5.初めての外の世界
洞窟の奥に差し込む光は、
あまりにも眩しく感じられた。
華岡大地は思わず目を細める。
これまで薄暗い空間に慣れていたせいか、
外の空気はどこか現実感がなかった。
「……外だ」
ぽつりと呟く。
その足元では、
スライム――ラステリが不安そうに体を揺らしていた。
――まぶしいです、マスター。
頭の中に幼い声が響く。
念話にもすっかり慣れてきたが、
未だに不思議な感覚は消えない。
「大丈夫だ。俺も同じだよ」
そう言って、ゆっくりと一歩踏み出す。
湿った洞窟の空気とは違い、
外の風は乾いていて温かかった。
空は高く、青い。
遠くには低い山々が連なり、
風に揺れる草原が広がっている。
その光景を見た瞬間、
胸の奥に込み上げてくるものがあった。
「……生きてるな」
思わず笑みがこぼれる。
だがその安堵も束の間だった。
少し離れた場所に、
小さな集落が見えたのだ。
木で組まれた簡素な家々。
煙突から上がる細い煙。
柵もろくに整っていない畑。
近づくにつれ、
その村の状況がはっきりと見えてきた。
決して豊かとは言えない。
むしろ――貧しい。
畑は荒れ、
衣服は擦り切れ、
道を歩く人々の足取りは重い。
子供たちですら、
どこか疲れた表情をしていた。
「……開拓村か」
大地は小さく呟く。
新しく切り開かれた土地なのだろう。
資源も、人手も、
何もかもが足りていない。
その証拠に、
村全体に笑い声がほとんどなかった。
――マスター、こわいです。
ラステリが体を震わせる。
「……いや」
大地は静かに首を振った。
「怖いんじゃない。余裕がないんだ」
そう言いながら、
村の入り口へと歩み寄る。
すると、一人の中年の男が
警戒した様子でこちらを見た。
「……旅の人か?」
低い声だった。
だがそこに敵意は感じられない。
大地は少し考え、
素直に頷いた。
「迷ってしまって。
近くに洞窟があったので……」
嘘ではない。
ただ真実を全部言っていないだけだ。
男は数秒こちらを見つめた後、
ふっと表情を緩めた。
「そうか……それは大変だったな。
とりあえず中に入りなさい」
その言葉に、大地は少し驚いた。
もっと警戒されると思っていた。
だが村人たちは、
貧しいながらもどこか優しかった。
パンを分けてくれる老婆。
水を差し出してくる少女。
「大丈夫か」と声をかけてくる青年。
どれも小さな親切だった。
だがそれは確かに温かかった。
「……ありがとう」
何度目か分からない礼を言う。
胸の奥がじんわりと熱くなる。
ふと、周囲を見渡す。
村人たちは皆、
疲れた顔をしていた。
それでも優しく笑おうとしている。
だがその笑顔は、
どこか無理をしているようにも見えた。
その瞬間。
大地の中で、
一つの想いが形を成した。
「……ラステリ」
小さく呼びかける。
――はい?
「ここで……やろう」
自分でも驚くほど、
自然に言葉が口から出た。
「最初の舞台だ」
ラステリが、ぴくりと体を揺らす。
「この村の人たちに、
笑ってほしい」
歓声も、拍手も、
豪華な舞台もない。
だがそれでもいい。
小さなショーでもいい。
ほんの一瞬でも、
この人たちの顔に本物の笑顔が生まれるなら。
それはきっと――
迷宮が生きる意味になる。
夕暮れの光が、
村の大地を赤く染めていく。
その中で、
華岡大地は静かに決意した。
ここが、
自分の最初の巡業の地だと。
──さぁ、開演だ!




