第1話 クローン病
あらすじでも書きましたが、この作品は「病気と闘う人たち」の続編です。
2010年春……
秀二が自伝「生きる時」を書いてから、1年近くの時が流れていた。
彼は自伝の最後のメッセージに、自分自身のためにも、「忘れるな生きたくても生きれない人がいることを」と書いた。
だが、クローン病の痛みや不安、恐怖などに、また負けていた。
クローン病……消化器の病気で、口から肛門、主に小腸や大腸に潰瘍ができたりし、狭窄つまり、腸が細くなったり、ろう孔と言って腸に穴が開いたりする。
主な治療は点滴による絶食や薬物治療、そして外科的治療である。食事は非常に難しく、食べるよりエレンタールやラコールという栄養剤か点滴で生活した方が再発しにくい(だが、個人差はあり、栄養剤だけで生活していてもすぐ再発する人もいるし、暴飲暴食をしても何年か平気の人もいる)薬物治療として、プレドニン(ステロイド)やレミケードという免疫抑制剤が使用される(薬ということで、個人差はある)
また、非麻薬系の強い痛み止め(ソセゴンやレペタンなど)を使用する事が多く、薬物中毒になる患者もいる。
さらにネット動画で、大麻を必要というデモまで起きている。
原因は不明であり、欧米の方に患者が多い。(だが日本でも近年クローン病患者は増えている)クローン病の名前はブリル・バーナード・クローンという内科医が発見した事から、クローン病と名づけられた。そのため日本ではクローン氏病ともいう。
ちなみにアメリカ合衆国34代目大統領アイゼンハワー氏もクローン病だった。
また、映画「ポルターガイスト」でキャロル・アン役を演じたへザー・オルークもクローン病患者である(彼女は12歳で謎の死を遂げている。さらにこの映画のキャスト4名(彼女を含む)と、監督一人が亡くなっている)
若い時期に発病しやすい(人によっては50代になってから診断された患者もいる)
今でもまだマイナーな病気であるが、10年以上前はさらにマイナーな病気で、病院でもクローン病と診断されず、誤診を受けた患者も珍しくない。
そのための腹痛、嘔吐、高熱、体重減少などの症状が現れたら、地元でもそれなりに大きな病院で検査をしたほうがいいかもしれない。
(生時が作成したニコニコ大百科より抜粋)
「どうして俺ばかりこんな目に……」
病気と戦っているのは彼だけではない。
そのことは彼自身が一番良く知っている。
だが、今の彼はその事を忘れていた。
「秀二、そろそろ仕事の時間だろう」
父親が、秀二を呼びに部屋に入ってきた。
彼は2年前から映画館で仕事をしている。
はじめは痛みはあるものの、調子もまあまあだったので、「映画の世界の案内人」などと言って、喜んで毎日仕事をしていた。
だが、痛みが強くなったりする時などは、休んだり、早退したりしていた。
そのため、人件費削減もあり、ここ半年はろくにシフトが入っていない。
「どうせ俺なんか、いてもいなくても同じだ」
「なら辞めちまえ」
「分かった。分かった。行くよ」
頭をかきながら彼は職場へ向かうことにした。
家を出る間に、何度も溜息をはいた。
このままでは数年前と同じ人間になってしまう。
生きるために、生きる目標を再び見つけなければならない。