第14話 油野公園事件
美奈子と秀二は病院を出て、秀二はある場所へ美奈子を案内した。
「ここが事件があった場所です」
案内したところは油野公園という小さな公園だった。
秀二はベンチに座り12年前の出来事を語り始めた。
12年前……
秀二がクローン病になって、そして、新戦会に入門してから約1年が経っていた。
この時の門下生は、師範の山南敬二2段、当時29歳
指導員の土方歳夫2段、当時27歳
同じく指導員の永倉新一初段、当時28歳
同じく指導員の原田光介初段、当時24歳
本来ならまだ、少年の部なのだが、大人の部ですでに稽古をしている沖田一初段、当時15歳
まだ茶帯の神威北斗1級、当時24歳
入門して1年くらいで色帯の河村秀二7級、当時19歳
まだ少年の部で色帯の河村秀三5級、当時10歳
他にも茶帯の藤堂平治2級、当時28歳
伊藤幸太郎2段、当時29歳がいた。
この伊藤が館長の2番弟子である。
さらに山南とは同じ高校を卒業している。
だが、伊藤は高校時代から山南を嫌っていた。
二人とも勉強もでき、スポーツ抜群、文武両道なのだが、常に山南がトップで伊藤は全てにおいて山南の次であった。
入門の時期も山南が1番で、伊藤は2番であった。
また、藤堂は伊藤の大学時代の後輩であり、伊藤を慕っていた。
また、山南には明美という彼女がいた。
4年前に田舎から出てきて「島原」という居酒屋を経営していた。
そしてお客として来ていた山南と恋仲となったのだ。
彼女の店は木曜日休みであり、木曜の練習の日には必ず道場へ来ていた。
そんな彼女に伊藤は目をつけ始めた。
ある日の夕方、伊藤は「五龍」という馴染みの喫茶店に藤堂と、同じく大学の後輩で剣道初段の腕を持つ河上半次郎という男と一緒にいた。
また、店のマスター、名前は篠原泰司も伊藤の後輩だ。
4人は客がいなくなった頃に、山南の女を犯し、山南を亡き者にしようと計画していた。
その時、店に沖田が入ってきた。
「やっぱり伊藤さんと藤堂さんだ」
そういいながら、彼らの席に座った。
「いらっしゃいませ」
と、すぐに立ち上がり、水を出す篠原。
「オレンジジュースを」
「かしこまりました」
「窓から二人が見えたから……そちらの方は?」
「大学の後輩の河上半次郎君だ」
「沖田一です」
「彼は、俺や藤堂と同じ空手道場に通っているんだ」
「お待たせしました」
と、篠原が飲み物を持ってきた。
「この店のマスターも俺の大学の後輩だ」
「そうなんですか」
「篠原、沖田君の勘定は俺が払うから」
「はい」
「いいのですか?」
「当たり前だろう。君も可愛い後輩なんだから」
「ありがとうございます」
と、笑顔でお礼を言った。
さらにこんなことを言い始めた。
「で、いつ山南さんをやるんですか?」
その言葉に伊藤と藤堂は驚いた。
「沖田君、何を言っているんだね」
「山南さんをやって、明美さんを伊藤さんのモノにする話をしていたんでしょ?」
「ふふ……沖田君、確かに俺は山南と仲が良くない。だからといって、彼をどうかしたい訳ではない。それに、君は彼を尊敬し、兄のように慕っているじゃないか」
「昔は尊敬していましたよ。でも最近は僕をパシリ扱いするんです。兄弟子の言う事だから逆らえない。だから、僕も今のあの人が嫌いなんです。だから、あの人をやるなら僕も」
「君の気持ちはよく分かった。だが、山南をどうこうする気はないから。これからはなるべく彼と仲良くするように心掛けるよ。あと、今日の事は聞かなかったことにしておくから」
「そうですか」
沖田は立ち上がり、財布を出した。
「沖田君、俺の奢りだといっただろう」
「あっ、そうでしたね。ではご馳走様です」
