婚約を断りに来た検分役が、私の独立登録を三枚も書いています
「節を隠せない半人前。したがって、用途は装飾用」
読み上げられた途端、私の腕の中で四十本のひごが、ぱらりと一本落ちた。
初夏の市はよく響く。値切り声も、銅貨の音も、職人の一生を二文字で飾り物にする声も。
装飾用。
なるほど。穀袋を運べる籠も、台帳にそう書けば花でも挿しておくしかない。花は軽くて結構だ。
「節が三つ見えるそうです。竹なので、あります。隠す方が腕を問われます」
「節を削って面を整えるのが上等というものだ」
古参親方が言うと、隣の親方も頷いた。評価をした二人が互いの正しさを確認している。仲がよろしいことで。
「では、その上等な籠に穀袋を入れてお帰りください」
「口だけは一人前だな」
私に向けるときだけ、声が市の端まで届きそうになる。
その声が急に痩せた。
「完成品だけでは判定しない」
黒い検分鞄を持った男が、古参親方たちの間を抜けてきた。市場書記のエルジェーベトが半歩後ろにいる。
姉から届いた封蝋のない依頼状には、今日、婚約者候補の検分役が来る、とだけあった。封蝋なし。挨拶なし。用件だけ。姉らしい。
つまりこの方は、私の籠と婚約をまとめて断りに来たのだろう。手間を一度に済ませる合理性。職人として見習いたい。婚約者としては遠慮したい。
「検分役殿、完成品の次は何をご覧に?」
「竹割り、底組み、縁留め。三工程を別々に確認する。本人が制作したか、実用品として荷重に耐えるか。それから判定する」
エルジェーベトが三枚の白い検分票を卓上へ並べた。竹割り。底組み。縁留め。一枚につき一工程。
「同一条件、同一制作者、助力なし。立会人は私。異議は?」
「ある。節を残す時点で——」
「誰が言ったかは尋ねていません」
エルジェーベトは一枚目の署名欄を指で叩いた。
「誰が署名しますか」
古参親方の口が閉じる。威勢のよい声というものは、署名欄を見ると節より先に削れるらしい。
「受けます」
私は答え、四十本のひごを抱えたまま椅子へ座ろうとした。
座面にひごが当たった。持ち上げる。今度は工房の鍵が腰から引っかかる。直す。一本落ちる。拾おうとして三本落ちる。
検分役殿の手が一度こちらへ伸び、途中で止まった。
助力なし。
よく覚えていらっしゃる。私も覚えている。椅子の方はどうやら私に恨みがある。
「四十本も抱えて、熟練者は椅子と戦うのね」
姉が人垣の後ろから言った。
「姉さん」
「勝敗が決まったら呼んで」
「もう決まりました。私の負けです」
男の口元がわずかに動いたが、咳払いで消えた。
「オイシンだ」
「はい?」
「名だ。検分中、いつまでも検分役殿では記録に困る」
「では、オイシン様。椅子との再戦は検分項目に含まれますか」
「含まれない」
「助かりました」
私はようやく座った。腰の鍵が、戸を開けるでもなく固い音を立てた。
* * *
一度目は竹割りだった。
冬切りの竹を作業台へ置き、竹割り刀の刃を節の手前へ当てる。押すのではない。裂け目の走り方を見て、刃先をほんの少し逃がす。
ぱき、ぱき、と竹が割れた。
「幅は?」
「三分です」
「全てか」
「節の左右で刃をずらします。削って幅を揃えれば、そこだけ繊維が薄くなるので」
「見栄えは揃わない」
古参親方が差し込んできた。
「荷重も見栄えに遠慮してくれるなら削ります」
エルジェーベトが幅三分の定規を渡した。オイシン様は割ったひごを一本ずつ当て、節の前、節の中央、節の後ろを測る。
一節、二節。残っている。もちろん残した。竹ですから!
