2.空から来た団員
街へ入る門は、思っていたよりもずっと大きかった。
石造りの壁。
重厚な木製の扉。
行き交う人々のざわめき。
開拓村とはまるで違う空気に、
華岡大地は思わず足を止めた。
「……人、多いな」
荷車を引く商人。
剣を腰に下げた冒険者。
露店で声を張り上げる商人。
生きるために動く人々の熱が、
街全体を満たしているようだった。
足元ではラステリが
落ち着かない様子で体を揺らしている。
――マスター……
ちょっとこわいです。
「大丈夫だ」
大地は小さく笑う。
「ここは舞台だ。
観客が多いほど、俺たちは強くなる」
その言葉に
ラステリはゆっくりと頷いた。
街の奥へと進みながら、
大地は右手の指輪に意識を向ける。
開拓村で得た感情。
歓声。
驚き。
笑顔。
それらは確かに
迷宮を成長させていた。
【DP:蓄積確認】
【召喚:実行可能】
静かな表示が浮かび上がる。
「……やるか」
人通りの少ない路地へと入り、
大地は足を止めた。
石壁に囲まれた
小さな空間。
ここなら
目立たない。
「ラステリ」
――はい。
「新しい団員を迎える」
その言葉に
ラステリの体がぴくりと揺れる。
――どんな子でしょう。
「さあな。
だがきっと、
このサーカスに必要な存在だ」
大地はゆっくりと
右手を掲げた。
黒い指輪の奥で、
星空が脈打つように輝き始める。
「……来い」
魔力を流す。
空気が震える。
地面に淡い光の円が広がり、
風が渦を巻いた。
次の瞬間だった。
――どさっ!
空から
小さな影が落ちてきた。
「うわっ!?」
反射的に両腕を伸ばす。
受け止めたのは
幼い少女だった。
淡い羽根。
軽い体。
まだ幼さの残る顔立ち。
ハーピー。
少女は
しばらくきょとんとした顔で
大地を見つめていたが、
やがてぽつりと呟く。
「……とと?」
「え?」
理解が追いつかない。
だが次の瞬間。
少女はぎゅっと
大地の服を掴んだ。
「とと……」
その声は
どこか不安げだった。
まるで
この世界に一人で放り出された
小さな子供のように。
大地の胸の奥が
静かに揺れる。
右手の指輪が
淡く光を帯びた。
頭の奥に
情報が流れ込む。
【召喚成功】
【種族:ハーピー】
【特性:バファー】
【特性:歌唱】
支援型。
戦闘向きではない。
だが――
それでも。
この子は
確かに自分を頼っている。
ラステリが
不安そうに揺れる。
――マスター……
大地はゆっくりと息を吐いた。
「……安心しろ」
少女の頭に
そっと手を置く。
「今日からお前は
俺たちの団員だ」
少女は
きょとんと目を瞬かせる。
「だんいん……?」
「ああ」
そして
少しだけ考えてから言った。
「名前が必要だな」
黒い指輪の奥で
星屑が静かに瞬く。
大地は空を見上げる。
風。
羽ばたき。
歌。
舞台に
新しい色を与える存在。
「……フランだ」
少女の体が
ぴくりと震える。
次の瞬間。
ふわりと
空気が震えた。
「ふらん……?」
「そうだ。
今日からお前はフランだ」
少女の表情が
ぱっと明るくなる。
「ふらん!
ふらん、ととすき!」
思い切り抱きつかれ、
大地は思わず苦笑した。
ラステリが
少しだけ安心したように揺れる。
――フラン、ですね。
少女は
空へふわりと浮かび上がる。
だがすぐに
「きゃっ」
と落ちた。
「……大丈夫か」
「へへ……」
照れ笑いを浮かべながら
少女――フランは立ち上がる。
まだ未熟。
まだ弱い。
それでも。
大地は確信していた。
この子も
活躍出来る子なのだと…




