている。
美奈子は始めて秀二の自宅訪問に緊張していた。
しかも今は誰もいないようだ。
布団に寝かせたが、病院に行かなくていいのだろうか?そう美奈子は思った。
自分を説得した時も、救急車を呼ばせなかった。
「美奈子さん、ありがとう。少し楽になったよ」
「良かったわ」
「俺のほうが兄貴なのに、秀三の方が頼りになる。僕は3兄弟で一番ダメ人間なんです」
「そんことないわ」
「僕は不安なんです。自分の将来とこの体がどうなるのか……いろんなクローン患者を見てきましたから……上を見たらきりがないし、下を見てもきりがない。あるネット動画では大麻が必要だといってデモを起こした映像があるんですが、同じクローン患者として恥ずかしいというコメもあれば、同意するという意見もある。僕も同意です。薬の怖さは知っています。薬剤師である永倉さんなら反対するでしょう。だけど、僕は痛みや不安のない日を過したい」
「秀二君……」
「ブログなら本音を書いているから、分かると思いますが、僕は怖くて怖くて……でも、生きていたい」
秀二は美奈子に本音を話した。
ふと、美奈子が一枚のCDに気づいた。
秀二が自主制作したCD-R「祈り」だ。
「聴いてもいい?」
「どうぞ」
祈り
Rest In Peace
荒んだ時代を生きていくために
僕は強く
生きていきたい明日に向かって
僕は生きる
君の分まで
僕は生きる
華のように散っていった
君のために僕は祈る
苦しみの中で生きて散ってゆく
温もりさえも
荒んだ世界で愛し続けたい
記憶と共に
僕は生きる
悲しい現実
君の優しさ忘れたくないから
君の代わりに平和を祈る
華のように散っていった
君のために僕は祈る
「自分が作った曲で励まされるとは……」
「ん?」
「いや……なんでもない」
今の秀二は痛くなったら、栄養剤などで絶食し、ごまかしながら生きているのだ。