堕落<400文字>
見えない背中
「あなたはどうしてそんなに必死なの?」
後ろから囁かれるその言葉が不確かな心という入れ物に入っていく
「うるさい」
消えることの無い頭痛がするほど嫌いな声
「ごめんなさい。けれど、辛そうなあなたを見ているのは本当に――」
「黙れよ!」
延々と囁かれる言葉に、いつしか甘えるようになってしまう
上っ面で拒んでも、自分の心というのものは正直だった
「わたしは、あなたを裏切らない。あなたを悲しませない。絶対に」
「なんで、そこまで俺に拘るんだ」
「わかるの。わたしはあなたの全てをわかってあげられるの」
吐息が耳元を撫でる気が確かにした
気付けば厭らしい鳥肌が襲ってくる
ピントのずれた視野が世界を変えてしまう
「わかるものかよ」
「わかるわ。大丈夫。大丈夫よ。信じて」
白い指先が肩に触れたように見えては空気になって溶けていく
「俺は――」
気持ちがいい
心地よい
「わたしを信じて」
肩の荷がほぅっと――降りた
「これで、いいんだ」