十九本目で、竹割り刀が右の人差し指をかすめた。古い裂け目が開き、ひごに小さな赤い点がつく。
オイシン様の視線がそこへ戻った。
「何か」
「素材を確認しているだけだ」
「素材は竹です。私の指は籠に編み込みません」
「分かっている」
そう言いながら、筆を持つ右の親指が止まっている。
割り幅に誤りがあったのだろうか。私は定規を奪わない程度の勢いで覗き込んだ。
「二十二本目の節前ですか」
「違う」
「十九本目の血ですか」
「違う」
「では書いてください。親指が止まるたび、私の寿命が一目ずつ縮みます」
親指が動いた。
一枚目の制作者欄に、ラドゥカ本人、と記される。幅三分。冬切りの竹。節を削らず、繊維の断裂なし。
用途欄だけが白い。
二度目は底組みだった。
三十六目の中心を決め、縦ひごと横ひごを交互に通す。四隅へ力が偏らないよう、節を同じ線上に置かない。一目ずれれば、最後の縁で二目分の嘘になる。籠は職人より正直だ。
「手順を誰に教わった」
「家の工房で基本を。節の配置は自分で変えました」
「記録は?」
「旧台帳にはありません。私の籠は装飾用ですから。飾りに荷重計算は不要だそうです」
古参親方たちが目を合わせた。一人が鼻を鳴らし、もう一人が黙る。鼻と沈黙で一組。こちらも帳面に欄が欲しい。
オイシン様が検分票の工房名欄へ筆を置いた。
「誰の工房でも同じ基準で見る」
右の親指が止まった。
停止が二目。
「同じ基準でしたら、そこは家の工房名ではなく、私の名を書くべきでは?」
竹を締めると、きい、と高い音がした。オイシン様の呼吸が一拍欠ける。
私は次のひごを通した。
また鳴る。また一拍。
「オイシン様」
「何だ」
「籠より先に息を整えてください。検分が遅いです」
「誰のせいだと思っている」
「竹のせいです。まさか制作者のせいにして、公平な検分を曲げたりなさいませんよね」
筆が動いた。
二枚目の制作者欄にも、ラドゥカ本人。工房名欄には、家名ではなく私の名。助力なし。三十六目。節の重複なし。
用途欄は、まだ白かった。
エルジェーベトは何も言わず、その空欄だけを私へ見せた。
* * *
「では、三度目です」
エルジェーベトの声で、市場のざわめきが一段低くなった。
三枚目の検分票。
卓上には底組みを終えた大籠、縁に使う二本の太いひご、幅三分の定規、そして穀袋が六つ。古参親方たちの旧式籠も並べられている。節を削り、表面をなめらかに揃えた上等品だ。
買い手たちは最初、私の籠を見て値切った。
「装飾用なら半値だろう」
「大きすぎて花を飾りにくい」
「節が見えるぞ」
三件。まだ作ってもいないのに失言が三目。豊作である。
「値切りは判定後に」
エルジェーベトが告げる。
私は大籠を膝へ引き寄せ、外周のひごを起こした。一本ずつ内側へ折り、縁芯を挟む。左手で押さえ、右手で太いひごを巻き込む。
縁留めは力でねじ伏せる工程ではない。三十六目から上がってきた力の道を、どこへ返すか決める工程だ。
一目。
締める。
二目。
節を縁の直下へ残す。
「そこだ」
古参親方が声を上げた。
「縁に近い節は目立つ。削るべきだ」
「削れば、縁へ上がった荷重を受ける繊維も減ります」
「見た目を整えるのも職人の務めだ」
「壊れた籠を美しく眺める買い手がおいでなら、あとでご紹介ください」
買い手の何人かが旧式籠から目をそらした。古参親方は私にだけ身を乗り出す。
「半人前が口答えを——」
オイシン様が一歩前へ出た。
親方の背が椅子に戻る。私への声は大籠、検分役への声は手籠。便利な伸縮式だ。
「続けろ」
「はい」
十八目を越えるころ、縁ひごが右の指へ食い込んだ。開いた裂け目に竹の粉がつく。
オイシン様の両手が卓上で開いた。
閉じる。
また開く。
「助力なしです」
「分かっている」
「私ではなく、ご自分の手へ言い聞かせていませんか」
「縁を見ている」
「私の指は縁ではありません」