沖田はその後、館長の自宅へ訪問した。
「絶対、近いうちに伊藤さんたちは山南さんや明美さんに手を出すと思います」
「そうか……困った奴らだ」
そしてその日の深夜23時55分
明美の店は0時まで閉店であるため、片付け始めた。
その時、店に覆面をした4人組みが入ってきて、明美を犯し始めた。
明美は必死で抵抗するが、相手は四人だ。
だが、その時、木刀を持った沖田が店に現れた。
「沖田君」
「明美さん、山南さんに連絡を」
「は、はい」
「伊藤さんたちでしょう?」
4人の一人が店の包丁で沖田に斬りかかった。
だが、彼は交わした。
だが、その隙を見て、4人は逃亡した。
沖田は追いかけた。
4人は、油野公園まで逃げてきた。
「いい加減あきらめたらどうですか?」
沖田はそういいながら、木刀を晴眼の構えから、やや右に刀を開き、刃を内側に向けた。平晴眼と呼ばれる構えだ。
沖田は独学で剣術を学んでいたのだ。
だが、木陰から改造したモデルガンで沖田の頭を撃とうとしている男がいた。
男はモデルガンを撃った。
「(殺気!)」
沖田は木陰から殺気を感じた。
沖田は交わすが、完全に交わしきれず、弾は沖田の頬を掠めた。
その隙に包丁を持った男が、沖田に襲いかかろうとした。
だが、その時
「待て!」
と、誰かが大声で叫んだ。
覆面をした4人のうち2人が震え始めた。
二人が震え始めたのは、「待て!」と言ってきた人物が、新戦会の館長、後藤勇だったからだ。
「館長!」
「沖田、大丈夫か?」
「押忍!大丈夫です」
さらに来たのは館長だけではない。
土方、永倉、原田、北斗、さらに秀二まで来たのだ。
「トシ、永倉、木陰で隠れている者を捕まえて来い」
「押忍!」
「伊藤、藤堂、覆面を取れ」
4人は覆面を取った。
やはり正体は伊藤、藤堂、篠原、河上であった。
包丁を持って、沖田に襲ってきたのは河上だ。
「館長!捕まえました」
土方と永倉が木陰で隠れていた男を捕まえた。
男の名は阿部六郎といい、彼も伊藤の大学の後輩であった。
その頃、山南は明美の店にいた。
館長から「彼女の側にいてやれ」と言われたため、山南は全てを館長と他の兄弟弟子達に任せたのだ。
だが、伊藤たちは逃げようと企んでいた。
河上と藤堂が館長を襲った。
「馬鹿な奴らだ」
館長がそう言った。
まず、包丁を持っている河上を上段蹴りでふっ飛ばし、後ろを取ろうとした藤堂に裏拳が決まった。
その隙に伊藤と篠原が逃げようとした。
だが、伊藤を沖田と原田が捕まえ、篠原は北斗と秀二が捕まえた。
「俺達新戦会を舐めるなよ!」
と、当時チンピラであった秀二が、篠原に威嚇した。
「伊藤、藤堂、お前達を破門とする」
そう後藤が、二人に言い渡した。
その後、4人を警察に引き渡した。
だが、この事件はこれで終わりでない。
次の日、山南がお菓子を持って、館長の家へやってきた。
「本気か?」
「押忍!もう決めたことです。後悔はないです」
山南は今回の事件で、明美の心に消えぬ傷をつけてしまった。
そのため、二人は田舎で暮らし、そこで新たな人生をスタートさせたいみたいだ。
そのためには、会を脱退する必要があった。
「……分かった。お前の脱退を認めよう」
「ありがとうございます」
「だが、会を脱退しても、お前は俺の弟子だ。何かあったら連絡しろ」
「押忍!」
山南の、目から泪が流れた。
その日の夕方……
道場で山南師範の最後の組み手が行なわれた。
相手をしたのは、沖田であった。
そして12年の時が流れたのだ。
「そんなことがあったんだ」
「ええ……さて帰りましょうか」
「うん」
二人は公園を出た。
山南はその後、妻子が待つ我が家へ帰っていった。