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3.街に響く歌

街の中心へ近づくほど、

空気は明らかに変わっていった。

石畳を踏みしめる足音。

鉄の擦れる音。

武具の重さをまとった人々の視線。

「ここが……冒険者の街か」

華岡大地は小さく呟く。

足元ではラステリが

不安そうに体を揺らしていた。

――マスター……

 こわいです……

「大丈夫だ」

大地は静かに笑う。

「俺たちは戦場に来たんじゃない。

 舞台を作りに来たんだ」

やがて視界の先に

巨大な建物が現れる。

重厚な造り。

武装した者達が絶えず出入りしている。

冒険者ギルド。

大地は一瞬だけ息を整え、

迷いなく扉を押し開いた。

登録は驚くほど簡潔だった。

名前。

出身。

簡単な戦闘確認。

受付嬢から渡された

薄い金属プレート。

「これで今日から冒険者だよ」

その言葉を聞いた瞬間、

胸の奥で何かが静かに動いた。

(舞台の外側の資格は手に入れた)

だが

大地にとって本当に必要なのは――

舞台そのものだった。

ギルドを出た後、

人気の少ない路地裏へと足を運ぶ。

深く息を吸い込み、

黒い指輪に意識を向ける

そこには

迷宮の核がある。

そして

彼の力の源。

「……DP、使用」

次の瞬間。

淡い光が空間を走り、

何もなかった場所に

ゆっくりと形が生まれていく。

折り畳み式の舞台。

照明装置。

演出用の布。

観客の視線を誘導する配置構造。

まるで

“舞台そのものが意思を持って現れた”かのようだった。

ラステリが跳ねる。

――すごいです!

 ステージが生まれました!

「これが俺たちの武器だ」

大地は小さく頷いた。

「戦わずに

 心を奪うためのな」

夕暮れ。

街の小さな広場。

帰路につく人々。

酒場へ向かう冒険者。

誰もが忙しく通り過ぎていく。

その中央で

大地は静かにステージを展開した。

光が灯る。

布が揺れる。

そして。

大地は一歩前に出る。

胸を張り、

空気を支配するように視線を巡らせ――

「さぁ、開演だ!」

その声は

決して大きくはない。

だが。

不思議なほど

広場全体に響いた。

ラステリが

舞台中央へと躍り出る。

光を弾きながら跳ねる身体。

空中で描く滑らかな軌跡。

絶妙なテンポの連続技。

最初は無関心だった通行人が

徐々に足を止め始める。

「……なんだ?」

「スライムが芸してるぞ」

ざわめきが広がる。

拍手が生まれる。

笑顔が増える。

ラステリの演技は

観客の感情に呼応するように

さらに華やかになっていく。

大地は

その流れを静かに感じ取っていた。

(感情が……集まってくる)

それは確かな力だった。

サーカスの力。

広場の端では

フランが膝を抱えて見ていた。

目を輝かせながら。

「……きれい……」

ラステリの演技が

最高潮に達したその時。

ふいに。

澄んだ歌声が

夕暮れの空を震わせる。

フランだった。

戸惑いながらも

楽しそうに歌っている。

その声は

観客の胸に直接触れるように響いた。

疲れていた冒険者が

思わず笑みを浮かべる。

子供が手を叩く。

ラステリの動きも

明らかに軽くなる。

大地は静かに確信する。

「……そうか」

「お前も

 舞台を完成させる存在なんだな」

フランは

歌いながら嬉しそうに笑った。

やがて夜が近づき、

初公演は幕を閉じる。

観客達は満足そうに散っていく。

だがその時。

遠くから

慌ただしい声が響いた。

「ギルドに急報!

 外縁ダンジョンで魔物の異常発生!」

通りの空気が変わる。

「スタンピードの兆候あり!」

武器を抜く音。

走り出す足音。

戦いの気配が

街を覆い始めた。

大地は

静かに夜空を見上げる。

「……次の舞台は

 少し荒れそうだな」

その瞳には

わずかな高揚が宿っていた。

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