「口を動かす余裕はあるようだな」
「口で縁留めできるなら、指を休ませられるのですが」
二十四目。
縁ひごが鳴るたび、卓上の指がわずかに動く。伸びない。動くだけ。
助けられたら、私一人の制作ではなくなる。
その手は最後まで卓を越えなかった。
三十二目。三十三目。
節の膨らみへひごを沿わせ、角度を変える。爪の脇に竹が食い込む。抜かない。ここで手を離せば、締めた四目が戻る。
三十四目。
「危険だ。一度止めろ」
「止めれば緩みます」
「指が裂けている」
「籠には編み込みません」
「一度目と同じ言い訳を使うな」
「一度目と同じところをご覧になるからです」
右の親指が止まりかけて、拳の中へ隠れた。
三十五目。
最後の縁ひごを重ねる。端を三十六目の下へ差し込み、竹割り刀の背で押す。
三十六目。
かちり、と縁が収まった。
エルジェーベトが検分票へ時刻を書き、私へ手を差し出した。
「完成を確認します。手を離してください」
両手を開く。
大籠は歪まなかった。
オイシン様の手も、ようやく卓から離れた。こちらへ伸び、しかし検分票の手前で止まる。代わりに布を置いた。
「使え」
「助力に入りますか」
「制作は終わった」
「では遠慮なく」
私は布を指へ巻いた。オイシン様は籠にしか興味がない方らしい。布は勝手に歩いてきたのだろう。市場には珍しい品もある。
「荷重検分へ移ります」
エルジェーベトの合図で、買い手の一人が穀袋を持ち上げた。
一つ目。
籠の底が沈み、三十六目へ均等に張りが走る。節の両側がわずかにしなった。
二つ目。
縁が下がる。戻る。
三つ目。
「もう十分だろう」
古参親方が言った。
「実用品なら、まだ半分です」
「装飾用の籠に無理をさせて壊せば——」
「判定前です」
エルジェーベトが三枚目の用途欄を指で押さえた。
「今、装飾用と言った方は、旧評価の署名者で間違いありませんね」
親方の顎が引けた。
「慣例に従ったまでだ」
エルジェーベトは返事をせず、立会欄へ親方の名を記した。黙認にも欄はある。よい帳面だ。
四つ目。
底組みの角が踏ん張り、節が荷重を隣のひごへ逃がした。
五つ目。
縁ひごが低く鳴る。
オイシン様の指が卓の端を掴んだ。
「そこまでだ」
「六つあります」
「検分基準は五つで足りる」
「買い手が運びたいのは六つかもしれません」
人垣から声が飛んだ。
「六つ運べるなら買うぞ」
「ほら」
「買い手を検分基準にするな」
「買い手の使わない籠を、何のために作るのです」
六つ目が載った。
大籠の縁が沈む。
竹の一本一本が細く軋み、節の周囲へ力が寄る。その膨らみに止められ、隣へ渡り、底を巡って反対側へ抜けていく。
止まった。
籠は立っている。
穀袋が六つ、中に収まっていた。
「節は欠陥だ」
古参親方が言った。今度は誰も頷かなかった。
「割り幅を読んでください」
「何?」
「一枚目の検分票です。節の前、中央、後ろ」
エルジェーベトが一枚目を親方へ向けた。
親方は口を結んだ。
「読んでください。私が言えば、半人前の言い分なのでしょう?」
「幅三分。節の前後に、繊維の断裂なし」
「二枚目。節の配置と編み目数を」
隣の親方へ票が回る。
「三十六目。節の重複……なし」
「三枚目はまだ空欄です。先に、同じ荷をそちらの上等品へ移しましょう」
六つの穀袋を一つずつ下ろす。
私の大籠は元の形へ戻った。
旧式籠を中央へ置く。表面はなめらかで、節の痕もほとんどない。美しい。空なら。
一つ目。
二つ目。
底がたわんだ。
三つ目。
縁の一か所が内側へ傾く。
「置き方が悪い」
古参親方が袋へ手を伸ばした。
「同じ買い手、同じ穀袋、同じ載せ方です」
エルジェーベトがその手を止める。
四つ目。
節を削った箇所から、乾いた音がした。
縁ひごが裂ける。
片側が落ち、底組みが斜めに引かれた。三つの穀袋が傾き、四つ目が床へ転がる。
誰も拾わない。
