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1.旅立ちの馬車

ごとん、ごとんと

一定の振動が身体を揺らす。

華岡大地は、

木製の座席に背を預けながら

ぼんやりと窓の外を眺めていた。

どこまでも続く草原。

風に揺れる背の低い草が、

波のようにうねっている。

遠くには丘。

さらにその先には

かすかに街の影が見え始めていた。

「……広いな、この世界」

ぽつりと呟く。

足元では、

スライム――ラステリが

小さく体を揺らしていた。

――マスター、

 つぎの街には

 ひとがたくさんいますか?

「たぶんな」

そう答えながら

大地はゆっくりと目を閉じる。

開拓村を出てから

半日ほどが経っていた。

最初は

未知の景色に胸が高鳴っていたが、

今は落ち着いて

いろいろなことを考える余裕がある。

この世界には

複数の大陸があるらしい。

そして

人の国、獣人の国、エルフの国、

ドワーフの国、魔人の国、魚人の国。

六つの種族が

それぞれ国家を築いている。

まとめて

“人類”と呼ばれているという。

地球とは

まるで違う世界だ。

だが

人が笑い、働き、苦しみ、

それでも生きているという点だけは

変わらないのかもしれない。

「……ダンジョンの扱いも

 なかなか面白いよな」

思わず苦笑する。

この世界では

ダンジョンは基本的に災厄だ。

魔物が溢れ、

時には街や国を滅ぼす。

だから冒険者が存在し、

ギルドがあり、

討伐や攻略が行われる。

だが同時に

ダンジョンは富を生む。

魔道具。

貴重な素材。

宝物。

そのため

完全に破壊されることは少なく、

利用されながら

恐れられている存在だという。

「人間らしい話だ……」

ラステリが

不思議そうに揺れた。

――マスター?

「いや、独り言だ」

さらに思い出す。

この世界には

教会という巨大な組織がある。

思想は単純明快。

魔物は排除対象。

ダンジョンは災厄。

ダンジョンマスターは異端。

つまり――

(俺は普通に

 見つかったら討伐される立場か)

そう考えると

少しだけ苦笑が漏れた。

だが不思議と

恐怖は湧いてこない。

それ以上に

胸の奥で燃えているものがあった。

期待。

巡業。

新しい街。

新しい観客。

まだ見ぬ歓声。

「……ワクワクしてきたな」

その言葉に

ラステリがぴょんと跳ねた。

――ぼくもです。

ほんの数日前まで

震えるだけだった小さな魔物が、

今は未来を楽しみにしている。

それだけで

胸が熱くなる。

その時だった。

右手の指輪が

わずかに脈打った。

「……ん?」

意識を向ける。

すると

頭の奥に静かな表示が浮かぶ。

【DP:増加】

【召喚:可能】

大地は小さく息を吐いた。

開拓村でのショー。

子供たちの歓声。

村人たちの笑顔。

それらすべてが

確かに迷宮を成長させていた。

「……次の街に着く前に

 団員を増やすべきか」

ラステリが

不安そうに揺れる。

――あたらしい仲間、ですか?

「ああ」

窓の外を見つめる。

街の輪郭が

少しずつはっきりしてきていた。

「巡業するなら

 演目は多い方がいい」

黒い指輪の奥で

星屑のような光が強く瞬く。

「……よし」

静かに呟く。

「この街で

 次の団員を迎えよう」

馬車は

ゆっくりと速度を落とし始める。

新しい舞台。

新しい出会い。

そして――

新しい運命が、

すぐそこまで迫っていた。

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