先ほどまで私の籠を花入れにしようとしていた買い手が、壊れた旧式籠を見下ろした。
「装飾なら、あちらの方がよさそうだな」
古参親方の顔から、声まで削れた。
エルジェーベトが三枚目の用途欄へ書く。
公認実用品。穀袋六つの荷重に耐える。
続いて制作者欄。
ラドゥカ本人。助力なし。
三枚を重ね、端を揃えた。
「竹割り、底組み、縁留め。三工程の本人制作を確認しました。この三枚を独立登録の根拠票とします」
「独立登録?」
私の声だけが、ずいぶん間抜けに響いた。
姉が人垣から出てきて、封蝋のない依頼状をエルジェーベトへ渡した。
「依頼内容を」
「妹の独立検分。家名を制作証明に使わず、三工程を同一条件で検分すること」
「婚約の調査ではなかったのですか」
「あなた、婚約を断られるために四十本も抱えて椅子と戦ったの?」
「そこは忘れてください」
「市場台帳には書かないでおくわ」
姉にしては慈悲深い。
エルジェーベトは三枚を登録簿の上へ置いた。ただし、まだ綴じ紐へ通さない。
「旧評価と矛盾します。『装飾用』の訂正が完了するまで、登録は保留します」
古参親方たちの肩が、ほんの少し戻った。保留という言葉に逃げ道を見つけた顔だ。
早い。まだ出口ではない。
「先にこちらを」
オイシン様が一通の契約書を差し出した。
「独立工房は危険が多い。竹の保管、刃物の管理、受注時の荷重保証。既存工房へ統合するのが安全だ」
契約書の表題には共同工房契約。その下に、私の工房をオイシン様の工房へ統合する条項。
さらに婚約条項。
私の視線がそこへ落ちたとき、オイシン様は籠だけを見て言った。
「婚約は検分結果と無関係だ。私は籠にしか興味はない」
「そうですか」
「そうだ」
「では、この『統合』も籠の安全だけが目的ですね」
「当然だ」
筆を持つ右の親指が止まった。
三度目。
視線は契約書から、私の腰の工房鍵へ戻る。首筋だけに色がのぼった。
ああ、この停止はもう数えるだけでは足りない。
「その親指、また止まりましたね」
「止まっていない」
「では、その紙から『統合』を抜いてください」
「安全上、必要だ」
「私の工房の鍵は私が持ちます。売上は私の名義。受注権も私。給金は共同工房からではなく、それぞれの工房から。保管庫も帳簿も分けます」
「危険があれば?」
「助言してください。勝手に制作へ手を出した場合は、検分記録を壊した罰として私の工房の床掃除を七日」
「罰が妙に具体的だな」
「今、考えました」
「七日は長い」
「では十日」
「増やすな」
「婚約条項は残します」
右の親指が動いた。
統合の文字へ、二本線を引く。
工房を別々に維持すること。鍵、給金、売上名義、受注権を分けること。危険時の助言は認めるが、制作者の同意なく材料へ触れないこと。
オイシン様は全てを書き終え、署名した。
私はその隣へ名を書く。
エルジェーベトが契約書を受け取った。
「効力はラドゥカの独立登録完了時から。婚約条項も同時です」
つまり、まだ完成ではない。
エルジェーベトは旧台帳を開き、「装飾用」と記された頁を古参親方たちの前へ置いた。
隣に訂正票、補償算定票、監督付き再講習の受講票。
「旧評価者の署名を」
「当時の慣例では、節の見える籠を実用品と認めなかった」
「慣例で一目」
私は人差し指を立てた。
「我々だけの判断ではない」
「責任分散で二目」
「家の工房も異議を出さなかったはずだ」
「本人ではなく家名を見たので三目」
「若い職人を保護する意味も——」
「不当に売れなくすることを保護と呼んで四目。見事な籠です。底が抜けていますが」
買い手の一人が吹き出した。
「節の効能は、今日初めて証明された」
「一枚目と二枚目を読んでも、三枚目を見るまで欠陥と言い続けました。五目」
親方が口を閉じる。
「一節、二節と数えていたころが懐かしいです。慣例で三十七目まで行くなら、私も夕食に間に合いません」
「まだ五つだ」
オイシン様が言った。
「心の帳面では三十二目繰り越しています」
「どこからだ」
「椅子との敗戦は除いてあります」
「それは入れておけ」
古参親方が筆を取った。
訂正欄へ、節を残した籠は公認実用品として荷重に耐える、と書く。旧評価は検分不足による誤り。評価者本人の名で署名。
隣の親方も筆を持つ。
二人は補償欄を前に互いの顔を見た。
エルジェーベトが筆を最初の親方へ戻す。
「誰が困った顔をしたかは記録しません。誰が補償するかを書いてください」
旧台帳には、装飾用の評価を理由に取り消された注文が残っていた。個数、予定代金、値引きされた差額。エルジェーベトが一件ずつ拾い、逸失売上を算定する。
「この額は大きすぎる」
「失われた売上の額です」
「一括では工房が傾く」
「分割欄があります。免除欄はありません」
私は口を挟まなかった。
彼らの工房を潰したいわけではない。だが、私の売上で彼らの過ちを軽くして差し上げる気もない。籠の底だけでなく、情けの底まで抜けては困る。
親方たちは支払日と分割額を書いた。エルジェーベトが初回分を確認すると、一人が腰の金袋を外す。
硬貨が卓へ置かれた。
一枚。二枚。三枚。
旧台帳の数字が、音になって戻ってくる。
受領欄には私の名が入った。
最後は監督付き再講習の受講票だった。
「我々に、若造から教われと?」
親方の声がまた大きくなりかける。
オイシン様が検分役の印章を卓へ置いた。
声はすぐ手籠へ戻った。
「監督者は私と市場書記。教材の竹、作業時間、再検分料は受講者負担です」
エルジェーベトが続ける。
「合格するまで実用品の評価権を停止します。組合には残れます。制作と販売もできます。ただし、他者の用途判定はできません」
「追い出さないのか」
「誤評価をした手で、正しい評価を覚えてください」
私は答えた。
「私の工房で面倒を見るつもりはありません。椅子も足りませんので」
姉が咳払いをした。笑うなら堂々と笑えばよいのに。
古参親方たちは受講票へ署名した。
訂正。
補償。
監督付き再講習。
三つの逃げ道が、本人たちの名で塞がった。
エルジェーベトは訂正票を旧台帳へ綴じ、「装飾用」の文字に二本線を引いた。その横へ公認実用品と記す。
続いて三枚の検分票へ同じ登録番号を書き、綴じ紐へ通した。
「独立職人ラドゥカ。竹割り、底組み、縁留め。三工程の独力制作を登録します」
三枚目に公印が落ちる。
一枚目。
二枚目。
三枚目。
同じ印が並んだ瞬間、オイシン様との共同契約にも受理印が押された。
古参親方たちは、自分たちが飾り物にした名を、自分たちの署名で公認職人へ戻した。
さあ、きれいに揃った。
節は残した方が、よほど強い。
* * *
「装飾はいらない。穀袋を六つ運ぶ籠を一つ」
最初の正式注文をしたのは、旧式籠から穀袋を拾った買い手だった。
「一つでよろしいですか」
「まず一つだ。次は荷車へ二つ並べられる幅で頼みたい」
「承りました」
エルジェーベトが売買台帳へ注文を記し、売上名義の欄へラドゥカと書く。
家名ではない。
私の名だ。
工房へ戻ると、オイシン様が扉の前で鍵へ手を伸ばした。
「一本にまとめた方が紛失しにくい」
「契約書をお忘れですか」
「忘れていない。管理上の提案だ」
「却下します」
私は作っておいた二本目の鍵を、その掌へ載せた。
「鍵は二本です。一本にしたければ、まず扉を二枚に増やしてください」
オイシン様の指が閉じる。今度は止まらなかった。
婚約後も、工房は別々のままだ。
オイシン様は毎朝、私の工房へ来る。冬切りの竹には勝手に触れず、戸口からひごの本数だけを確認する。
「四十本。足りているな」
「はい。失言も一本増やしておきます」
「今のどこが失言だ」
「籠にしか興味がない方が、毎朝、私より先に私のひごを数えるところです」
右の親指が、鍵の上で止まった。
私は四十一本目として、きちんと数えた。




